第10話 真夜中の訪問者
慎二の未来を巡る家族の話し合いと夕食が終わり、家の中には先ほどまでの白熱した討論が嘘のように穏やかな空気が流れていた。リビングには温かな灯りが広がり、どこか安心感が漂っている。食事を終えた父はソファに腰掛け、スマホを片手に静かにニュースを読んでいた。母はキッチンで皿を洗いながら、たまにリビングを振り返り、家族の様子を見守っている。その動きは落ち着いており、先ほどまでの険しい表情もすっかり和らいでいた。
慎二は、長い話し合いで自分の意志を貫いた疲労がじわじわと体に広がるのを感じていた。頭から体まで重く、まぶたも徐々に下がってくる。緊張感から解放されたことで、体がリラックスし、ようやく日常の安らぎが戻ってきたような感覚があった。
「そろそろ寝るかな……」
慎二はそう呟いて、食卓の椅子を引いて立ち上がった。二階にある自分の部屋へ向かおうとしたその瞬間、父がスマホから目を離して静かな声を発した。
「そういえば最近、物騒なことが多いな。慎二、お前、何か巻き込まれてないか?」
リビングに響く父の言葉に、慎二は思わず足を止めた。胸が一瞬、ドキリと跳ねた。脳裏には、あの殺人現場、『ソティラス』の集会での出来事、そして林山が最後に残した忠告が一気に蘇る。心臓が鋭く脈を打ち、過去の恐怖が甦るような感覚に襲われた。
慎二はなんとか平静を装い、軽く笑ってみせた。
「大丈夫だよ。お母さんじゃないんだから、そんなに心配しないで」
慎二の軽い調子の返答に、父は慎二の顔をじっと見つめた。その視線は、ただの心配だけではなく、何かを探るような鋭さを帯びていた。慎二はその視線を受け止めながら、表情を崩さないように努めた。
「そうか。ならいいんだが……何かあったら、すぐに言えよ」
父は再びスマホの画面に目を戻したが、その背中からは慎二を気にかけている気配が漂っていた。父には時折、妙に鋭い勘が働くことがあり、それが慎二にはいつも驚きでもあり、少し怖くもあった。
慎二はぎこちなく笑顔を浮かべ、軽く頷いて応えた。しかし、胸の中ではざわざわとした不安が静かに広がり、次第に心の奥を侵食していく感覚に襲われていた。
「どうしたの? なんかあったの?」
慎二はできるだけ自然に尋ねたが、自分の声が微かに震えているのが分かった。父の目は冷静さを保っていたが、その奥に潜む何かを探ろうとする気配を慎二は見逃さなかった。その視線に、慎二の心臓が一瞬強く跳ねた。
「ほら、お前の住んでる近くでも最近、殺人事件が相次いでるだろ? ニュースにもなってる。それに、現場には奇妙な模様が残されてるって話題だ」
「――えっ?」
父の言葉に、慎二は思わず声を上げた。心臓が一気に鼓動を速め、体が硬直する。頭の中で父の言葉が反響する。奇妙な模様――その言葉の意味を、慎二は嫌というほど理解していた。
「なんだ、慎二。ニュース見てないのか? 自分の身の回りで起こってる事件ぐらい、ちゃんと把握しておけ」
父の言葉は穏やかだったが、その内容は慎二の胸をさらに締めつけた。慎二は喉の奥が詰まるような感覚を覚えながら、どうにかして言い訳を考えた。
「ご、ごめん。ほら……『火星移住プロジェクト』の話をどうやってお父さんとお母さんに切り出すか迷ってて、それどころじゃなかったんだよ」
なんとか取り繕うように答えたが、自分の声がどこか空々しく聞こえる。慎二はそんな自分に違和感を覚えた。父は慎二の顔をじっと見つめたまま、眉をわずかにしかめ、少し考え込むように視線を落としたが、最終的には頷いた。
「そうか。まあ、いい。ただ、何かあればすぐに言え。それだけは忘れるな」
父は再びスマホの画面に視線を戻したが、その背中には慎二を気にかける気配が残っていた。慎二はぎこちない笑顔を浮かべ、軽く頷いて応えたものの、胸の中ではざわざわとした不安が消えることなく根を張り続けていた。
