第2話 ウワサの話

 電車が静かに駅に滑り込み、設楽したら慎二しんじはゆっくりと車両を降りた。昼過ぎの穏やかな空気の中で改札を抜け、バイト先のスーパーへと足を向ける。昼下がりの街は少し静まり返り、歩道を行き交う人も少ない。秋の柔らかな陽射しがやんわりと街路樹や歩道を照らし、木々が黄色や赤に色づき始めている。どこからともなく漂う秋の香りと、冷たい風がときおりふわりと頬をかすめるたびに、慎二は深く息を吐き、少し浮ついた気持ちを引き戻そうと歩調を整えた。


 駅から歩いて数分すると、見慣れたスーパーの看板が遠くに見えてくる。少し色あせてきたその看板が、秋の光にくすんで映り、どこか落ち着いた雰囲気を漂わせている。そんな見慣れた景色が慎二の目に入ると、ふと夢見がちな気持ちが薄れ、彼は自然と『日常』へと戻っていく感覚を覚えた。気持ちを整え直すように軽く首を振りながら、慎二はスーパーの裏口に到着し、従業員専用のドアを押して店内へと入った。


 店内に足を踏み入れると、午後の活気がそこかしこに漂っている。店内にはBGMが控えめに流れ、レジからは小銭が触れ合う音や商品のバーコードを読み取る電子音が聞こえてくる。忙しそうに品出しの準備をしているスタッフや、商品の補充に精を出しているパートの人々が、入れ替わるように廊下を行き交っている。慎二はそのざわめきに包まれ、自然と自分の役割へと気持ちを切り替えた。


 男子更衣室へと向かう途中で、数人のパートスタッフと軽く挨拶を交わし、慎二はその流れの一部としての自分を感じた。更衣室のドアを開けると、そこには他のスタッフの制服やロッカーが並び、どこか身近な安心感が漂っている。彼は静かに自分のロッカーに向かい、制服のシャツを手に取ると、心を落ち着けるように丁寧に袖を通した。ベストのボタンを一つずつ留めながら、いつものように自分がすべきことに気持ちを向け直す慎二の心は、日常の一員としての感覚に徐々に馴染んでいくのだった。


 そのとき、更衣室のドアが開く音がした。慎二がドアの方へと目をやると、そこに立っていたのはパート仲間のおじちゃん、林山はやしやまだった。

 林山も慎二と同じ制服に身を包み、襟付きのシャツに黒のベストというスタイルが、その少しゆったりとした体型にしっくりと馴染んでいる。年齢は60手前くらいだろうか。所々に白髪が混じり始めた髪が、少し乱れているが、それがまた林山の飾らない人柄を表しているようにも見えた。丸みを帯びた穏やかな顔には、いつもの気さくな笑みが浮かび、慎二も自然と表情が緩んだ。


 林山はにこやかに軽く声をかけてきた。


「お、慎二君。今日はこの時間からかい?」


 飾り気のない一言に、慎二も思わず笑みを返す。


「林山さんもお疲れさまです! 午前中は大学の講義があったので。今日もよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくね! それにしても、今日はなんだかやけに元気そうだな? それと、何やら今日はご機嫌の様子だけど、何かあったのかい?」


 林山は、親しげな目で慎二の顔を覗き込むように見つめ、少し首を傾げて興味深げに尋ねてきた。その柔らかな視線に、慎二は一瞬戸惑い、少し目線を逸らす。どうやら、自分では気づかないうちに嬉しさが顔に出ていたらしい。それに気づくと、慎二は少し照れくさくなり、内心で火星移住プロジェクトに当選したことが思い返される。しかし、そのことをどこまで話して良いのか自分でも判断がつかず、気持ちが揺れた。


