【パーティ追放殺人事件】人質救出と犯人確保1

 たいまつの火に照らされた薄暗い洞窟に彼らはいた。


 広い空間の四隅にある崩れやすい部分が木の柱で補強されている。

 通路からフロアの中央あたりまで線路が伸び、その近くにトロッコが横倒しになって置かれていた。


 トロッコを挟むように右側の奥にはマントを羽織り、軽鎧をまとった赤い髪の青年がいた。

 彼のかたわらには覆面を被った男たちがいて、そのひとりが猿ぐつわをした少女の肩を抱いていた。


 左側の奥には胸甲をまとった女剣士がいる。

 鉢金のような兜、左腕にはガントレットシールド、もう一方の手には片手剣が握られている。


 青年は大きな声で、武器を捨ててくださいと言う。

 反響音とともに声が女剣士に届き、片手剣を捨てる。


 続いて青年は、少女と書類を交換するように持ちかけた。

 女剣士に選択肢はないのか、衣服と鎧の隙間から紐で止められた冊子を取り出す。


「中央にあるトロッコのところまで歩いてきてください」

「デリアが先だ」

「……いいでしょう」


 青年が男をあごで使い、少女の肩にかけていた手を離す。

 わき目もふらずに女剣士のもとへ少女は走る。


 それを見た女剣士が駆けだし、フロアの真ん中あたりで少女をきつく抱きしめた。

 女剣士は青年のほうを睨み、持っていた冊子を乱暴にほおり投げる。


「ルイスの日記もあの洞窟もお前の好きにしろ」


 青年はにこりと笑う。

「そのつもりです」

 手をかざし、小さな火球を作り出して放つ。冊子に当たって火の手があがる。


「だが、この子には手を出すな」

「どうぞ、お逃げください」


 女剣士は警戒しながらも立ち上がる。

 少女の手を引いて歩き出そうとしたとき――女剣士を火球が襲う。

 少女をかばうように抱きしめたうえで、女剣士はシールドを使って火球を防いだ。


「……貴様」

「逃げられるものならね」


 次々と火球が放たれ、シールドが熱を帯びていく。

 隙を見つけて少女を逃がそうとするが、青年は女剣士の周辺に牽制するような火球を放つ。


 火球を放つたび、青年のまわりがオレンジ色に光る。


 一瞬見えては消えるその顔がゆっくりと醜いものへと変わっていく。


 ダマスカスダリルに籍を置き、勇者の息子として出会ってから今まで。

 女剣士は彼のことを弟だと思って接してきた。

 厳しいことも言ったが、感謝もされていた。


 転生によって中身が入れ替わってからも、その関係は変わっていない。

 そう心のどこかでまだ信じていたのだ。


「お前は……どうして……」


 怒りよりも、諦めや失望を感じさせるような声でそう言った。


 熱と衝撃で変形してきたシールドを外し、青年に背中を向けるかたちで女剣士が少女を抱きしめた。

 少女がこらえきれず泣き叫び、それが洞窟に木霊する。


 青年がてのひらに魔力をこめる。

 小さな火球が現れ、ゆっくりと膨らんでいく。


「終わりです」


 青年が火球を放とうとする刹那――線路が細かく振動しはじめる。

 金属のホイールがレールの上を滑る音が聞こえる。

 それが徐々に大きくなり、通路から猛スピードでトロッコが突っこんでくる。


 驚いた青年は溜めていた火球を突然の来訪者に向かって放つ。

 それが女剣士たちのすぐそばで爆発するように弾けとんだ。


 ふわっと木の焼けるにおいが宙を舞い、大小の木片が降り注ぐ。

 間髪入れずに通路から広間に筒状の金属が投げ込まれた。



 クジャクが羽を広げたような閃光と、ほぼ同時に耳をつんざくような音が広がった。



 耳鳴りのような残響音が居座るなかで、黒いコートにズボン、頭や顔が完全に隠される完全防備の兜を装着した3人が乱入してくる。

 兜は閃光魔法具による目や耳のダメージを抑える役割をはたしている。


 青年たちは閃光と音で平衡感覚を失い、耳を両手で塞ぎながらその場にひざまずいていた。


 3人のうちのひとりが女剣士たちに駆け寄ってその場から離脱させる。


 もうひとりは十手を構え、持ち手から棒の先までを指でなぞる。

 バチバチという音とともに十手が光りはじめた。


 その動作を行いながら混乱していた男たちのもとまで素早く到達し、十手による打撃を与える。

 男たちは抵抗する間もなく電撃によって昏倒していく。


 最後のひとりが近づいてくることに気づいた青年が、炎魔法をデタラメに発動させる。


 目と耳がきかない相手からの攻撃を避けるのは容易いのか。

 上背のあるその人物が距離を詰め、青年の目の前に立った。


 前に突き出していた青年の片腕を掴んで強引に背中に回す。

 腕を固定させたまま相手をうつ伏せにして拘束し、手錠をかけた。


 事態の収拾に合わせて謎の人物たちが兜を脱いだ。


 女剣士たちを助けていたのは、くすみのある茶色い髪の美しい女性だった。


 男たちを拘束して横ならびにしていたのは、金髪の少女とも言えるあどけなさの残る女性だった。


 そして、最後に青年を確保したのは――。


 白いファントムマスクをつけた銀髪の男性だった。

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