第102話 お疲れ様


 昼食を終え、午後からも仕事をしていると、夕方になり、時刻は4時を回っていた。


「ジーク様、そろそろ試験も終わる頃じゃないでしょうか?」

「そうだな。迎えに行くか」


 まだ終業時間ではないが、本来なら休みの日だし、そもそもそういう勤務形態の仕事ではない。

 俺が好きな結果さえ出せばいい仕事なのだ。


 俺達は片付けをし、部屋を出た。

 そして、本部を出ると、歩いて会館に向かう。


「ジーク様、ねぎらいの言葉ですよ」

「わかった」


 ヘレンにアドバイスをもらい、会館に着くと、3人を待つことにした。

 そのまま待っていると、会館から多くの人が出てくる。

 皆の表情は様々であり、自信がありそうな者、逆に落ち込んでいる者など友人知人らしき者と話をしながら歩いている。

 その中で3人娘を見つけた。


「すぐに見つかりますね」

「魔女っ子コスプレ娘がいるからな」


 しかも、カラス付き。


「おー! ジーク君!」


 その魔女っ子コスプレ娘が俺に気付いて手を上げる。


「よう」

「迎えにきてくれたのかい?」

「まあな」

「誰に言われたの?」


 わかるらしい。


「テレーゼ。子供じゃないんだから迎えなんかいらんよな?」

「いるねー」


 いるんだ……


「いっつも正しいのは他人だなー……」


 所詮は人の心がわからない悲しきモンスターよ。


「ジークさんは男性ですからね。こういうのを喜ぶのは女性ですよ」


 エーリカがフォローしてくれる。


「なるほどなー……」


 えーっと、アデーレが疲れ切った顔をしているんだが、なんて声をかければいいんだろう?

 あ、いや、ねぎらいか。


「3人共、お疲れ様」

「うん、頑張った」

「実技試験はちょっと緊張しましたね」

「そうねぇ……ハァ」


 えーっと……


「アデーレ、そんなに大変だったのか?」


 落ちたかな?


「あ、いや、試験のことじゃないのよ」


 ん?


「何があった?」

「ここではちょっと……」

「そうですよ。アウグストのクソ野郎が来るかもしれませんし、ホテルに戻るなり、お疲れ様会をするなりした方がいいでしょう」


 なんかカラスがイキってる……


「ドロテー、お前もお疲れだったな。そのお疲れ様会をするんだが、来るか?」

「いいえ。私はお家に帰ります。それでは……あでゅー!」


 ドロテーは羽をばたつかせると、夕日に向かって飛んでいった。


「一回ホテルに帰るか?」

「そうだねぇ」

「戻ってお疲れ様会です! 私も今日は飲みます!」

「ほどほどにね」


 俺達はこの場をあとにすると、ホテルに戻った。

 そして、少し休むと、ロビーに集合し、ホテルを出る。


「どこ行くんです?」

「前に女子会をしたことがある飲み屋さん。予算も抑えめで料理も美味しい」

「さすがはアデーレさんです。都会女子です」


 港区女子かな?

 どっかで聞いたことがあったが、結局、港区女子の言葉の意味を知ることはなかったし、二度とわからなくなってしまった。

 まあ、非常にどうでもいいんだけども。


「お前もある意味、都会女子だな。最先端ファッションだ」


 今時、こんな魔女みたいな格好をしている錬金術師はいない。


「私が普通の格好をすると本当に子供に見えるよ?」

「いやー……レオノーラさんは子供に見えませんよ」

「大人だものね」


 うーん……こいつらの会話についていけないんだが……


「どちらにせよ、好きでこの格好なんだよ。試験中は帽子を脱げって言われたけどね」


 そりゃそうだ。

 でかすぎるし。


 俺達はそのまま話をしながら歩いていき、とある店に入り、席につく。

 店の内装は木を基調とした店であり、おしゃれのように見える。

 それでいて、メニューに書かれている値段はそれほど高くなかった。


「おー……雑誌でしか見たことがないような店です」

「田舎者みたいなことを言うなよ」


 完全におのぼりさんだな。


「田舎者ですもん」

「まあ、私らはもっと田舎者なんだけどね」

「私達の実家はね……」


 そういやそんなことを言ってたな。


 俺達は飲み物と適当に摘まめるのものを頼む。

 そして、店員が飲み物を持ってきてくれた。

 いつもはジュースのエーリカも軽めのワインを頼んでいる。


「ジーク様、乾杯の挨拶として、ねぎらいの言葉をかけてあげてください」


 ヘレンが勧めてきた。


「えーっと……色々とあったが、お疲れ様。どういう結果になろうと今回勉強したことは必ず役に立つ…………お疲れ様」


 他に言うことあるか?


「ジーク様、頑張りましたねー」

「乾杯」

「「「乾杯」」」


 ようやく飲めると思い、ウィスキーのロックを口につけ、料理をつまんでいく。


「さすがは都会女子。いい店を知っているな」


 美味いわ。


「それ、やめてくれる? 私、王都出身じゃないし。あなたこそ生粋の都会男子じゃないの」

「俺、外に出ないし」

「よくそんなんで私を食事に誘ったわね……」


 手紙の件ね。


「ほら、結果的に来ただろ」


 社交辞令じゃなくなった。


「まあね。御馳走になるわ」

「いやー、ジークさんが来てから良いことしか起きませんね」

「まったくだね」


 エーリカとレオノーラが上機嫌でワインを飲む。

 支部が燃えたことを忘れているのだろうか?

 野暮だから言わないけど。


「好きなだけ飲み食いしろよ。今日は羽目を外してもいいから」

「よーし!」

「潰れたらベッドまでのエスコートをよろしく」


 あと二日酔いの薬な。

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