「い、いや、そんなことはないですよ。ただ、ちょっと気分が良いだけで」


 慎二は少し照れ笑いを浮かべ、軽く肩をすくめてみせた。


「そっか、そっか」


 林山はいつもの調子でニヤリと笑いながら、ベストのボタンを留め直し、シャツの裾を軽く引っ張って整えた。そんな何気ない仕草に少しの誇らしげな様子が感じられ、慎二も思わず肩の力を抜き、緊張が和らいでいく。二人のいつも通りのやり取りに、慎二は小さな安堵を覚えながら、気持ちを落ち着かせるように自分のベストの襟を整えた。


「さて、今日も頑張りましょうか」


 そう言って、更衣室を出て仕事に向かおうとしたその時、林山が「あ、そうだ」と思い出したように声を上げた。慎二は足を止め、林山がこちらに手を向けて呼び止めるのを振り返る。


「ちょっとこれを見てくれないかい?」


 そう言いながら林山はズボンのポケットに手を入れ、何かを探し始めた。その手元が少しもたつき、林山はわずかに焦ったような表情を浮かべている。


「良いですよ、なんですか?」


 慎二がそう応えると、林山はようやくポケットからスマートフォンを取り出し、画面を慎二に向けて見せた。


「設楽くん。君はこれのことを知っているかい?」


 画面に表示されたのは、奇妙な植物のイラストだった。細い茎が絡み合い、不規則に伸びた先には、螺旋状に並んだ葉が生えている。見たこともない種類の植物が、どこか生物的で、不気味な存在感を漂わせていた。慎二はそのイラストを取り囲むように書かれた奇妙な文字の羅列に目を留めた。どこか古代の文字にも似ているが、見たことのない記号がびっしりと並び、まるで何かの暗号のように感じられる。


「なんですか? これは」


 慎二は画面から目が離せず、困惑した表情で問いかけた。普段はいつも明るい林山が、この画像についてはどこか神妙な顔つきで、少しばかり気味悪そうに見つめている。その様子に、慎二も心の奥に小さな不安が広がるのを感じた。


 林山は困惑した表情を浮かべながら、スマートフォンを握る手にわずかな震えが見えるようだった。


「実はね、2日前に私の息子が急にメッセージで送ってきたんだよ。文書も何もなく、いきなりこの画像だけ……あまりにも不気味なもんだから、これが何なのか聞こうと思って何度かメッセージや電話で連絡してるんだが、息子からはまだ返信が返ってきてなくてね……一応、ネットで調べてみたりもしたんだが、あんまりよく分からなかった」


 その言葉に慎二は眉を寄せ、画面をじっと見つめる。林山の声にはわずかな苛立ちと不安が滲んでおり、普段の落ち着いた様子からは想像できないほどだった。その様子に、慎二も何とも言えないざわつきを感じ始めた。


「もしかして、若者の間でこういう変なイラストが流行ってるのかと思ったんだが……そういうわけでもないのかね?」


 林山は慎二に助けを求めるように問いかけた。慎二はその画面を改めて見つめ、少し考え込みながら首を横に振った。


「こんなの見たことないですね……」


 慎二は小さく呟く。画面に映る奇妙な植物と不可解な文字列が、まるで触れるだけで何か異質なものに取り込まれてしまいそうな不気味さを漂わせている。その異様な雰囲気に呑まれそうになり、どう返事をすれば良いのか戸惑った。


 林山は「そうか、そうか」と小さく頷きながらも、視線をスマートフォンの画面から離せずにいた。

 いつもは気さくで、物事に動じることの少ない林山が、こんなにも不安げな様子を見せることは滅多にない。林山の顔は、少し青ざめて見え、その表情に慎二も胸の奥で不安が静かに広がっていくのを感じた。奇妙な植物と不可解な文字の羅列——ただの偶然なのか、それとも何かの前触れなのか。冷たい何かが胸の中をざわつかせ、慎二は自然と視線を逸らしたくなったが、気になってどうしても目が離せない。


