第077話 今後は?


 俺達は支部に戻ると、一度解散した後、エーリカの家に集まり、朝食を食べた。

 そして、外に出て、呆然と支部を眺めていると、支部長が戻ってきたので今回の顛末を説明する。


「空港に着いてからあちこちに軍の者がいて、慌ただしく動いているなと思っていたが、まさか支部が放火されるとはな……」


 支部長も呆然と真っ黒に焼け落ちた支部を見る。


「幸い怪我人はいません」

「それは何よりだ……建物はいくらでも建て直せばいいが、お前らの代わりはおらん」


 この人、本当に元軍人か?


「支部長、すみませんが、本部への連絡をお願いします」

「わかった。すぐに電話しよう」


 頼りになる人だ。


「それと私達はどうすればいいですか?」

「そうだなー……ひとまずは家で待機してくれ。依頼は何が残っている?」

「役所から火曜石、軍から回復軟膏です」


 急ぎの依頼は終わっているのが不幸中の幸いだな。


「わかった。そちらの方も事情が事情だから納期を延ばしてもらうように申請を出そう」

「お願いします。特に回復軟膏は材料に魔力草が必要なんですが、以前の緊急依頼のせいで市場に数が出回っておりません。そんな中、軍に用意してもらっていたのですが、ご覧のように全部燃えました」

「仕方がないだろうな。我々に過失があるわけではないから軍も文句は言わんだろう」


 文句?


「もし、言ってきたらお前らがさっさと犯人を捕まえないからだろうとキレてください」

「そんなことせんわ。とにかく、お前らは待機してろ。ちょうど試験も近いし、勉強でもしておいてくれ。私は役所に行ってくる」


 支部長はそう言って、役所の方に歩いていった。


 さてと……待機か……


「お前ら、勉強する気力はあるか?」


 3人を見渡す。


「今日はさすがに無理ですね……」

「ショックが大きいよ」

「ちょっとね……」


 だろうな……

 見る限り、3人の顔色は良くない。

 特にエーリカがマズい。

 いつも笑顔のエーリカは目に見えて、へこんでいるのだ。


「今日は休みでいいだろ。支部は建て直すことになるだろうし、どういう感じにするか決めようか」

「え? 勝手に決めていいもんですかね?」

「使うのは俺達なんだから俺達が決めるべきだろ。こういうのは前向きに考えよう。そこまで古い建物ではなかったが、新築に建て直すことになったと考えようじゃないか」


 以前よりも働きやすい職場にしよう。


「なるほど……そう考えると良いかもね」

「そうね。地味に1階に支部長しかいないっていうのが気になってたし、いっそのこと、1階にアトリエを置いた方が良いと思うわ」


 レオノーラとアデーレがうんうんと頷く。


「そういうわけでその相談をしよう。エーリカ、お茶」

「あ、はい。じゃあ、ウチにいらしてください」


 エーリカが部屋に向かって歩き出したので俺達もその後に続く。


「……ジークさん、あなたは素晴らしいです」


 小声でアデーレが絶賛してきた。


「……何が?」

「……ちゃんと気を遣えるじゃないですか。私はあなたを見直しました」

「……だね。エーリカは地元の人間でここの所属が長いから一番ショックだったろうしね。今は一人にしない方が良い」


 正解、だったのか?


「どうしたんです、社会不適合者? 頭でも打ちましたか?」

「ジーク様はお優しい方なんです!」


 まーたケンカを始めた……


「ドロテー、その辺を飛んでろよ」

「疲れるじゃないですか。エーリカさん、私、砂糖水が欲しいです」

「砂糖水ですか?」

「蜂蜜でもいいですよ」


 わがままカラスだなー。

 泥水でもすすってろよ。


「お母さんにもらった蜂蜜酒ならありますけど……」

「それです!」


 飲むのか、この鳥……


 俺達はエーリカの部屋に行くと、エーリカが淹れてくれたコーヒーを飲みながら立て直す支部の相談をし始めた。

 なお、ドロテーは本当に蜂蜜酒を飲んでいる。


「アデーレさんが言う通り、アトリエは1階にした方が良いと思います。さすがに呼び鈴は不便ですし」

「そうだね。毎朝、出勤する時に誰もいない1階を見て、軽くへこんでたしね」

「ジークさん、ちなみに聞くけど、アトリエはどういう感じが良いかしら?」


 どういう感じ……

 個室って言える空気ではないことはわかる。


「アトリエはこれまで通りで良いと思うな。2階と3階を倉庫にしよう」


 まあ、個室はいいや。

 こいつらのことを見ないといけないし。


「そう? 私は敵対でいい?」


 敵対?

 あ、例の本か。


「どうしろって言うんだよ。それを言い出したら誰も対面に座れんだろ。皆で並ぶか?」

「冗談よ。そういえば、例の本も燃えちゃったわね」

「いや、ウチにあるよ。持って帰って読んでるから」


 どうやらレオノーラの愛読書になっているらしい。


「あっそ……」

「地味にせっかくもらった抽出機と分解機が燃えたのが痛いな」


 ようやく楽ができると思ったんだが……


「あ、それもあったわね。でもまあ、仕方がないわよ。そもそも放火犯の機械を使いたくない」


 確かに……


「また一からやればいいか。支部長も言ってたけど、建物はなくなっても俺達は無事だった。それにお前らの成長も消えていないし、着実に支部の立て直しには近づいているだろ」

「ジークさん……私、頑張ります!」


 そうか、そうか。

 頑張って9級を受かってくれ。


「おかわりくれ」

「はい!」


 エーリカが俺のコップを取って、コーヒーを淹れてくれる。


「新しい建物はどれくらいで建つかな?」


 レオノーラはが聞いてくる。


「支部長の交渉次第だろうな。ドロテー、クリスに言って、建築部の錬金術師を派遣するように言ってくれ」

「クリス様を通すより、御自分で本部長に言えばいいじゃないですか。本部長もリート支部に問題があることは把握されていますし、配慮はしてくれると思いますよ」


 電話するのか……


「レオノーラ、アデーレ、貴族パワーは使えんか?」

「この町から離れた地方貴族に言われてもね」

「ジークさんが本部長に掛け合うのが早いし、確実だと思うわよ」


 やっぱり電話するのか……


「わかった。とりあえず、防火壁にしてもらうことだけは頼むわ」


 防火壁という燃えにくい素材でできた壁があるのだ。


「良いと思います」

「さんせー」

「それはお願いしたいわ」


 起きたら燃え盛る職場を見るのはもうごめんだ。





――――――――――――


ここまでが第2章となります。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


引き続き、第3章もよろしくお願いいたします。

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