保存食が欲しいのだ

 「ん〜」


 朝早くに起床。 

 昨日は結構モヤモヤとした時間を過ごしていたから体がムカムカする。

 よって、今日は保存食の為の狩りに出かけようと思う。



 「あっ、ノア」

 「おはよう、リーファ」


 まだ早朝だと言うのに、やけに冒険者たちが依頼ボードの前をうろちょろしている。

 ──そんな様子を見ていると、ポンポンと肩を叩かれた。

 横見している俺を察したのか、リーファがコソコソ話を始めてくれた。

 

 「やっぱりみんな只ならない様子は感じ取ってるみたいだね」

 「ま、そっか」

 「ノアは知ってた感じ?」

 「まぁ、風の噂で」


 流石に確定で知ってましたー! とは言えん。


 「にしても多いな」

 「みんなどこも保存食が無いところがほとんどっぽいね」

 

 机に頬杖を付いて不敵な笑みを浮かべるリーファ。

 だがその直後、悩ましそうに長い溜息を吐いて、眉をひそめている。


 「今年は不作だったか?」

 「まぁね。これは内緒だけど、ギルドも結構打撃強めなの。例年よりも若者が死んだせいで、あまり収穫が無くて」

 「そうなのか」

 「うん。だからみんな支柱がないことを悟って自ら狩りに行ってるか、ああやって臨時パーティーを募って効率を上げようとしてるかの二択って状態。リドルさんたちのような強いパーティーはあまり関係ない話だけど」


 彼らはパーティーハウスというみんなで住むシェアハウスに近い施設がある。住んでも住まなくてもいいが、パーティーで動いたり稼いだものを置いておいたりする場所がある。

 だから保存食は恐らくかなり貯蓄されているはずだ。


 「1本取られたな」

 「⋯⋯ええ。いつもやってもらってるから文句も出ないけどね」


 今年もリドルたちが大量の間引きをやってくれたおかげで、今以上に若者が死なずに済んでいる。

 その対価として、肉屋にサービスしたり、自分たちのハウスに置いたりと、あそこはかなり今年は余裕があるだろうな。


 「それで? そんな中突然早朝にソロで現れて⋯⋯保存食目的?」

 「正解」

 「そう」


 ふふっと控え目に笑うリーファ。

 彼女はギルドの顔というのもあって人気が当たり前だが高い。


 「⋯⋯⋯⋯」


 背後からの殺意が高ぇ。主に依頼ボードの方から。

 

 「そうね。今ならジャイアントボアとかどうかしら?小遣いついでに」

 「アホな事言うな。それは銀ランク4くらいの依頼だろう」


 ランクは5段階に分かれていて、昇級試験に合格すれば、次という方式だ。

 ⋯⋯それをコイツ、勝手に上げる目的でわざと違うのを持ってきやがった。


 「あら?貴方なら十分可能でしょう?」


 わざとらしく目をぱちくりさせて依頼紙を見せてくる。


 「やめてくれ。俺は銅ランク2とか3の下っ端中の下っ端だ」

 「⋯⋯そうやっていつまで隠して通せると思ってるの?いい加減上げなさい」

 「はぁ⋯⋯」




 ラッシュボア。通称暴れ野郎と呼ばれるこの個体は、とにかく気性が荒く、視界に入った生物すべてを敵と認識する生き物だ。

 この世界は弱い者へのあたりが強すぎる。

 ゴブリンですら死ぬ人間がいっぱいいるのに、こんな暴れるヤツの対処なんざ誰がしたいんだ?って話だ。


 「⋯⋯っと!」


 闘牛士のように寸止めで突進を回避する。

 まぁ、強いが知能はまぁまぁ以下。

 方向も読めるし、冷静に戦えば問題ない生物。


 「良いじゃない。その調子だ」


 呻くボアに、俺は久しぶりの開放感と共にロングソードを抜く。

 

 「ふっ!」


 ボアよりもこちらが先に地面を蹴って、"ほんの僅か"、力を使う。


 「驚いたか? だが初見殺しは一回しか見れないから初見殺しなんだ⋯⋯残念だったな」


 単純に、俺とボアの距離をカットして急所を狙って突き刺しただけだ。

 移動だけに使うだけでも、十分な効力を発揮するこのギフトは、神様に感謝しかない。


 「よし、この調子で特大魔法鞄に詰めていくとするか」


 ギフトは、今はまだ単純な物しかないが、その内細かいところまで使えるようになることを知っている。

 ドンドン練度を上げていかないとな。


 「⋯⋯ん?」


 近くで誰かが戦っているようだ。

 念の為誰か見に行こう。



 「っ、おーい! オンド!」

 「ん?おぉ⋯⋯ノアじゃねぇか! 半年以上ぶりじゃねぇの?」

 「大分だなぁ。近くで戦ってる音が聞こえたもんで、ちょっと様子見に」

 「そうか。アイツらも元気だぞ」


 と、オンドが振り返って仲間のみんなに手を振る。

 彼らは"鉄壁の盾"というこの街では上位パーティーの一角を担っている。

 いわゆる大手ってやつだ。オンドたち初期メンバーは俺と同期で、全員がギフト持ち。

 貴族からの勧誘も色々あるそうだ。当時もそんな感じで既に人気の連中だった。


 「とりあえず解体だけ先しちまうわ。ノアは街に戻るか?」

 「その予定。どっかで一杯やる?」

 「うちのパーティーハウスに来いよ。うめぇ酒とツマミがあるからよ」

 「それなら楽しみだ。手伝いはいるか?」

 「⋯⋯おぉ、ならあっちの新入りの面倒ついでに血抜きのやり方を後ろで見てやってくれよ。アイツ三ヶ月もやってんのに全然変わんねぇから」

 「オンドの教え方が雑なんじゃねぇの?」

 「否定できねぇや」

 

 苦い顔をして引き攣ったオンドを一瞬詰めて、俺は新入りに色々教えてやった。

 確かに、色々不器用でまだまだ時間がかかりそうだ。 


 うん? もしかして俺も⋯⋯教えるの下手なのか?

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