二階の自室に戻った慎二は、扉を閉めるとすぐに勉強机に向かった。その机は幼い頃から使い続けているもので、天板には細かな傷やペンの跡が残っている。慎二は椅子に腰を下ろし、机に触れる冷たい感触が妙に現実的に感じられた。深く息を吐き出しながら、頭を整理しようと努めた。
机の上に置かれていたARグラスを手に取り、装着する。父の言葉が胸に引っかかり、慎二はすぐに殺人事件に関する情報を検索し始めた。手の指先がわずかに震え、キーワードを入力するたびに緊張感が高まる。
瞬く間に検索結果が画面に並んだ。その中には、慎二が住む地域で発生した連続殺人事件のニュースがいくつも含まれていた。
「……本当だったのか」
慎二は息を呑んだ。父が言っていた通り、近隣で連続殺人事件が起こっている。だが、それ以上に慎二の目を引いたのは、ニュース記事に記されていた「奇妙な模様」という表現だった。現場に残されているその模様は、慎二にとって見覚えがある――あのヴォイニッチ手稿に記されていた謎の文字と酷似していた。
「……他にもこんな模様が……?」
慎二は次々と記事を開き、さらに情報を掘り下げていった。同じ模様が残された事件は、慎二の地域だけではなかった。全国、さらには世界中で、ほぼ同じ時期に発生していることが分かった。
「世界中で同時に起こる事件……それに残された謎の文字……」
慎二はニュース記事の見出しを口にしながら、さらに次のページを開いた。そして、ある一文に目が留まり、手が止まった。
『これらの殺人事件は、「火星移住プロジェクト」の当選者発表が行われた日から急増している』
その一文を読んだ瞬間、慎二の胸に冷たい衝撃が走った。ヴォイニッチ手稿の文字に似た模様、連続殺人事件、新興宗教団体『ソティラス』、そして『火星移住プロジェクト』――これらが一本の線で繋がっているように感じられた。その関連性が何を意味するのか、慎二は必死に考えを巡らせたが、頭の中は混乱するばかりだった。ただ一つだけ確信できるのは、これが単なる偶然の連鎖ではないということだ。
慎二は頭の中に霧がかかったようなモヤモヤした感覚を抱えながら、ニュース記事のコメント欄にも目を通していった。そこには案の定、さまざまな陰謀論が飛び交っていた。「これらの模様は『ヴォイニッチ手稿』の文字に似ている」と指摘する者もいれば、「ただの狂気的な集団が自作のシンボルとして使っているだけだ」と断じる意見も目立っていた。
2040年現在、『ヴォイニッチ手稿』はかつて一世を風靡した都市伝説として、世間からは半ば忘れ去られた存在になりつつある。
手稿の内容は20世紀から謎のままだ。現代においても解読は成功しておらず、技術が大きく進歩したこの時代――特にAIがシンギュラリティ(技術的特異点)を迎え、人間の知性を超え始めたと言われる時代――でさえ、その文法や意味は解き明かされていない。これほどの技術をもってしても解読できないため、「文法的にも成立しておらず、単なるいたずら書きだ」という見解が主流になっている。
この見解の広まりとともに、『ヴォイニッチ手稿』への関心は急速に薄れた。かつて世界を騒がせたその存在も、今では一部の熱心な都市伝説ファンの間で細々と語られる程度になっていた。
しかし、今回の連続殺人事件に関連する模様をきっかけに、『ヴォイニッチ手稿』は再び注目を集めているようだった。ニュースのコメント欄には「手稿との関連性を調べるべきだ」といった意見が増えており、その影響か、『ヴォイニッチ手稿』が検索急上昇ワードにランクインしていることも確認できた。
慎二はそんな情報を目にするたび、さらなる疑問が膨らんでいった。忘れ去られつつあった都市伝説の手稿が、なぜ今になって、連続殺人事件の現場に、まるで何かを伝えるかのように残されているのか。