「ごめんなさいね、仕事の前にこんな不気味な話に付き合わせちゃって!」


 林山は急にいつもの調子に戻したように、気さくな笑顔を作りながら軽く笑ってみせたが、その笑顔はどこかぎこちなく、普段のような安心感を慎二に与えられていない。それどころか、その無理に明るさを装った様子が、逆に林山の内心の不安を浮き彫りにしているようにも見えた。


「いえいえ!僕もお力になれずすみません……もしかしたら、僕が知らないだけで、周りの友人とかは知ってるかもしれません。今度、聞いてみますよ」


 慎二は林山を少しでも安心させるため、なんとか言葉を捻り出す。すると林山は先程のぎこちない笑顔から表情を緩ませる。


「ほんとかい!それはありがたい!」


 林山は少しだけ安堵の表情を浮かべ、肩の力が抜けたように軽く息を吐き出した。そして、「この画像、君に送ってもいいかい?」と控えめに尋ねてきた。


「もちろんです!それなら後で確認してみますね」


 慎二がそう答えると、林山は再びスマホを操作し、慎二へ画像を送信した。送信が完了すると、慎二のARグラスにもすぐに通知が届き、画面の隅にあの奇妙な植物のイラストが薄暗く映し出される。その瞬間、慎二は、さっきまで単なるスマホの画像として見ていたものが、現実の視界に重なることで、より不気味さを増したように感じた。見たこともない植物、理解できない文字……慎二はそのイメージが自分の視界にあるだけで、微かに背筋が冷たくなるのを感じた。


「じゃあ、わかったらすぐに報告しますね!」


 慎二は無理に笑顔を作って言ったが、どこかその笑顔がぎこちなく、表情に硬さが残っていることに自分でも気づいていた。


「本当に助かるよ! 全く、うちの息子も君みたいにこんなに素直だと、もうちょっと親に連絡の一つでもしてくれるんだけどねぇ」


 林山は軽くため息をつきながら、冗談めかして「ほんと、しょうがないよね」と言ったが、その声には少しだけ本音が滲んでいるように感じられた。年を重ねるにつれて遠ざかる息子との距離、そしてその息子から突然送られてきた奇妙な画像に、林山も言葉にできない不安を抱えているのだろう。


 慎二は「はは……そうですか」と軽く笑いながらも、その不安が自分にもじわじわと移ってくるようで、胸の奥にわだかまりのような感覚が残った。


 ふと、林山が少し誇らしげな顔をして慎二の方を見た。「でもね、うちの息子もすごいところがあってさ……今、東京大学の理学部で天文学の助教をやってるんだよ!」


「ほんと、すごいですよね」と慎二は相槌を打ちながら、心の中で「また始まったな」と思った。林山は息子の話になるとつい熱が入る。少し長くなりがちなのはわかっているが、今日はなんとなくその話に付き合ってやろうと思い、慎二はそのまま黙って耳を傾けることにした。


 しばらくの間、林山の息子自慢が続き、慎二も「そうなんですね」「へえ、すごいな」と適度に相槌を打ちながら聞き流していた。

 林山が自分でも話が長くなってきたことに気づいたのか、ふと腕時計を見て、あわてたように時間を確認した。その顔にはどこか申し訳なさそうな表情が浮かんでいた。


「さて、そろそろ仕事に行かないと、マネージャーさんに怒られちゃうな」


 林山は苦笑いを浮かべ、軽く肩をすくめてみせる。そう言いながらも、慎二にとっては息子の話で少しだけリラックスしたように見えるのが不思議だった。


 林山は気を取り直すようにシャツの襟を丁寧に整え、ベストのボタンを留め直して、背筋をピンと伸ばしてから更衣室の出入り口へと向かう。その背中を見ながら、慎二も気持ちを切り替えようと軽く深呼吸をし、いつものように日常に戻っていく準備を整えた。


「そうですね!行きましょう!」


 慎二も少し明るく声を張り上げ、心を切り替えようとしたが、どこかにくすぶる不安がまだ静かに残っていることに気づいた。自分の中で押し殺しながら、慎二は林山と共に更衣室を出て、広々とした売り場へと向かった。


