第4話 猫様との再会
それからは特に会話をすることなく、ただただ七海の後ろを歩いていた。
まあ、あんなことがあったんだ。俺も恥ずかしかったし、七海も突拍子もない行動をしてしまったから少し驚いているのだろう。
気づけば、住宅街のようなところに着いており、人数も減っていた。実に野良猫がいそうな環境だ。小路もある。
「先輩」
七海が急に足を止めた。
目の前には木造の一軒家が佇んでいる。
「着きました。ここが目的地です」
「ほ、ほう?」
目的が分からない以上、どう返していいかわからない。そんな風に戸惑っていると七海がその家のインターホンを鳴らし始めた。
『はーい』
「七海ですー」
『あー紗季ちゃんね、ちょっと待っててね』
家主と
こんなところに知り合いがいたなんて意外ではある。もしかして、俺の知らないところではアクティブなのだろうか。
そんなことを思っていたら、扉の奥からおばあさんが出てきた。
「あら、紗季ちゃん。今日もありがとね」
「いえいえ、お互い様ですよ」
「その隣にいるのが例の先輩さん?」
「はい、高宮先輩ですっ」
「あ、どうも」
何のことかも分からずも軽く会釈した。
ぎこちなかったにも関わらず、おばあさんは顔色を変えずにニコニコしている。優しそうな装いに気が緩んでしまいそうだ。
「ささ、入ってちょうだい。あの子も待ってるから」
「あの子?」
「見たらわかりますよ。先輩もよく知っている子です」
「そう、なのか」
ここまで連れてきて知らないなんてことはないのだろう。とはいえ、知らない人の家に上がるのは少し気が引ける。
恐る恐るおばあさんの敷居を跨ぐ。
特に他の家と変わった様子はないけど、どこからか鈴の音が聞こえてくる。
「ここに座って待っててね。今連れてくるから」
「はい、ありがとうございます」
リビングに連れていかれ、前にあったソファに促された。
座ってみると、ここまでの疲労がどっときたのか体重がかかる。思いの外フカフカでこのまま寝てしまいそうだ。
「ん?」
さっき玄関で聞こえていた鈴の音が近づいてくる。風鈴でもあるのかなと思っていたけど、この様子だと違うようだ。わざわざ風鈴を持ってくるわけもあるまいし。
「はいよ、連れてきたよ」
どんどん鈴の音が大きくなり、リビングの前でその音は止んだ。その方向を見ると、見覚えのある猫を抱えたおばあさんがいた。
「あの子、もしかして……」
「昨年、先輩と一緒に保護した猫です」
落ち着いた口調で七海が言う。
大きくなってはいるけど、確かにあの時保護した猫に違いない。まさかここで生活しているなんて。
おばあさんは七海に近づいて猫を差し出した。
「はい、紗季ちゃん」
「わーい、久しぶりだね」
「にゃあ」
甲高く鳴く猫は七海に懐いているようで、足をバタバタさせることもない。
出会った当時とは明らかに成長している。毛は短いけどもサラサラで、確か雑種のキジトラだったか。目も丸く、顔も丸い。とてもかわいらしいフォルムをしている。あの時のことを思うと、ここまで大きくなってくれたことは感慨深い。
「ほら、先輩も」
「え、大丈夫かな……」
猫と馴れ合うのは気を許した人のみ。初対面で関わろうなんて到底難しい。しかも、まだ生後1年半ぐらいなのだから怯えてしまう可能性もある。
正直、俺がこの空間にいてもいいのかと思ってしまうレベルだ。
しかし、さっきから目を合わせているけど、視線を逸らしはすれど逃げはしない。
「大丈夫よ、その子はきっと覚えてる」
「そう、ですかね……」
おばあさんの言葉に後押しされ、猫にゆっくりと手を伸ばす。
そのまま背中を撫でるように触れた。猫は鳴くことなく、そのままじっとしている。
「やっぱり覚えてるんだね」
「そうなのかなあ」
「そうですよ。おばあさん、先輩に抱っこさせてもいいですか?」
「大丈夫よ」
「ということなので、ほら」
「え、ちょっと、待っ……」
「んにゃ」
七海は猫を俺の膝の上に乗せてきた。さすがに猫も驚いたのか、その場には静止せず床に身を落とす。
しかし、そこから移動しようとせず、俺の足元で腹を見せて甘えてきた。
「にゃあ」
「ふふ、ちょっとその子と遊んであげてね」
「は、はい」
遊べと言われてもどうしたものか。
「にゃにゃ」
「ほれほれ」
すぐに七海は猫じゃらしを手に持って猫と遊び始めた。
猫はバタバタと前足で猫じゃらしを叩いている。
ああ、やっぱ猫はいいな。
「どうしたんですか先輩、一緒に遊びましょ」
「そうだな」
俺は七海に渡された猫じゃらしを前に置いた。
それを見つけた猫が即座に反応し、猫じゃらしの前で尻をフリフリしている。
いやあ、これは猫カフェでは味わえない癒しだ。野良猫と会う機会もあるけど、こんな懐くことはない。
これはこれで、いいものだ
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