「誰かが、何かを伝えようとしている……」
慎二は呟きながら、ふと思い出した。林山からもらった『ヴォイニッチ手稿』に酷似した画像。遠藤健児にその画像を見せたとき、彼が言っていた言葉が慎二の脳裏に蘇る。
『それは、『僕たちの手紙』だ。君が手に入れた経緯は非合法だが、歓迎しよう。だが、その一歩が僕たちに届いたらの話だがね』
「……もしかして、この殺人事件には『ソティラス』が関与しているのか?」
慎二の思考はさらに深まっていった。ただ単に、『ヴォイニッチ手稿』の文字が使用されているという共通点だけでは、殺人事件と『ソティラス』を結びつけるには弱い。偶然、連続殺人事件を引き起こしている狂気的な犯人たちが『ヴォイニッチ手稿』の文字を模様として使った可能性も否定できない。しかし、遠藤の言葉を手がかりにすると、これまでの点と点が線となるように感じられた。
慎二は思い返す。林山から画像をもらい、それを遠藤に見せたときの遠藤の反応。あのときの遠藤の言葉は、まるで「自分たちの思想を広めたい」「より多くの人々に知ってほしい」という意図を持っているかのようだった。だからこそ、林山が画像を入手した経緯が「非合法」であっても、遠藤はそれを好意的に受け入れていたのだろう。
そして、殺人事件。この事件の現場に残された模様が『ヴォイニッチ手稿』と関連づけられることで、かつて人々の記憶から消えかけていた手稿は再び注目を集め始めている。それはまさに、「多くの人々に見てもらう」という目的を果たしているかのようだった。
「……つまり、あの模様は単なる狂気の産物じゃない。『ソティラス』が仕組んだ意図的なものかもしれない」
慎二の頭の中で、ひとつの仮説が形を成していく。それは、『ソティラス』が事件を通じて『ヴォイニッチ手稿』を表舞台へ引き戻し、自らの存在意義や思想を広めるための行動ではないかという考えだった。
慎二の胸には冷たい不安が押し寄せていた。まるで誰かが、遠くから慎二の一挙一動を見守っているような錯覚を覚えながら、彼は深く息を吐いた。
頭の中に残るのは、一つの大きな疑問だった。「なぜ、この連続殺人事件が『火星移住プロジェクト』の当選者発表時期と重なるように増加しているのか」ということだ。
「もし思想を広めたいのが目的なら、最初からもっと大々的に事件を起こしたり、宣伝活動みたいなことをしてもいいはずだ……」
慎二は自分の考えを整理するように、ぽつりぽつりと呟いた。殺人事件が増えた時期と『火星移住プロジェクト』の関連性。それは偶然の一致なのか、それとも何か意図的なものがあるのか。
「もしかして……『ソティラス』は『火星移住プロジェクト』と何か関係があるのか?」
慎二はその可能性を思い浮かべたが、そこから先は闇の中だった。仮にそうだとしても、どのように関係しているのか、どんな意図があるのか、全く見当がつかない。
「……分からないな」
慎二は椅子にもたれかかり、深い息を吐いた。『火星移住プロジェクト』の当選者発表と連続殺人事件の増加が結びつく理由。その関連性を疑いながらも、現時点では何の証拠もない。考えれば考えるほど、答えの出ない迷路に迷い込んでいるような感覚に陥るだけだった。
その時――インターホンが突然鳴った。
静まり返った家の中に響く電子音に、慎二の心臓は一瞬跳ね上がった。胸の奥からじわじわと広がる冷たい恐怖が、慎二の体を硬直させる。時計の針は午前1時を指していた。この時間帯に訪問者が来ることなど、普通なら考えられない。
「誰だ……こんな時間に……」
慎二は呟いたが、答えが返ってくるはずもない。不安と嫌な予感が重なり、胸の中で大きく渦を巻いていく。それでも、人間の本能なのか、恐怖の裏にある好奇心が勝り、慎二はゆっくりと自室を出て一階へと降りた。
玄関の方からは、父の少し苛立った声が聞こえてきた。
「常識がないやつだな……一体、誰なんだ」
