第一七話 ヴェルナー対サンドラ家当主
ヴェルナーが無理矢理、メイリースを森に連れてきてから五分が経過した頃。
「メイリース!」
「お爺ちゃん!」
メイリースの祖父であるザッケロが現れた。
「一緒にいた部下はどうした?」
「いずれ来るじゃろうて」
ザッケロはヴェルナーの問いに答えながら半身で構えた。
「孫を助けるために一人急いで来たわけか」
(なんじゃ……こいつの余裕っぷりは……魔力量は自分の方が圧倒的に上なんじゃが)
構えもせず棒立ちで話を続けるヴェルナーを不気味に感じているザッケロ。
「ザッケロ、メイリース、なんでミストゥル家にいいように使われているんだ? サンドラ家はファブニル家のように独立してたはずだ」
「そうしなければ滅ぼされるからじゃ」
「脅されたのか? 領地を取られると?」
「それもそうだが人質を取られておる! わしの息子とその嫁じゃ」
ザッケロは両拳を握ってわなわなと震わせた。怒りのあまり爪が手に食い込んで血が滲んでた。
(こいつの息子とその嫁ってことはメイリースの両親か)
「息子夫婦を捕まえているのはイーグロか?」
「そうじゃ」
「なら倒せばいいじゃないかイーグロを、倒して自由の身を確保した後に皇帝に直談判したらいい。表向きは魔術師の領土争いは禁止されているからな」
「そんなことできるわけが!」
ザッケロはイーグロを倒せるなら倒して、とうに自由の身を確保していると言いたかった。
「だろうな……ジジイじゃ無理だ。イーグロは俺が倒す、だからサンドラ家は手を引け」
「へっ⁉︎」
ザッケロは素っ頓狂な声を出した。さっきからこいつはずっと何を言ってるんだと思うばかりであった。
(本気だ、この人本当にミストゥル家の団長を倒そうとしてるんですね……でもどうやって?)
メイリースはヴェルナーから強い意志を感じてから彼が出鱈目を言っていないとは思っていると同時に不可能でもあると思っているのでイーグロをどう倒すのかが気になっていた。
「残念じゃが、お前さんを信じれん」
「なら、実力で分からせるまでだ」
「舐めるな小童!」
二人は魔力で体を硬化させ身体能力を強化させた。その後、二人はお互いに駆け寄り肉弾戦を開始する。
ザッケロの蹴りをヴェルナーが蹴りで受け止め、激突した瞬間、魔力が辺りに弾ける。
「……」
力は魔力量が上のザッケロに分があるのでヴェルナーが後方に飛んでしまうが彼は上手く着地した。
(こやつ、わしの蹴りを受け止めて、わずかに横に逸らして勢いを殺しおったわ)
ザッケロはヴェルナーが肉弾戦に慣れていることを把握しつつ肉弾戦を再開する。
ザッケロは蹴りと拳を繰り出し、ヴェルナーは辛うじて相手の力を逃すように攻撃を受け流していたが徐々に後方へと後退していた。
(お爺ちゃんに押されてるけど、どこか余裕そう)
メイリースはヴェルナーが涼しい顔をしていたのが気がかりだと思った、その瞬間、ヴェルナーの足元が黄色く光る。
「なんじゃ⁉︎」
ザッケロは目を見開き、ヴェルナーを注視する。その間、ヴェルナーは手早く詠唱を開始する。
「『上級結界魔術・
ヴェルナーはあらかじめ展開した魔法陣を元に結界魔術を発動させた。結界魔術を発動させるための魔力はヴェルナーの魔力ではなく、早朝に森にきたときにばら撒いた魔石由来である。
(上級結界魔術!)
ザッケロは相手が高度な魔術を使えることに驚く。
(聞いたことない魔術じゃが、感じ取れる魔力からして雷属性魔術による攻撃がくる!)
