第085話 にゃー
またもや使い魔達がケンカし始めたが、エーリカが蜂蜜を持ってきたら静かになったので、テレーゼに新しい支部の設計図を渡した。
「うーん……1階にアトリエを置き、受付と併用するわけだね?」
テレーゼが設計図を眺めながら聞いてくる。
「受付に人がおらんからな」
皆の意見として、あの寂しいエントランスを改善しようということになったのだ。
「支部長室も1階だね」
「支部長を入れて5人だからな」
本当に少ないわ。
「将来的に職員が増えたらどうするの?」
「増えてもこの町の規模や支部の人気から考えても10人か20人そこらだと思う。もし、それ以上に増えたとしても2階を改造すればいい」
この町の支部は人気がないし。
「なるほど……」
「テレーゼ。お前、知り合いとかにこの支部に来そうな錬金術師とかいないか? 最悪は資格なしでもいい」
「すみません……私、同門の方しか……」
友達、おらんのか……
「お前、俺以下だな。俺にはアデーレというかけがえのない友人がいる」
「がーん! ジーク君以下……」
そこまでショックを受けるか?
「ジークさん、アデーレさんは同門じゃないですけど、お弟子さんでしょ。同門に友人がたくさんいるテレーゼさん以下ですよ、あなた」
ご機嫌に蜂蜜を飲んでいるドロテーが訂正してきた。
「あ、やっぱりそうか。テレーゼ、一応聞くけど、同門の連中も来ないよな?」
「さすがに……あとやっぱり遠すぎて、良いイメージがないよ。辺境の田舎って感じだもん」
「まあ、俺もここに来るまではそう思ってたしな」
「来てみると、普通に発展しているし、良い町だと思うよ。でも、王都というか、北部の人達はそれを知らないからね。それとジーク君が左遷されたことでリート=左遷の地っていうイメージがあると思う」
俺のせいみたいに言うな。
「お前、来ないか?」
「ごめん……私的には静かなここでもいいかなって思うけど、私は魔導石作成チームにいる。今はどこの町も飛空艇作りが盛んだし、北で戦争が起きているからものすごく忙しいからさすがに抜けられないよ」
魔導石というのは魔石や水曜石なんかの魔力を持つ石の総称だ。
テレーゼはエンチャントが得意だったし、その専門のチームにいるんだろう。
確かに4級のエースは抜けられんわな。
「ダメか……」
「うん。あと、私にも一人だけ弟子がいるんだけど、その子はバリバリの都会っ子だから絶対に来たくないと思う」
テレーゼがこの地に来る場合は必然的に弟子もついてくるわけか。
当然と言えば、当然だが……
あれ? もし、俺が王都に戻った場合はどうなるんだろう?
3人娘を連れていくのか?
ダメじゃないか?
潰れるじゃん、ここ。
「まあ、わかった。帰ったら同門の連中でも何でもいいから良い町だったってアピールしておいてくれ」
「うん、それくらいならいいよ。実際、良い町だしね」
物静かで臆病なこいつはこういう町の方が良いんだろうな。
「それで話を戻すが、支部はこれでいいな?」
「本部長からゴーが出てるし、大丈夫。役所も町長さんから了承を得ているってさっきルーベルトさんが言ってたから問題ないと思う」
さっきルーベルトが言っていた色んなところからの圧力は自分のところの長も入っていたわけだ。
「じゃあ、頼むわ。それでどれくらいでできる? こっちはいつまでもこの部屋で仕事をするわけにはいかんぞ」
勉強ばっかりで仕事してないけどな。
「どれくらいがいいの?」
「3日」
普通は無理だが、それを可能にするのが錬金術師なのだ。
実際、建築系の錬金術師もおり、そいつらは簡単な砦くらいなら1日で作る。
「無理言わないでよ……材料の調達もあるし、専門スタッフも空いてるかわからないんだよ?」
「じゃあ、1週間」
「1週間……一応、そういう申請は出しておくけど、通るかはわからないよ?」
「申請書は10日で出してくれ。でも、備考欄に優秀な王都の錬金術師達なら1週間でできるだろうけど、10日待つことにしますって書いておけ」
本当はもっと煽りたいけど、テレーゼは性格的に書かないだろう。
「そ、そんなことを書くの?」
「備考欄はそういうことを書くところだ」
違うけど。
「わ、わかった。書いてみる……あ、支部長さんの許可とかは?」
「今回のことは俺に一任されているから俺がいいって言ったらいいんだ」
「ジーク君、リート支部の王様になっちゃったね」
「別にそういうわけではない。支部長ができた人だから仕事のことは任せてもらっているだけだ。バカな指示を出してこない上司は最高だぞ」
本部にいた頃も前世でもそういう上司は多かった。
どういう思考回路なのかさっぱりわからずに頭の中を覗いてみたいって何度も思ったわ。
「それは……まあ……」
テレーゼも上司に苦労しているっぽいな。
でも、テレーゼは俺と違って反抗しないんだろう。
それが良いのか悪いのかはわからない。
「お前、溜め込んで鬱になりそうだな」
「大丈夫だよ。思っていることをしゃべってくれる弟子がいるから」
バランスの良い弟子を持ったんだな。
ウチもだけど。
「そうか。まあ、頑張れ」
「うん。ジーク君も大変だろうけど、頑張ってね。じゃあ、私はこれで……町長さんとか軍の方と話をしたら帰るよ」
「もう帰るのか? もしかして、日帰り?」
「だね……忙しいんだよ……帰っても仕事かな……」
魔導石製作チームは大変だな。
まあ、戦争しているから仕方がないか。
「じゃあ、申請の方を頼むわ。ドロテー、ようやく帰れるぞ」
「ようやくクリス様に会えますよー」
良かったな。
「クリスさんはまだ帰ってないよ……」
「え? じゃあ、私は家で一人ですか?」
お留守番か。
可哀想に。
「えっと……ウチくる?」
「テレーゼさんのところって使い魔がいましたっけ?」
「私はジーク君やクリスさんみたいに魔術師じゃないから使い魔はいないよ」
普通、錬金術師は使い魔を持たない。
実際、3人娘も持ってない。
「じゃあ、テレーゼさんのところにお邪魔しましょうかね。ここも悪くないですが、王都に戻ってクリス様を出迎えねばなりません」
蜂蜜を飲み終わったドロテーが羽ばたいて、テレーゼの肩にとまった。
「じゃあ、ジーク君、またね。御三方も試験頑張ってください」
テレーゼは立ち上がると、頭を下げる。
「じゃあな」
「ありがとうございます」
「申請よろしくー」
「気を付けて帰ってください」
テレーゼは俺達が挨拶を返すと、ニッコリと微笑み、部屋から出ていった。
「ドロテーちゃんも帰っちゃったね」
ドロテーに懐かれていたレオノーラが少し寂しそうにつぶやく。
「騒がしい奴だったわ」
「まあね。でも、可愛いもんだよ。私も使い魔が欲しくなるよ」
「おすすめは猫だぞ」
すごく可愛い。
「いや、やめておくよ。というか、絶対にヘレンちゃんとケンカするでしょ」
するだろうなー……
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