父はぶつぶつと文句を言いながら、インターホンのモニターに目を向けていた。慎二は恐る恐る父の背中を見つめ、その表情をうかがった。父の眉間にはわずかに皺が寄り、画面に映る訪問者への警戒心が滲み出ている。
「……どちらさまで?」
父が応答ボタンを押し、インターホン越しに問いかけた。その瞬間、モニターに映る人物の顔が慎二の視界にも飛び込んできた。だらしない服装に、見覚えのある顔立ち――遠藤健児だった。
「遠藤……?」
慎二は思わず名前を口にした。父は怪訝そうに慎二を振り返り、尋ねる。
「知り合いか?」
「うん……一応ね」
慎二は曖昧に答えた。一昨日の『ソティラス』での出来事が頭をよぎり、胸がざわつく。遠藤の登場は予想外だったし、この時間帯に訪れる理由が全く見当もつかなかった。いや、そもそも慎二は実家の場所を遠藤に話した覚えはなかった。
インターホン越しに遠藤の声が響いた。
「慎二くん、いますか? 少し話したいことがあって……」
慎二は父の視線を感じながら、一瞬どうするべきか迷った。実家の場所を教えていないはずなのに、こうして訪ねてきた遠藤。十中八九、何か良くないことが絡んでいるのは間違いなかった。しかし、ここまで巻き込まれてしまった身である慎二は、恐怖を押し込め、自分の身の回りで起きている出来事の真相を知りたいという気持ちが勝っていた。
「お父さん、代わるよ」
慎二は静かに言い、応答を変わるため父に手を伸ばした。父は一瞬慎二をじっと見つめたが、無言で応じて譲った。
「……友達との付き合いも考えろよ」
父は不機嫌そうに言い残しながら、少し苛立ちを滲ませてリビングに戻っていった。予想外の訪問であることを後で父に説明しようと慎二は心の中で思った。
慎二は深呼吸をし、インターホンのマイクに向かって低い声で問いかける。
「遠藤、こんな時間に何の用だ?」
「慎二か……少し話せないか? 急なんだけど」
慎二は遠藤の声の調子に何か不穏なものを感じつつ、短く答えた。
「わかった、今行くよ」
慎二はインターホンの応答を切り、急いで上着を羽織って外へ出た。夜の冷たい空気が肌を刺すようだった。玄関の明かりの下には遠藤の姿があった。『ソティラス』の集会で会ったときよりも少しやつれた印象を受けたが、その目には妙な鋭さが宿っている。どこか普通ではない雰囲気を慎二は感じ取った。
遠藤は慎二の顔を見つめながら、口を開いた。
「あの時はごめん……俺、少しカッとなりすぎたみたいだ」
慎二は不意の謝罪に少し驚き、警戒心を緩めるべきか迷った。てっきり、何か良からぬ目的で訪ねてきたのではないかと身構えていたからだ。
「あ、ああ。全然気にしてないよ。それより、何でこんな時間に来たんだ? そもそもさ、俺、遠藤に実家の場所なんて教えてないだろ? それに、俺がここにいるって何で分かったんだ?」
慎二の言葉には、自然と疑念と警戒心がにじみ出ていた。
遠藤は少し困ったような表情を浮かべながら答える。
「場所は高村から聞いた。ただ、それよりも……あの時のことを謝りたかった。それだけなんだ」
「一也が……?」
慎二は一也の名前が出た瞬間、胸の奥がドキリと跳ねた。一也があの出来事に巻き込まれた手前、慎二の居場所を簡単に遠藤に教えるとは思えなかった。だが、もし本当に一也が教えたのなら、それはどういう理由があってのことなのか――慎二の中で警戒心と疑念が次第に大きく膨らんでいった。
「……まさか、一也に何かしたんじゃないだろうな?」
慎二は険しい表情で問いかけた。その声には隠しきれない不安と怒りが混ざり合っていた。遠藤は慎二の反応に小さく肩をすくめながら、まるで慎二の心配を愉しむかのような様子で答えた。
「そんなことするわけないだろ。ただ、僕たちが彼にお願いしただけだよ。暴力なんて使ってないさ。高村くんは僕たちの仲間になったんだからね」