攻撃速度が速い雷属性魔術による攻撃がくることを危惧したザッケロは後方に下がるが、
「ぐあっ!」
魔法陣から発する一条の稲妻をその身に食らう。ふらついたザッケロはさらに稲妻をその身に食らうと苦しげな声を上げる。
「お爺ちゃん!」
「ぐっ、稲妻単体の威力は強くないが、このまま食らうとやばいの」
心配そうな面持ちをするメイリースと両膝に手をついて辛そうなザッケロらに追い討ちをかけるようにヴェルナーは口を開く。
「この魔術の発動時間は無制限ではあるが雷の放出は三〇発と限られてる。そして卓越した魔力操作が行えるものが術者ならその雷の力は一つにまとめることができる」
ヴェルナーは右手を掲げると、
「【
魔法陣からニ八発の稲妻が飛び出して、右手に集約する。稲妻は丸い玉となって圧縮されていた。
「こ、こんなことが、こんな魔術があるのか……!」
ザッケロは未知の魔術に動揺していた。
「上級魔術師なら耐えるだろうが、中級魔術師が食らうと体に風穴が空くかもな」
ヴェルナーの言葉を聞いてザッケロは動こうにも動けなかった。先ほどの稲妻は避けることができなかったので今回も避けれる自信はなかった。
「まさかこれほどの魔術師とは侮った……」
ザッケロはサークルのみで相手の強さを判断したことを後悔していた。
「お前さんがイーグロに勝てると言った理由はその上級結界魔術のおかげか」
「イーグロと戦うときは超級結界魔術を発動させる」
「馬鹿な! 超級結界魔術は結界魔術の中で最高クラスじゃ! 使い手は二人しかおらん! お前さんが使えるはずはない!」
「なら俺で三人目だな」
(超級の次――神級が最高クラスの結果魔術なんだが。使い手がいないのか)
ヴェルナーはふと神級結界魔術の扱いが気になったが、どっちにしろ神級結界魔術は多量の魔力がいるため今のヴェルナーでは発動できない。今はそれよりザッケロを降伏させたかった。
「イーグロは俺が倒す。だから降参しろ」
「ふふっ、最早脅しじゃ、右手に雷を集めながら言う台詞じゃなかろう」
断れば稲妻の塊を放たれるザッケロはどうすることもできない状態だった。
「自分らを助けるメリットはお前さんにあるのか?」
「俺はファブニル家を
「…………」
ザッケロは押し黙った。ミストゥル家の言いなりになるのは癪だがこの男に賭けていいものかと悩んでいた。
ヴェルナーはメイリースと目を合わせる。
「お前の意思はどうなんだ? 周りに気を遣うな、お前自身の意思を聞きたい」
「私は……」
メイリースは先程、ヴェルナーが言った言葉を思い出していた。イーグロに勝てるはずがないと言った後、『勝つんだよ俺は、勝てないと言われたら、お前のその認識を捻じ曲げてやるだけだ』と言葉を返された。そのときは半信半疑だったが、あらかじめ結界魔術を展開してたとはいえザッケロを下した事実がある。
仮にイーグロに彼が勝てば自由の身となれる。
「あの、貴方様は名前は何と言うのですか?」
「ヴェルナーだ」
「お爺ちゃん、私は自由な明日が欲しいです。ヴェルナーさんに賭けてみましょう」
メイリースの言葉にヴェルナーはニヤっと笑った。
「む……どっちにしろ自分の首は少年かイーグロにかかってるわけか……ふふっ、サンドラ家が自分の代でこんなことになるとはな」
戦意を失ったザッケロは自嘲していた。
「……敗者に口はない。こうなれば博打じゃ、お主に息子夫婦と自分らの命を預け…………むっ!」
「もう来やがったか!」
「まかさ……!」
ザッケロは急に口を噤み、空を見上げる。次にヴェルナー、メイリースも彼の視線の先を追う。そこには空中を猛スピードで移動しているミストゥル家の第三魔術師団の師団長――イーグロ・カルロがこちらに向かってきていた。
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