大豆♪大豆♪
「ん〜!」
窓から差し込む光で、俺は目を覚ます。
前まではすっかりアラームで起きないとなんて人生だったが、今じゃ自然と一体だ。
こんなことで目が覚めてしまう。
季節はがっつり肌寒いのは終わりを迎える頃だ。
そんな俺は今日、大豆の実験へと向かう。
婆ちゃんか誰かが味噌を作っていたから、大方やり方は覚えていたので、今日はそのままのやり方でやってみようと思う。こっちにはギフトっつーチートがあるし。
「あらおはよう、ノア!」
「ゾネさんおはよう、もう春も過ぎそうだけど、売り上げは順調?」
「まぁぼちぼちよ。最初は調子良かったけど、帰ってこない子達が多くてね⋯⋯」
「⋯⋯そっか」
「あ!そういえば、ノア料理が上手なんだってぇ?今度美味しい調理の仕方があったら教えてちょうだいよ!」
「あーいいですよ。機会があれば全然!」
言葉が終わる前に、ゾネさんが身を翻して厨房へと向かった。次の瞬間、座った俺の前に広がるのは。
ゾネさん特製朝からステーキどーん!!
彩り野菜ど〜ん!!
「うえっ?」
デカかった言葉を飲み込み、目の前のビルダー並の食事を目にしながら向き合う。
「ご馳走様でした」
しっかり食事の儀式をして、街の外へと繰り出す。
「よし」
加速のおかげで、味噌作りに着手する速度がほぼカット出来るのはヤバ過ぎる。
作り方は覚えていると言っても曖昧だから、ちょっと不安は残る。
まぁ何はともあれ、やってみるのが一番。
塩はあるので、この間買った豆と普通の塩。
麹が死ぬほど代用になるものがなくて途方に暮れたが、果物を細かく切り刻めばいけるんじゃないかと今回は代用した。
これが上手く行けばどうにかなる。
大豆を水に浸し、大鍋に水を張り布を敷いたザルを載せて即席の蒸し器を作る。大豆を広げ、蓋をして蒸し始める。
蒸している間、細かく刻む。不安だが、なんとかなるはずだ。
蒸し上がった大豆は熱いが、構わず手で潰していく。指の間からこぼれる豆の感触が懐かしい。潰した大豆に塩と刻んだ果物を混ぜ合わせ、石の棒でさらにすり潰す。
「あぁ⋯⋯地球だったらもう筋肉痛だったな」
フィジギフはありがてぇよ。
混ぜ終わったら、再び加速を使って発酵を促進。少しずつ匂いが変わり、見た目も記憶の中の味噌に近づいていく。
「感動だ⋯⋯!全てはこの時の為だったと言っても過言ではない」
若干の風味は違うのは異世界だからだろうが、出来上がったものを手で舐める。
うん。塩と旨味がコラボしてるわ。間違いない。
「これで⋯⋯味噌汁⋯⋯」
男泣き。俺はあまりに日本食が食いたいと死ぬほど願ってきて13年掛かった。
家庭の味と言えば味噌汁だろう。
俺はこの味を記憶から削除される前に早く口にしたくて、したくて堪らなかったんだ。
「とまぁ感動と共に、稲の実験もしないとだよなぁ⋯⋯あとは豆も量産する必要がある」
今回は果物で代用出来たが、麹は豆麹とかいう名称になりそうだな。
豆の多用の為にも、土地は必要だな。
「となると⋯⋯やっぱりすぐ必要になるな」
地下だったら行けるか?
最悪誰かの力で爆破すれば証拠も消せるし、色々便利だ。
地下帝国っていう名称があるくらいだし、こっからだな。
いいねぇ⋯⋯。裏でありえんくらい地下で力を蓄える一般平民A。彼の力はどこまで手が伸びていくのか⋯⋯!
「妄想は終わりにして⋯⋯帰ろう」
魔法鞄に詰めて、俺は街に戻った。
「うお⋯⋯なんか滅茶苦茶並んでるな」
もう夏手前なはずだがな。なんでこんなに並んでるんだ?
「あれ?ノアー!」
「おおーレガッタじゃん。今日はソロ?」
最後尾で待機していると、かなり前の方にいたレガッタが手を振ってわざわざ後ろまでやってくる。
そこまでしなくてもいいのに。しかも、何と言わんがブルンブルンしとる。
走り去る横の男の視線を掻っ攫ってるがな。
頼むから目立たないでくれ。あとで俺が殺気立てられて気まずいんだから。
「ソロだよ!パーティーもあるんだけど、今日は先に色々やりたい事があったら⋯⋯えへへ」
「そうか。そういえばこの長蛇の列はまたなんで?知ってる?」
「私も分からないんだよね⋯⋯」
とは言ったものの、レガッタが耳打ちしてくる。
「でもデマかもしれないけど、情報は入ってきてるよ」
「⋯⋯どんな?」
「今戦争が始まろうとしてるって話。境界にここ少し近いでしょ?みんな変装してここで準備しようとしてるんじゃないかって噂立ってる」
「まじ?」
「マジ」
3年前にも一時的にだがあったよなぁ。
あの時は食糧を運ぶ係に配属されて無理矢理体力ないフリしてたけど、さすがに厳しそうだしなぁ⋯⋯
「結構みんな色々買い漁ってるって」
「デマでも事実でもこういうのは早い方がいいな」
「ノアはどうするの?」
「んー、迷ってる。別に俺はギフト持ちでもないし、特別強い訳でもないから、また食糧班にでも入って後方で居ようかなって」
「んー、私達も呼ばれそうだし、色々準備したほうが良さそうだね」
「まぁそれが事実ならな」
そんな世間話をしている間に、順番が回ってくる。
「おっ、ノアじゃねーか!」
「ルドさん、今日も忙しそうだね」
「あぁ、最近外からの客が途絶えなくて暇じゃねぇよ⋯⋯」
「確かにゲッソリしてるね。あとで差し入れでも持ってくるよ」
「あぁー。助かるよ」
そんな軽い会話を交わし、街に戻った俺は、早速噂が事実なのかどうか、身近に知ってそうな所へと向かう。
「恐らく確定かと」
「マジか⋯⋯」
「私が聞いた話ですと、早ければ来の月がやってくる前にはと予想しています」
てことはあと2週間もねぇのか。
事実なら早めにしておかないとな。
「色々買い漁ったりは?」
「既に最低限必要な物資は調達済みです」
「さすがヴィンセントだ」
「いえいえ。ここまで来れたからには、それくらいの手腕を発揮できなければ」
したら大きな焦りはしなくても良さそうだな。
と、
「穀物で面白そうなものが入ったら一報寄越して欲しいと連絡したが、何かないか?」
「いえ、今の所はないですねぇ」
「そうか⋯⋯」
「何かお急ぎで必要なものが?」
「ん?いや、品種改良を試みたかったから色んな種類が必要だと思ってな。俺も具体的な名称を知らないもんだから」
「失礼ですが、拝見しても?」
鞄から稲を取り出してみせた。
「ほう⋯⋯これはイスダというレンシアの向こうにある島国の物のようですね」
「知ってるのか?」
「商人歴も長いものですから」
しまった!もっと早くここに来れば良かった!
「類似品の取引を積極的に行えたら頼む。あとはその島国からの売り出しには目を光らせてくれ。これは完全に俺の趣味だがな」
「承知致しました。しっかりと光らせておきます」
さて、濃厚なこの感じ⋯⋯どうなるだろうか。
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