「仲間……? 一也が『ソティラス』に入ったっていうのかよ!?」
慎二の声が思わず大きくなった。驚きと動揺が露わになり、声に震えが混じる。
遠藤は慎二の反応に満足したような笑みを浮かべながら、冷静に頷いた。その表情には薄らとした優越感すら漂っていた。
「そうさ。だから彼は僕たちを受け入れてくれたよ。そして、僕が慎二くんに謝りたいって話をしたら、すごく嬉しそうに君の居場所を教えてくれた」
「……嘘だろ……?」
慎二はその言葉を信じることができなかった。一也が『ソティラス』の一員となったこと――それをあっさりと受け入れるのはあまりにも衝撃的すぎた。一也は確かに、慎二と一緒に『ソティラス』の集会に行き、追い出されて、逃げ帰った。その時の彼の反応からは、こんな結果を予感させるものは何もなかった。
「どうして一也が……そんな簡単にお前たちに協力するんだよ?」
慎二は必死に問い詰めるように言った。その声には、信じられない現実を何とか否定したいという切実な思いが込められていた。だが、遠藤はそんな慎二をじっと見つめ、静かに答えた。
「簡単なことさ。高村くんはね、僕たちの目的に興味を持っただけのこと」
その言葉に、慎二の胸が再びざわついた。信じたくないという気持ちが慎二の心を覆い尽くす。遠藤の言葉が本当なら、一也はもう『ソティラス』に引き込まれてしまったのだろうか。
「でも安心して。彼は今、とても楽しそうにしてるよ。慎二くんもきっと分かるさ。僕たちの側にいると、色んなことが分かり始める。慎二くんだってきっと興味が湧くはずだ」
遠藤はまるで誘うような声で言葉を続けた。その目には不気味な確信が宿っている。慎二はその視線にぞっとしながらも、気持ちを強く持とうと懸命に耐えていた。
「俺はお前たちの仲間になるつもりなんてない。何があってもだ」
慎二は言葉に力を込めて断言した。その決意を示す眼差しには、揺るぎない強さが宿っていた。しかし、その言葉に遠藤は全く動じることなく、不気味な笑みをさらに深めた。
「……まあ、それは今のところの話だろうね」
遠藤の口調は余裕に満ちており、その一言にはどこか確信めいた響きがあった。そして彼は何かを思い出したように、慎二をじっと見つめながら話を続けた。
「あ、そうだ。謝るのが一番の目的だったんだけどさ、友達として君に伝えておきたいことがあるんだよね」
「何をだ……?」
慎二は警戒しながら問い返す。その瞬間、遠藤は慎二に一歩近づき、顔を寄せて耳元で囁くように言った。その動きは慎二の緊張をさらに引き締めた。
「『火星移住プロジェクト』には気をつけろ。君が当選者だってことは知ってる。明日のオリエンテーション――行かない方がいい。そして、火星に行こうなんて、絶対に思わないことだ」
「……どういうことだよ」
慎二は声を荒げることなく、冷静に問い返した。しかし、その心の中では警戒と困惑が混じり合っていた。遠藤の言葉には、単なる脅しとは違う何かが含まれているように感じられた。
遠藤は慎二の反応を楽しむように少し笑みを浮かべながら、さらに声を低くして言葉を続けた。
「あそこは神の領域だ。いや……正確には、この太陽系全体がそうだと言った方がいいかな」
「また意味ありげなことを言って、俺を惑わす気か?」
慎二の苛立ちが混じった声に、遠藤は首を小さく振った。
「違うさ。これは事実だよ、慎二。宇宙人がなぜ地球に来ないか、君は考えたことがあるかい? それは――」
その時、不意に低い声が遠藤の話を遮った。
「おい、喋りすぎだ」
遠藤はその言葉にハッとして、慎二との距離を一気に取った。声のした方向に目を向けると、そこには『ソティラス』の集会で見かけた中村の姿があった。
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