しつこい類友

 「おーいー! ノアー!」

 「なぁ、ノアぁー!」


 「ううううるさいなァァァ!!朝から誰だよ!」


 おはようございます。見ての通り、下手したらプライバシーの欠片もない程部屋の前まで平気でやってきては、こうして近所迷惑をしてくるおじさんがいるのです。


 「俺だよ? アリィくんだよ!」

 「いつからそんな軽口を叩けるようになったっけ!?」

 「ワリィワリィ、開けてくれよ〜」


 朝からなんだよ。全く。


 「ん?」

 「よっ!」

 「すまんな。ノア」

 「リドルの兄さん? 二人してどうしたの。まぁとりあえず入ってよ」


 コイツだけだったらあれだが、リドルまで居るとは思わなかった。暴言は撤回だ。

 寝ぼけながらだが、時間を見る。

 まだ朝の6時半だが⋯⋯?


 「おう、すまんなノア」

 「俺の時だってこれくらいやってくれよ〜」

 「うっせぇよお前は!」


 とりあえず上等な水をお出ししてベッドに座る。


 「それで?昨日のあれが忘れられず、リドル兄さんにその話題を出したと」

 「おう」

 「リドルの兄さんはそれを聞いて飯が食いたくなったのが2時間前くらいだと」

 「そうだな」

 「さすがにあれだから朝方にすればいいんじゃね?と」

 「「おう」」


 さすがに脳筋すぎんか!?

 昼間でいいじゃねぇかよ!

 

 「ここでどうやって作るんだ?アリィ」

 「そりゃあ今から行くんだよ。俺の家に」

 「あぁ⋯⋯じゃなくて」

 「ん?」

 「今日の俺の予定とか知らねぇって?」

 「どうせお前も暇だろぉ?」


 ⋯⋯⋯⋯はい。


 


 「ノアよ、お前さん⋯⋯うちの娘と結k⋯⋯」

 「しませんよ!?」


 二人は細身ではあるが、肉体はかなり鍛えられている。

 よって作る茶碗蒸しの量も必然的に増えていく。

 容器が小せえ。


 「のうアリィ、お前魔術で容器とか作れんのか?ノアの労力はかなりの物になりそうだぞ?このままでは」


 隣で覗いていたリドルが有り難いお言葉を掛けてくれる。


 「魔力使いたくねぇ⋯⋯」

 「殺すぞお前」

 「はいはい、作ればいいんでしょ?」


 まぁここで少し説明しよう!

 この世界には魔術師、というものが存在する。

 この世界の人間には基本的には魔力が体内に流れているのだが、それを使って出来るのが魔術なのだ。


 しかし、そこで疑問が生じる。

 ならみんな使えるじゃん。 

 Perfect。そうです。みんな使えるんです。

 しかし? その術式や意味、魔力の大小によっても変わってくるので、ほとんど貴族しか使えないというのが現状でございます。


 ギフトでも行使可能だ。

 しかしそれは、『魔法』になる。

 よって魔術ではない。


 魔術は体系化しているし、魔力と知識があれば再現可能な所謂プログラムに近い物に対し、魔法は願うだけで魔力を使えば具現化させる事ができる正真正銘チートでございます。

 ま、ギフトでそこまでの能力を与えられている人間が果たしてどれだけいるか、だが。


 「制御バージ

 「おぉ⋯⋯本業の力はさすがに驚くな」


 俺もしっかりと魔術を見るのは初めてだが、土の魔術みたいだ。机の上で用意された土達が物理法則を無視した動きで形成を始める。


 「ふぅ、とりあえず酒が⋯⋯」

 「バカタレが。容器を作らんかい!」

 「はいはい作るよ」

 

 鉄を持ってきては俺が要望した感じのザルに近いものを作成してくれる。

 魔術は不思議だ。


 「ほいよ、どう?」

 「ん。大丈夫なはず」

 「溶けたりするのがアレかと思うから、耐熱は付与してあるから」


 やべぇ。こいつ優秀だな?さては。


 「ふぅ⋯⋯」

 

 朝の伸びを行い、準備完了。

 そしたらこっちもやっていきますか。



 「ほいよ、大きめの茶碗蒸し。まずは二人分。このままドンドン作るから」

 「「おぉ⋯⋯!」」


 良い歳こいたおじさん二人が茶碗蒸しに驚いているのは面白い光景だが、鏡張りに張り付いて食いつくように見ている子供の絵面のように、この世界では味が死んでいる。

 まじで匂いと旨味という成分はマジでない。


 「ほぉ! ノア、料r⋯⋯」

 「なりませんよ!?」

 「専属で来るなら特別待遇なんだがな⋯⋯」

 「おいリドル! そんなこと言ってないで、早く食えって! ぜってぇ虜になるから!」


 隣でかき込むアリィに、リドルも思わず目をぱちくりさせてその異様な光景に声が出ていない。


 「まさかあのバカ舌で有名なコイツが、こんな顔をするとは」

 「とりあえずリドルの兄さんもどうぞ」

 

 そこの馬鹿と違って、リドルは綺麗に見た目を堪能し、スプーンで掬う。やはり固まっているがぷるぷるしている現象に驚いているようだ。


 「っ!」

 

 髭がブワッと揺れた。リドルは髭をメチャクチャ大事にしている。髭に付いた食べかすを気にせずに淡々と口に入れていく様子は、言うまでもないだろう。


 「アリィが言うのも頷ける。単純な味ではない繊細さがある。しかも軽くてあっさりもしておる。女が食べるにはもってこいの食事になりそうだな」

 「しかも、卵が入ってるから、栄養も良いよ」

 「⋯⋯ノアお主、栄養の有無も理解しておるのか?一体どこで勉学など学んだのだ?」


 前世⋯⋯なんて言えん。あはは。


 「まぁ色々?」

 「コイツの秘密主義は今に始まった事じゃないだろ。ま、冒険者なんてみんな訳ありだからな」

 「否定できんな。俺も早くから親を亡くしておるし、パーティーの奴らも似たようなもんだ。ビビとレガッタ、あと数人の今若いのは田舎から出てきたくらいだからな。あとは皆腐った家庭から脱出したくて集まる世界だ」

 

 親が愛情を持って育てているのなんて一部。みんな大体金や地位の為に仕方なく子供を作ったりするくらいだ。

 なんつー世界だよなんて言いたいが、これが現実だと知って、だいぶ最初は萎え散らかした記憶しかない。


 「ノア、俺が言うのもなんだが、食わなくて良いのか?」

 「どうせまだまだ食いたいんでしょ?」

 「「おう」」

 「はいはい。ある程度までは後回しって事で」

 

 これが旨味の余裕ってやつよ。

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