 昼過ぎの店内は徐々に来店客が増え始め、商品棚の前にはあちこちでお客さんの姿が見える。慎二は、林山に軽く手を振って挨拶を交わすと、まずは品出しの準備を始めた。カートに積まれた段ボール箱を一つずつ開封し、売り場の棚へと手際よく商品を並べていく。


 今日はお菓子コーナーの品出し担当だ。お菓子の箱を手に取って棚の前にしゃがみ、慎二は商品の高さや位置を調整しながら、見やすく、手に取りやすくなるよう工夫を凝らして並べていく。カラフルなお菓子のパッケージが並ぶ棚を見ていると、自分がいつもの日常に戻ってきたという安心感が、ふっと心に広がっていった。あの奇妙な画像も、今は頭の片隅に追いやることができたようだった。


 品出しを一通り終え、立ち上がったそのとき、声をかけられ振り向くと、年配の女性がカートを押しながら慎二に近づいてくる。


「すみません、コーヒーの売り場ってどこかしら?」


 慎二はにこやかに微笑み、「はい、コーヒーは少し奥の飲料コーナーになります。ご案内しますね」と柔らかい声で答え、女性の前を歩き、飲料コーナーへと案内を始めた。

 途中、女性が「最近、セルフレジが多くなって難しくてねぇ」と、少しぼやくように話しかけてきた。慎二はその言葉に軽く頷きながら、「わかります。セルフレジも最初は戸惑いますよね。でも、慣れれば使いやすいですよ」と親切に応じると、女性は少し安心したように微笑んだ。


 案内を終えると、今度はセルフレジの近くで操作に困っている様子の若い男性客が目に入った。画面をじっと見つめながら、首をかしげている姿に気づいた慎二はすぐにそばに寄り、「何かお困りでしょうか?」と声をかける。


「あ、すみません。このバーコードをどう読み取ればいいのか分からなくて…」


 慎二は落ち着いた声で、男性に手順を一つひとつ丁寧に説明していく。


「まず、こちらに商品をかざしてみてください。それから、『支払いへ進む』ボタンを押して、支払い方法を選べば大丈夫です」


 男性客は慎二の説明に従って操作を進め、無事に会計を終えると、ほっとした表情で「ありがとうございます!助かりました」と軽く頭を下げた。

 慎二は「いえ! また何かありましたらお声がけくださいね」とにこやかに答え、次の対応に移った。


 慎二は次々と品出しをし、セルフレジで困っている客のサポートをしながら、淡々と仕事をこなしていた。周囲では日常が平然と続き、店舗のBGMや商品のビニールが擦れる音が店内を包み込み、買い物客たちがあちらこちらで商品を手に取る姿が見られた。店の中はいつものように穏やかで、何か異変があるわけではない。だが、慎二の心の奥には、先ほど林山に送ってもらった奇妙な植物と文字の画像や、林山の不安そうな表情がこびりついているように残っていた。


「ただの変な画像だよな……」


 慎二は内心で自分に言い聞かせようとするが、どこかその言葉も表面的なものでしかなく、心の中に漂うもやもやは消えそうになかった。顔には出さないようにしていたが、意識の片隅で何かがくすぶっているのを感じる。


 それでも仕事を続けているうちに、徐々に日常のリズムに心が馴染んでいき、慎二は少しずつ不安を押しやるように集中し始めた。


 そんな時、ふと、少し離れたところで二人組の専業主婦が立ち話をしているのが目に入った。買い物カートに手をかけたまま、おしゃべりをしている彼女たちの声が、近くで作業をしていた慎二の耳にふいに届いてきた。


「……また近くで殺人事件が起きたんですってね」


「全く……警察は一体なにをやってるのかしらね」


 慎二はその言葉に手を止めかけ、さりげなく耳を傾けた。二人が話しているのは、ここ最近街を騒がせている連続殺人事件のことらしい。慎二もニュースでその存在を知っていた。遺体が無惨な状態で見つかっているらしいが、詳細は報道されていない。それでも、ただの事件ではないという不気味さが噂として広がり、まるで冷たい影のように街を包み込んでいた。


