第三話 記憶が戻ってからの初戦闘
コア・サークル連結式魔術回路を作り終えたヴェルナーは立ち上がる。
(もう夕方か……それと、殺気を放ってる奴が近くにいるな)
彼は空を見上げて時間を把握すると同時に不敵な笑みを浮かべながら歩く。
「出てこい雑魚共」
ヴェルナーは茂みの向こうにいる人物に話しかける。すると、茂みの向こうからクスクスという笑い声が聞こえた。
その後、鈍色のローブを着た魔術師が二人現れた。一人は曲刀、もう一人はグローブを付けていた。
(ファブニル家にいた連中じゃないな。となると、ファブニル家の敵対勢力か。見るからに近接戦闘しか取り柄がなさそうな魔術師共だな)
「おいおい、俺達が雑魚だってよ。相手の実力も分からないとは魔術の基本がなってないな坊主!」
「お前の持つ魔力量が分からねぇと思ってるのか! 一サークルの雑魚の癖によ!」
曲刀の魔術師とグローブの魔術師はヴェルナーを見下していた。
(二人とも二サークル五段階だな。今の俺の力を試すに丁度いい相手だな)
曲刀を持った魔術師は切先をヴェルナーに向ける。
「いいか! 基礎すらできてねぇ雑魚だから親切に教えてやる! 一サークル五段階のやつが二サークル五段階に勝てるのはありえねぇ話だ! 一回り下のサークルのやつには二割の力を出しても勝てるのが常識だからな!」
「いかにもサークルだけで魔術師の優劣が決まると思っている能無しが言いそうな台詞だな」
「んだと! こいつは俺が殺す! 手は出すなよ!」
「仕方ねぇな」
こめかみに青筋を立ててる曲刀の魔術師の意思を汲んだグローブの魔術師は数歩後ろに下がった。
「死ねい!」
「お前がな」
男は大振りで右手に持った曲刀を振るうがヴェルナーは中腰になって振るわれた曲刀を掻い潜る。
「っ⁉︎」
男は一振りが一サークル如きの相手に避けられるとは思ってなかったので目を見開いてた。
その次の瞬間、
「ぐあっ………!」
ヴェルナーは男の右肘に掌底突きして曲刀を落とさせたかと思えば、彼は地面に落下していく曲刀を拾い上げ、その場で一回転して相手の腹部を横一文字に斬った。
男は驚愕した表情のまま地面に横たわり動かなくなっていた。
「油断しすぎだろ」
ヴェルナーは相手が慢心して大振りしてきた隙を見逃さなかった。これでは力試しにならないと彼は思っていた。
「……へへっ、今のはこいつが油断しただけだ! 格下に負けるわけがねぇ!」
今の戦闘を見たグローブを嵌めた魔術師は自身を奮い立たせていた。
「声が震えてるが、俺に臆したか?」
「舐めるなよ、俺は油断しねぇ! 『下級拳闘魔術・
敵は距離を詰めて左右の拳を繰り出す。相手は拳に生成した魔力を両拳に込めることで打撃力を高めている。
(さすが一回り上の魔力量を誇るだけはあるな)
ヴェルナーは後退しながら敵の拳を手刀で弾き続ける。
「格下の魔術師の癖になんで俺の攻撃を捌けるんだ!」
敵は焦燥感に募らせていた。
(コア・サークル連結式魔術回路のおかげて魔力量に大きな差はない。とはいえ、コアに溜めている魔力をずっと身体能力の強化と皮膚と筋骨の硬化に用いている以上、いずれ俺の魔力量が相手を完全に下回る。それに今の俺のコアは未発達で小さい。そうなってくると相手と差を付けるの技量、手数、戦術、権謀術数だ)
ヴェルナーは後方に跳んで魔術を行使する。
「『凶乱流秘伝魔術・
「秘伝魔術!?」
敵の目前には三人のヴェルナーが現れ、三人とも相手に襲いかかった。一方、敵は秘伝魔術という言葉に呆気に取られていたが気を取り直す。
「こんな小細工すぐに見破って…………っ⁉︎」
言葉を詰まらせた敵は拳を三体の幻影に繰り出す。三体の幻影は拳が直撃すると霧と化して消えていった。
(三体とも手応えがねぇ! 三体とも偽物か! どれも人間のような気配を感じたはず…………いや、それより本体はどこにいやがる!)
グローブの魔術師は辺りを見渡す。
「意外と冷静なやつだな」
「そこか! 『下級拳闘魔術・
グローブの魔術師は振り向きざまに背後にいるであろうヴェルナーに拳を繰り出すと手応えを感じたが、
「なっ⁉︎」
敵が殴ったのは先ほどヴェルナーが殺した曲刀を持った男だった。
ヴェルナーは死体を盾にして敵の背後に回り込んでいた。
「ぐお⁉︎」
「他愛無いな」
さらにヴェルナーは死体の男が持っていた曲刀を死体ごとグローブの魔術師に突き刺していた。曲刀はグローブの魔術師の背中を突き抜けており、明らかに致命傷だった。
「ひ……卑怯な………技も戦術も……!」
グローブの魔術師はうつ伏せに倒れながらヴェルナーの戦い方を非難していた。
「フハハハハハハ!」
そんな敵の様子を見たヴェルナーは高らかに笑いながら言葉を続ける。
「卑怯だと? お前は聖者を相手にしてると思ってるのか? ましてやこれは殺し合いだ! 甘っちょろい考えで戦って殺されては元も子もない! 俺はどんな手段を使っても敵は殺す!」
ヴェルナーは死にかけの相手を蔑むように見下ろしていた。
「もっともお前達が先にファブニル家を奇襲かけたんだろ。殺し合いで文句言われる筋合いはないな……死ぬ前に教えろ、お前はどこの魔術師の家系に与しているんだ」
「…………」
突っ伏している相手が無言だったため、ヴェルナーがその場を去ろうとしたとき、敵は最後の力を振り絞って声を上げる。
「お前もファブニル家の後継者も! ファブニル家の当主のように無惨に殺されてしまう運命だ! 俺達トルネイド家によってなぁ! サンドラ家に助けを求めても無駄だ! 奴らは傍観するしかないからな! かはっ!」
グローブの魔術師は最後に吐血し、絶命していた。
「負け犬の遠吠えだな」
ヴェルナーは吐き捨てるような言い方をし、その場から去る。
(やはり近隣にいる魔術師の連中がファブニル家を攻めていたのか、目的はなんだろうな。ファブニル家みたいな弱小の魔術師一家に財力や強力な魔剣や魔道具なんてないしな。まぁ、トルネイド家もサンドラ家も弱小には変わりないが)
ファブニル家、トルネイド家、サンドラ家はそれぞれ保有している領土が接している家系である。ヴェルナーは長年、この三家がお互い不干渉であることを知っているため、トルネイド家とサンドラ家がファブニル家を襲うメリットを知りたがっていた。
(ファブニル家の領土も大して広くない、農作物の生産量が増えるだけだ。ファブニル家の魔術師もほとんど殺されているから軍事力を吸収することもできない。俺の知らない秘宝でもあるのか……あるなら是非、俺が欲しいところだ)
ヴェルナーは跳躍し木の上に立ち、人の気配を探るために魔力を周囲に放つ。
(雑魚同士の争いなどどうでもいいが、裏に何があるのか気になる。とにかく当主のライオット・ファブニルが殺されたと聞いた以上、後継者である嫡女に事情を聞くか……まぁ、今頃、殺されてるかもしれんが)
彼はファブニル家の後継者――セレナード・ファブニルの気配を探ることにしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます