第104話 地味に受付嬢の名前を聞くタイミングを逸しちゃった
翌朝、準備をし終えると、3人娘が訪ねてきたので一緒に1階のレストランに行き、朝食を食べる。
「2人共、体調は大丈夫か?」
潰れてたエーリカとレオノーラに聞く。
「はい。昨日はすみませんでした。ちょっと飲みすぎちゃいましたよ」
「ホントにねー。お酒が美味しかったんだよ」
それほど試験が終わったことで肩の荷が下りたんだろうな。
しかも、手応えがあるみたいだし、そりゃ嬉しいわ。
「まあ、身体が大丈夫なら良かったわ」
顔色も良いし、今日もバイキング相手に朝からギアを徐々に上げてるようだから大丈夫だろう。
「夜中に目が覚めた時は頭が痛かったんですけどね。あの薬を飲んだらすぐに良くなりましたよ。その後はぐっすりです」
「あの薬は本当にすごいよね。サプリメントといい、ジーク君のおかげで体調がいつも良いよ」
この世界は栄養学が発展しておらず、皆、経験でしか知らないからな。
「どこでそういうのを学ぶのかしら?」
アデーレが首を傾げる。
「前世」
「はい?」
アデーレがさらに首を傾げた。
「まあ、なんでもいいだろ」
「ふーん……まあいいわ。それよりもジークさん、もう9時だけど、本部には行かなくてもいいの?」
本部の始業時間はリート支部と同じく8時半だ。
「俺は本部の人間ではないし、お客様だから別にいいの。今日もベースとなる剣ができたら帰る」
予想は3時。
「へー……楽でいいわね」
「まあな。それにずらした方がいいだろ。会いたくない奴と遭遇する確率が下がる」
主にアウグストだが、向こうが俺を知っていて、俺が知らないパターンの人間が何人もいると思うのでちょっと避けたい。
「確かにね……今日の晩御飯はどうする?」
「ホテルでいいだろ。美味いし」
「まあね。2人もそれでいい?」
アデーレがエーリカとレオノーラに確認する。
「はい。美味しいですよねー」
「ジーク君の部屋ね。出る時にホテルの人に言っておくよ」
まあ、俺の部屋でいいだろ。
俺達は今日の予定を決めると、朝食を食べ終え、解散した。
そして、部屋に戻ると、準備をし、ヘレンとホテルを出る。
「皆さん、試験の出来が良さそうで良かったですね」
「頑張ってたからな」
「もし、落ちていても責めてはいけませんよ?」
そんなことせんわ。
「落ちていても問題ない。すぐにエンチャントができるようになったくらいだし、いずれ6級、5級にでもなれる」
もっとも、試験は飛ばして受けることができないので最低でも1年はかかる。
まあ、そこまで急いでいるわけではないからいいんだけど。
「ジーク様、御三方が受かったらサイドホテルですね」
3回も行かないといけないわけだ。
ホテルの人は何て思うんだろうか?
「なあ、アデーレもか? 一回行ってるぞ」
「あれはデートです。今回はお祝いです」
あれ、デートなの?
まあ、男女が出かければデートかもしれんが。
「行くか……あの3人なら会話に詰まることもない」
もうアデーレの目も見ることはできる。
「良かったですねー。私は遠慮しましょうか?」
「いや、来い。お前と俺は一心同体なんだ」
憐れなドロテーを見ていると、余計にそう思ってしまう。
「えへへ……じゃあ、行きます」
肩にいるヘレンが頬ずりをしてくる。
とても可愛いと思うのだが、それ以上にこんなに可愛くて尽くしてくれる使い魔を放っておくクリスが信じられないとも思った。
クリスは人の心がわかっても使い魔の心がわからないんだなーと思いながら歩き、本部やってくると、受付に行く。
「よう」
「あ、ジークヴァルトさん、おはようございます」
受付嬢は笑顔で挨拶をしてきた。
「おはよう。昨日の試験はどうだった?」
「なんとか自分の持ってるものは出せたと思います」
機嫌が良さそうだし、こいつも手応えはあったんだな。
「ふーむ……」
受付嬢をじーっと見てみる。
「あ、あの、何か?」
「いや……魔力はそこそこあるし、10級、9級くらいなら勉強すりゃ受かるだろ」
「ほ、本当ですか?」
「勉強したらな。実技は経験を積めばどうとでもなるが、筆記は勉強しかないからな」
実技は感覚でできないこともないが、知識だけは勉強しかない。
「頑張ります!」
頑張ってくれ。
「まあ、本部に就職できるくらいなら問題ないか……今日もクリスの部屋で仕事するから」
「あ、それについてですが、本部長より伝言があります」
「伝言?」
「はい。本部長は朝から協議に出ておられますので伝言を頼まれたんです」
まあ、ウチの支部長と違って、忙しい人だからな。
「何だ?」
「本日、クリストフさんが戻ってくるそうです。ですので、『アトリエをどうするのかはお前らで相談して決めろ』だそうです」
えー……戻ってくんのかよ。
いや、ドロテーのことを考えると、戻ってきた方がいいが、俺の作業スペースがないじゃん。
「クリスは来てるか?」
「いえ、まだですね」
うーん……
「じゃあ、戻ってくるまではクリスのアトリエにいるわ。悪いが、クリスが来たら連絡をくれ」
「わかりました」
「頼むわ」
俺達は受付嬢と別れると、階段を昇っていく。
「どうしようかねー?」
「2人で作業すればいいじゃないですかね?」
「いやー……ドロテーがうるさそうだし、3人娘も来るかもしれんだろ。さすがにクリスに迷惑だ」
あいつはあいつで忙しいらしいし。
「確かに……」
どうすっかなー?
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