第一四話 ファブニル家とガラルホルン家の交渉
ヴェルナーはバリーの前で腕を組む。通常、
しかし、ヴェルナーは自身より強いサークルの魔術師に打ち勝つだけではなく圧倒的に強い
ヴェルナーというとてつもなく有能な人材をガラルホルンに有益な存在として利用しようとした思ったバリーは彼の態度に目を瞑った。
「このスクロールに書いてある術式を完成させてくれれば金貨一〇〇〇枚は弾もう」
「「「金貨一〇〇〇枚⁉︎」」」
セレナード、ライド、シルバーはスクロールについた破格の値段に驚嘆した。
金貨一〇〇〇枚は一般的な魔術師の数年分の給与でもある。
「同盟はしないが大金は払うということか」
ヴェルナーをテーブルに肘を置いて手を組む。
「そういうことだ」
バリーは目つきを鋭くしていた、
「安いな、金貨三〇〇〇枚だ」
「「んなっ……」」
ヴェルナーが指三本立てるとバリーの背後にいるヒクソンとミルディが絶句していた。
「小僧吹っかけるつもりか?」
「バリー師団長こそ安く買い取るつもりか?」
ヴェルナーとバリーの視線が火花散らした。
(ひぇぇぇぇぇ! ヴェルナーって人何言ってるの!)
ミルディはバリーがいつ怒るか分からなくて怯えていたが、バリーは急にため息をつき、冷静な口調に戻る。
「金貨二〇〇〇枚、ガラルホルン家が一〇ヶ月に分けて払おう」
「つまり一〇ヶ月の間、ファブニル家とガラルホルン家の間には縁ができるということですね」
「そうだ」
「分かりました。それで手を打ちましょう」
バリーはすんなりとヴェルナーが今の話に乗ったので彼があえて断られるであろう金貨三〇〇〇枚を要求し、値引きさせることで交渉を進めたということが分かった。
(こやつの掌の上だったというわけか……しかしこれが金貨二〇〇〇枚で手に入るなら、それでかまわぬ)
バリーもといガラルホルン家にとっても好ましい交渉だったので不満はなかった。
「師団長……その術式はそこまでの価値があるものなのですか? 古代魔術は失われた技術ですが魔術一つに金貨二〇〇〇枚はあまりにも多すぎませんか?」
ヒクソンはバリーに近づき思っていたことを言う。
「書いてある魔術が一つならばな……このスクロールには幾つもの古代魔術が途中までしか書かれてないのだ。考古学的価値は計り知れないうえに……ヴェルナーは我々が読めない古代魔術語も書いている。それを教えてもらうことができればガラルホルン家の発展にも繋がる」
「そ、そうだったんですね」
ヒクソンはヴェルナーの方を向き、歳は変わらないはずなのに底知れない人物だと改めて認識していた。
「やった……!」
「さすがヴェルナーだ!」
ライドとシルバーはガラルホルン家と期間限定ながらも縁ができたことを喜ぶ。これでミストゥル家から狙われなくなるはずだと思っていた。
(平然とした顔をしてるわね。ここまで予定通りなのかしら……実力があるうえに頭も切れる)
セレナードは横にいるヴェルナーの顔を見つめ尊敬の念を抱いていた。
「ところでヴェルナーよ、ガラルホルン家に来ないか?」
バリーの提案にセレナードは思わず声が出そうになった。
(まぁそうなるわね。これほどの人材、私達、三流魔術師一家にいていい存在ではないわ)
セレナードはヴェルナーに行ってほしくないなと思いながらもヴェルナーがガラルホルン家に行く方が彼のためにもなると思っていた。
「……断る、俺はファブニル家の従者だからな」
このファブニル家から大陸の頂点に君臨するという彼の決意は変わらなかった。彼自身、この気持ちが途中でブレるようでは大陸最強の魔術師にはなれないと思っていた。
「「!」」
セレナードとライドは彼の言葉を聞いて笑みを溢した。
「セレナード・ファブニルよ。彼は稀有な人材で類を見ない存在というのは関わって分かった。彼を大切にするのだぞ」
「はい」
セレナードは力強く頷いた。
「ではヴェルナーよ。このスクロールに書いてある古代魔術の完璧な術式と古代魔術語についての翻訳を頼もうか」
「分かった」
「ミルディよ。この者達を宿舎にある空き部屋に泊めてやれ」
「分かりました!」
ヴェルナーはバリーに付いていき別室で術式を書く作業を始める。一方、セレナード達は宿舎へと案内され、一時的に一人一部屋与えられた。
――――日が暮れた頃。
「帰ってきたわね」
宿舎の前でセレナードがおり、帰ってくるヴェルナーを待っていた。一方、ヴェルナーは気怠そうにしながらゆっくり歩いていた。
「珍しく怠そうにしてるわね」
セレナードの言葉に応じるようにヴェルナーは親指で背後をさす。
セレナードは小首を傾げながら彼の背後を覗くと、
「また古代語を教えてください」
「今まであの文法の解釈の仕方が間違ってたとは思わんなんだ」
「素晴らしく分かりやすい講義でした! まさか古代に呪うだけで相手を殺傷できる魔術があるなんて思いもしませんでした」
老若男女がヴェルナーのことを慕っていた。
「そりゃ良かったな。俺は宿舎に戻るから悪いが帰ってくれ」
ヴェルナーは辺りにいた人を解散させてからセレナードのところに寄る。
「一体何事?」
「古代魔術について講義させられてたんだ」
「へぇ……貴方、人に何かを教える気概あったのね」
「あるわけないだろ」
ヴェルナーが怪訝そうにすると、セレナードは納得いかない様子を見せた。どうして講義なんか担ったんだろうと思っていた。
「俺は自分の得になりそうだと思ったから講義をしてやっただけだ。実際、お前たちのためにもなる」
「どういうこと?」
「たまにでいいから古代魔術の講師をやってくれだとさ。ガラルホルン家の非常勤講師として雇われることになった」
セレナードはヴェルナーの今の発言で彼が講義をすることが何故、自分らのためになるかが分かり、得心した様子を見せた。
「つまり貴方がファブニル家にいる限り、ガラルホルン家は私達を無下にできないってこと?」
「そういうことだ」
ヴェルナーが不敵な笑みを見せるとセレナードは目をぱちくりさせた。
「あのヴェルナー」
セレナードは急に緊張した面持ちを見せる。
「なんだ」
ヴェルナーは彼女を不思議そうに見ていた。
「あ、ありがとうね。ここまでしてくれて.! 貴方のおかげで私も弟もシルバーさんも命が助かったわ」
セレナードは精一杯、感謝の気持ちを伝えていた。
「ここでファブニル家か潰えると聖十二族と肩を並べるどころの話じゃなくなるからな」
ヴェルナーはそう言って背を見せ、宿舎の中へと入ろうとしていた。
(ありがとうか、人から面と向かって感謝の意を伝えられたのは前世ではなかったな。あのときの俺は全ての人間から恐れられていた)
ヴェルナーは不思議と悪くない気分だった。彼はこれから自室でガラルホルン家と正式な同盟を結ぶための策を練ろうと思った、そのとき――
「っっ!」
――とある気配を感じ、宿舎の中に入るのをやめて身を翻していた。
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