 慎二も同じ街に住む住人として関心はあったが、その残忍な手口にどこか現実感が湧かず、どこか遠い出来事のように思えていた。少し不気味には感じつつも、自分とは関係のない出来事だと思い込もうとしていたのかもしれない。


 しかし、こうして目の前で誰かがその話題に触れるのを耳にすると、自然と胸にざわつくものが湧き上がる。友人とこうした話をする機会は少ない慎二にとって、他人がどんなふうに感じているのか気になり、品出しの手を止めずに聞き耳を立てる。


「犯人の目的や動機は不明なんですって。証拠は残っているらしいけど、全く犯人が特定できないみたい」


「ほんと、警察はなにをやってるのかしらね。こんなに何も進展がないなんて、正直不安になるわ」


 主婦の一人が苛立ちをにじませた声で言うと、もう一人も眉をひそめ、気味悪そうに肩をすくめた。その苛立ちと不安が、慎二の中にも少しずつ伝染してくるようだった。


 専業主婦の二人組が殺人事件の話を続けながら、スーパーの奥へと歩いていくのを見届けると、慎二は一つ息を深く吐き、心の中のわずかなざわつきを振り払おうとした。


「殺人事件かぁ……」


 慎二はぼんやりと呟いたものの、どこか実感が湧かない。この街のどこかで実際に起きている不穏な事件だというのに、自分の日常には直接関係のない、遠い話のようにも思えてくる。だが、心の奥底に、静かにくすぶるような不安が残っているのも否めなかった。さっきまでのささやかな緊張が、少しだけ体を硬くさせているのを感じる。


「まあ、どうせ自分には関係ない話だよな……」


 そう自分に言い聞かせるように呟いてみたが、少しだけ苦笑が浮かぶ。慎二は気持ちを切り替えようと、カートに積まれたダンボールに目を移した。そこにはぎっしりと商品が詰まっており、品出しを待っている商品がどっさりと並んでいる。それを見ていると、自分がやるべきことが目の前に山積みである現実に、自然と意識が引き戻された。


「殺人事件よりも、今は早く万能ロボットを導入してほしいよ……」


 慎二は冗談交じりに小さく呟き、ダンボールを手に取る。

 最近、ネットニュースで紹介されていた最新型の万能ロボットの映像が脳裏に浮かぶ。大手の企業や全国チェーンのスーパーでは、すでにそのようなロボットが導入され、品出しや棚整理、さらには接客対応までこなすと聞いている。そんな最先端のロボットがいれば、今こうして自分が手作業で品出しをしているこの時間が、ぐっと短縮されるのだろう。


 しかし、自分が働いているこのスーパーは、街に数店舗を構える小さなチェーン店に過ぎない。最先端のロボットを導入するには莫大な資金がかかるため、どちらかといえば節約が求められている環境である。慎二はその現実に少し苦笑しつつ、また手元の作業へと意識を戻した。


「……結局、当分は俺たちがこうして品出しをやるしかないか」


 慎二はつぶやきながらダンボールから商品を取り出し、手際よく棚に並べていった。商品を一つひとつ陳列しながら、自然と自分がこなしてきた仕事の数を思い返す。繰り返しの作業に慣れてはいるが、それでも終わりが見えないと感じると、少しだけ疲れが顔に滲んでしまう。


「今日も残業かな……」


 慎二は小さくため息をつき、次のダンボールを持ち上げた。重さが手にかかり、少しだけ腕に負担を感じながらも、淡々と次の商品を並べていく。これが今の自分の現実だと思いながらも、ふと心の奥には、遠い火星移住の夢がぼんやりと浮かんだ。あの夢が本当に実現したとき、こうした日常から自分はどのように変わるのだろうか——そんな淡い期待を抱きつつ、慎二は静かに仕事を続けていた。

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