第一二話 ガラルホルン家の魔術師達

 ヴェルナーがどさくさに紛れて商人の魔石を買い占めたとき、

  

「静粛にしなさい‼︎」


 茶髪の少女が一喝するとその場は静まる。


「私はガラルホルン家第四魔術師団のミルディ・ミル。商人を領土法第四二条の詐欺罪として緊急逮捕します」


「そ、そんな故意ですよ」


 商人は首を横に振り弁明をしていた。


(あの女、やはりガラルホルンの人間だったか)


 ヴェルナーはミルディを横目でチラッとみた後、その場を去る。


 その場にはミルディと同じく白ローブを着たガラルホルンの魔術師が二人おり、商人の両腕を掴んで事情聴取するために角笛城内にある駐屯所へと連れて行こうとしていた。


「……証拠品として魔石を預かりたいんだけど」


 ミルディはいつの間にか魔石が入ってる袋が無くなっていることに気付く。


「それならさっきの黒髪の少年が買っていった……」


「な、なんですって」


 ミルディは慌てて辺りを見渡すがすでにヴェルナーの姿はなかった。


 ヴェルナーはミルディが魔石を回収することを容易に想像できたので裏路地を歩いていた。


(この出来損ないの魔石を一つぐらいやってもよかったが生真面目そうな娘だったからな、証拠品として全ての魔石を回収するとまで言うに違いない)


 ヴェルナーはそのままセレナード達がいる宿屋に向かおうとしたが、


「よく俺がいる場所がわかったな」


 彼が後ろを振り返るとそこには顰めっ面をしたミルディがいた。


「君、鼻からそれを貰うつもりだったでしょ。詐欺の証拠品として全て渡しなさい」


「俺がこの魔石を貰ったのは商人が逮捕されるまえだ。文句を言われる筋合いはない」


(食えない人ね。でもここはガラルホルンの領土よ。あなたの屁理屈が通じる場所じゃないわ)


 ミルディは困ったような顔をしながら右足を前に出して駆け出す準備をする。すると、ぞろぞろとガラルホルンの魔術師が集まる。


「手荒な真似をしたくなかったけど仕方ないわ」


(やはりこうなったか。今後のことも踏まえてガラルホルンの連中に俺の実力でも見せようか)


 ヴェルナーはミルディに対して無言で抵抗する意思表示をした。


「君、ニサークルになりたててでしょ、ニサークル三段階の私には遠距離でも近接戦闘でも勝ち目はないわよ」


「似たようなことを言ったやつは皆、俺に負けたぞ」


(出まかせ……を言ってるような雰囲気じゃないわね……まさか本当に?)


 ミルディはヴェルナーの態度に並々ならぬ自信を感じていた。


 一方、ガラルホルンの魔術師達はヴェルナーの発言に応じて野次を飛ばしていた。


「おい坊主無茶するなよ!」


「気持ちは分かるが早く魔石を渡した方が身のためだぞ!」


 ガラルホルンの魔術師はヴェルナーの行動は無謀だと思っていた。


「ミルディ気をつけなよ。あの男……二サークルの魔術師とは思えない威圧感を放ってる……まるで上級魔術師すら圧倒するような雰囲気だ」


 魔術師達の中から黒髪ウルフカットの男が出てきた。


「分かってるわヒクソン」


(あのヒクソンとかいう男はニサーク五段階の魔術師か。ミルディもヒクソンも俺と同年代ということを踏まえると相応に強い)


 ヴェルナーはミルディとヒクソンはガラルホルンの未来を担う人材だと判断し、実力を見せるには申し分ない相手だと思った。


「行くよ! 『下級地属性魔術・石の槍』!」


 ミルディは右手を振ると槍状の石がヴェルナーの方に向かって飛んでくるが彼は『下級無属性魔術・魔法の矢』を詠唱して対応する。


「魔法の矢よ、暴走しろ」


 ヴェルナーは魔法の矢をいつもの手際で暴発させると爆煙が広がる。


「えっ!」


 ミルディは魔術が相殺されたことに面食らう。


(なんで魔力量が下の相手に魔術が相殺されるの⁉︎ いやそれより!)


 ミルディは爆煙の中、向かってくるであろう人影に向かって正拳突きを繰り出した。無論、その人影はヴェルナーであり彼は正拳突きを簡単に弾く。


 その後、ミルディは蹴りを繰り出すが低空姿勢になったヴェルナーに避けられてしまう。


(嘘! 魔力量からしても身体能力は私の方が上なのに、なんで攻撃が当たらないの⁉︎)


 ミルディはサークルの強さに見合わないヴェルナーの強さに対して焦りを感じていた。


「わっ!」


 次にヴェルナーはミルディの軸足を蹴って彼女を転ばせたあと、首元に魔力を溜めた手刀を突きつける。


「まだやるか?」


「…………」


 ミルディは両頬を膨らませながらも何も言えなくなっていた。敗北を認めたが口にはしたくなかったようだ。


 また、周囲の魔術師がヴェルナーが勝ったことでざわめきだす。


 魔法の矢が爆発したことが不可解だったが、それは彼が何かしら魔法の術式を変えたのだろうということはなんとなく分かっていた。しかし、近接戦闘においてサークルの数と強度が違えば明確に差が出るはずである。


 それにもかかわらず、ヴェルナーが自身よりサークルの強度が高い相手を圧倒してしまったのが理解できずにいた。

 

「受け取れ」


 ヴェルナーは魔石を数個、ヒクソンに投げつける。ヒクソンは魔石を右手で受け取る。


「偽物の確認なら、その数個で充分だろ」


 ヴェルナーは魔石が入った袋を背負ってその場を離れる。


「しょ、証拠品泥棒!」


 ミルディはヴェルナーを指差す。


「ミルディ、あの魔石は彼がお金で買ったようだしもういいじゃないか、仕方ないよ」


「なんかあの人の手のひらに踊らされた感じでちょっと、悔しいというか……対抗心が芽生えたんだ」


「今後、彼には手を出さない方がいいと思う。僕はニサークル五段階の魔術師だけど……彼に勝てないと思う」


「本気で言ってる⁉︎」


「本気だよ。彼には団長以上の凄味を感じるんだ」


 ヒクソンは底知れないヴェルナーの実力を恐れていた。


 ミルデイとヒクソンの前から姿を消したヴェルナーは宿屋の一室へと戻った。ちなみに隣の部屋にはセレナードとライドがいる。


「これは掘り出し物だな」


 ヴェルナーは窓側にある木製のテーブルの上に魔石をばら撒くと、そのうち一つの魔石に目を付けた。


 その魔石は一見、他の魔石同様に鮮やかな青色に見えるが一部黒い部分があった。


(この魔石は黒い部分に魔力が滞留してる)


 ヴェルナーはその魔石を手にとって滞留してる魔力を石全体に分散させた。すると、魔石は鮮やかな青色から深い青色になった。


「真の『蒼き魔石』の完成だ、くっくっくっ、俺はツイてるぞ」


 ヴェルナーはほくそ笑みながら、蒼き魔石の魔力を取り込んで修練を行うこと考えていた。


 そのときドアが外からコンコンと叩かれる。


「何者だ」


「私に決まってるでしょ」


 声の主はセレナードだった。


「何か用か」


「シルバーが帰ってきたわ。なんでもガラルホルン家が今すぐにでもあのスクロールに魔術を書いた人に会いたいらしいわ」


「分かった準備してから行く」


 ヴェルナーは真の蒼き魔石と不良品の魔石を懐に忍ばせてからセレナード達と合流し、ガラルホルン家の邸宅へと向かった。

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