第一三話 ガラルホルン家のの本拠地
ヴェルナー達はガラルホルンの邸宅の前へと着いた。邸宅は三棟の四階建てで赤煉瓦で出来ており、優雅さと堅実さを醸し出していた。周囲には魔術師の訓練場、魔術の研究機関、図書館、食堂、宿舎、倉庫があった。
邸宅に向かって歩きながらシルバーは面会相手の情報を伝えてくれる。
「面会してくれるのは第四魔術師団の師団長で名前はバリー・ローレライだ。『
「第四魔術師団か」
ヴェルナーがぽつりと呟く。先程出会ったミルディとヒクソンも第四魔術師団であることを思い出していた。
「うわぁ……凄いや」
ライドはガラルホルンの設備に圧倒されていたのでヴェルナーは彼を注意することにした。
「これから同盟を組む相手に圧倒されてどうする。ファブニル家の代表という自覚を持て、オドオドされると俺の交渉が上手くいかん」
「わ、分かった……」
「それに他の
ライドは冷や汗を掻きながらも気を引き締めてヴェルナーに応じるように頷いた。
「ファブニル家の従者ヴェルナーだ。ファブニル家のお嬢様が来たと第四魔術師団の師団長に伝えてくれ」
ヴェルナーは邸宅前にいる魔術師達に言伝を頼む。すると魔術師は邸宅の扉を開けてヴェルナー達を中に誘おうとしていた。
(すでにバリーとやらは俺達を待っている状態らしいな)
四人はガラルホルン家の魔術師に会議室へと案内された。この会議室はガラルホルン家の当主及び師団長達が話し合いをするときに用いる部屋でもある。
部屋の中には大きな丸いテーブルの上に白いテーブルクロスが敷かれていた。そして席には白い顎鬚を生やし、頭を結ってる老人がおり、金の刺繍が入った白いローブを着ていた。さらにその左右にはヒクソンとミルディが立っていた。
(あの老人がバリー・ローレライか。六サークル一段階に到達している。聖十二族の団長クラスともなると、風格があるな。今の俺では正面からの殴り合いは厳しいかもな)
ヴェルナーはバリーの強さに目を見張りながらも、自身が負けるとは思ってなかった。
「あ! 君は!」
「また会ったな」
ミルディがヴェルナーの姿を見て驚嘆していた。
「ファブニル家の従者を知っているのか?」
バリーはおもむろにミルディに尋ねた。
「私が勝てなかったニサークル一段階の魔術師です。でもまさかトルネイド家の三サークルの魔術師を倒した男だとは思っていませんでした」
「ほう……ミルディを肉弾戦で圧倒した奴か……とりあえずファブニル家の当主よ座りたまえ」
「よろしくお願いします」
緊張した面持ちのセレナードはバリーと対面になるように座る。彼女以外の面々は背後で立っていた。
「お主の父上と部下の魔術師達のご冥福を祈る」
「ありがとうございます」
バリーが慇懃に頭を下げるとミルディとヒクソンが頭を下げた。
「そしてミストゥル家がお主たちを襲った張本人と言う件はそこの使者から聞いた」
バリーはシルバーを顎でさす。
「お主達が我々の傘下に入ればミストゥル家の牽制にもなる。つまりガラルホルン領の端にあるファブニル家の領地は防衛拠点になってしまうが、ガラルホルンの魔術が死守する場所にもなる。悪い話ではなかろう」
セレナードからすれば願ってもない話だった。しかし、彼女はヴェルナーがファブニル家を押し上げて聖十二族と並ぶ存在にしたいという話を思い出す。
「…………」
セレナードはヴェルナーを横目で見る。ヴェルナーはガラルホルンの下に付くのではなく、同盟を望んでいるはずなのにこの局面において何も言ってこないのが不思議だった。
(ヴェルナーはもしかして私を試してるの? ガラルホルン家に対して同盟を提案出来る度胸があるかどうか見てるってわけ? なんかムカつくわね)
セレナードはヴェルナーに対して目を細める。彼女の行動に気付きながらもヴェルナーは素知らぬ振りをした。
(ファブニル家の当主はお前だ。セレナが今後どうするか決めるんだ……もっとも、ガラルホルン家に入る道を選ぶなら失望するが)
ヴェルナーはセレナードがガラルホルン家の傘下に入るようであれば阻止するかこの家から離れることを考えていた。
