活キハ善ィ善ィ 弐

 ドラドラ……トントン……

 ギィ……トントン……

 艮様ガ通リャンセ……

 白々…トントン……

 ジィ……トントン……

 リャンメン粛々通リャンセ……



 奇妙なお囃子に似た音と、不気味な声が、背後の石段、振り返った先の薄暗がりから、遠おく、遠おく、響いてくる。


 その音には、その声には、脱脂綿に染ませたような、滴る悪意が含まれていて、その気配に肌が粟立ち、私は居ても立ってもいられなくなった。


 いかん……いかんぞ……!?

 コレは善くない。

 大層善くない何かがいるのは間違いない。


 鎮守の森に逃げ込もうか?


 見遣った其処は黒ぐろとして、魔の棲家というのが似つかわしい。


 しかれど下には声の主。以ての外。


 仕方無しに見上げれば、霧の奥まで続く長い長い石段が待ち構えている。


 ぎゃあぎゃあぎゃあと鴉が哭いた。


 バタバタバタと風に旗がはためいた。


 ええいままよ……!


 石段に足をかけた丁度その時、足下に転がる麻袋から声がする。


 性別も判らぬほどの酷い嗄れ声。


「もし……そこのお方? 誰ぞそこにいらっしゃるのですか?」


 ひぃぃいぃっ……!?


 思わず腰を抜かしたが、麻袋はなおも話しかけてきた。


「ああ……これは助かりました……此処に置き去りに去れて、随分になります……何度も何度も酷い仕打ちを受けて、それはそれは辛く苦しく、死を願うほどでした……どうぞそこのお方……この私めに憐れみをおかけになって下さい……じきに奴らがやって来ます……そうなればまた、私は責め苦に苛まれます。そうなれば私は……永劫あなた様を呪うでしょう……」


 し、支離滅裂だ!

 夢だ!

 これは質の悪い夢だ!


「夢ならどれほどよかったでしょう……しかしあなた様も私も、決して夢など見ておりません。現実です。これは現実なのです。あなた様も、しでかしたんでしょう? だから此方にいるのでしょう? どうか道連れに私を連れて行って下さいませ……後生ですから、後生ですから……」


 酷く切実に頼み込む麻袋に、私はほとほと困り果ててそうっと指で小突いてみた。


 すると、麻袋は身を捩るように蠢いて、酷く辛そうな声を出した。


「あなた様も、私をお責めになるのですか……? 咎人の分際でありながら、私をお責めになるのですか……?」


 馬鹿な!

 誰が咎人だ!

 私はこの國と組合の為に身を粉にして……


 そこまで叫んで口籠る。


 直ぐ近くの石段からザリザリザリザリ……と、草履が地を擦る音がした。

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