(私に同盟を組む勇気がないと思ってるのかしら……ほんとムカつくわね。それにガラルホルンの傘下に入ったら周りの目を窺うような人生を送るでしょうね)
セレナードはヴェルナーに自尊心を煽られた気もした。そして何より、一度家を滅ぼされたセレナードは魔術師の当主として誰にも縛られず自由に過ごしたいと思っていた。
「バリーさんの提案はありがたいのですが……私は貴方達との同盟を望みます」
「何っ!」
バリーはセレナードの思わぬ発言に思わず声を漏らしてしまった。そのとき、ヴェルナーだけがニヤリと笑みを溢していた。
すると、ヒクソンが口を開く。
「セレナードさん、今の発言はまずいですよ。聖十二族である我々と対等であることを言ってるのと同じです。私ならともかくガラルホルン家中から反感を買いますよ」
ヒクソンは暗に今の発言を撤回して、傘下に入った方がいいと伝えていた。
「よい、ヒクソン……でお主と同盟を組んで何かメリットがあるのかね」
バリーは六サークルの魔術師として圧を周囲に放つ。メリットがないのに同盟を提案したのなら、ただじゃ済まさないという雰囲気を醸し出していた。
「…………」
バリーに気圧され、セレナード、ライド、シルバーの動悸が速まっていたがヴェルナーだけは冷静だった。
(セレナ……お前は俺が思った以上に負けん気が強いやつらしいな。いいだろうお前のその勇気を賞賛し、ここからは俺が交渉しよう)
ヴェルナーは予定通り、バリーを相手に話を進めようとし、いきなり席に着いた。
「んなっ⁉︎」
これにはセレナードも思わず口を空けてしまっていた。
「小僧、貴様無礼だぞ!」
さすがのバリーも立ち上がって眉間に皺を寄せる。その瞬間、ヴェルナー以外の人は身を竦むような思いをした。上級魔術師になれば使える
魂気とは魂から湧き出る気のことであり、魂気が強ければ強いほど、魔術による呪いや精神攻撃を受けつかなくなる。この魂気は魔術師としての精神的な強さに依存し、魔術師としての経験が豊富であればあるほど強まる。
この気に浴びせられた中級魔術師以下の者達はその場から動かなくなり、あまりにも気が強ければ気絶してしまうことがある。
(中々の魂気だ。それだけ魂の力も強ければ精神攻撃系の魔法は受けつかないな……だが)
ヴェルナーは目をカッと開く。
「んなっ⁉︎」
ヴェルナーの魂気によってバリーの魂気が呑み込まれてしまったのだ。
(なんじゃこいつの魂気の強さは ニサークルの魔術師のものじゃない! あの歳にしてわしより魔術師として経験を積んだ人生を送ってるような魂気の強さぞ)
バリーは驚嘆し、周囲の人々は額から汗を流し、口を半開きにしていた。
ヴェルナーは確かに弱体化した。しかし、前世の経験が無駄になるわけではない。魔術師としての経験の積み重ねが顕著に現れる魂気は、この大陸にいるどの魔術師よりも優れていた。それゆえに、彼に対して精神系魔術や呪いの類の魔術は無効化される。
「お主何者だ」
バリーは怒りを鎮めて席に着いた。
「あのスクロールの魔術を書いた者ですよ」
「なに! お主が! その若さであの術式を書いただと! ヒクソン! 渡したスクロールを出してくれ」
「は、はい!」
バリーはヒクソンから受け取ったスクロールをテーブルの上に広げる。
「ヒクソン、ミルディ、これは読めたか?」
二人は首を横に振る。
「だろうな、これは古代魔術語で魔術が書かれている。しかも王級クラスのな」
バリーの言葉にヒクソンとミルディが幾度目かの驚愕した表情を見せる。
「団長はこの魔術を知っているの?」
ミルディはバリーに疑問を投げかける。
「わしですら見たこともない魔術だ。しかも、これはあえて途中までしか術式を書いてない……おそらく同盟の交渉材料にするためだろう。食えない小僧よ……」
バリーはここまではヴェルナーの思惑通りだったことを思い知り、その才覚を畏怖していた。
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