第3章

第078話 説明


 支部が燃えてから数日が経った。

 その間、働くところがなくなった俺達は在宅勤務ということでエーリカの部屋に集まり、建て替える支部の相談や試験の勉強をしていた。


「暇だなー……ドロテー、お前はいつ帰るんだ?」


 ドロテーは昨日、軍の詰所に行き、目撃した犯行現場について、詳細な説明をしていた。


「どうでしょう? もう帰って良いと思うんですけど、本部から人が来るんですよね? その人達が帰る時にでも飛空艇に乗せてもらおうかと思っています。クリス様は飛んで帰れって言ってましたけど、普通に疲れますよ」


 ここから王都は遠いからなー。

 いくら鳥でも大変か。


「ドロテーちゃんさー、私も詳しくは知らないんだけど、使い魔って主から離れていいものなの?」


 レオノーラが聞く。


「普通は離れませんが、私は好き勝手しますし、クリス様も自由にしていいとおっしゃってくれています。鳥なんで飛び回ってなんぼなんですよ」

「愛されてないんですね」


 ヘレンがそう言って、ドヤ顔ですり寄ってきた。

 めちゃくちゃ可愛いので撫でておく。


「ジークさんにおんぶにだっこの不吉の象徴は黙ってろ! 私達はお互いのことを尊重する理想的なパートナー同士なのよ!」

「カラスの方が不吉の象徴ですよ! それに何が理想的なパートナーですか! 愛がなくなった倦怠期でしょ!」

「きー!」


 きーって……

 お前の鳴き声はカーじゃないのか?


「ケンカするなっての」

「泣き虫めー! レオノーラさんはカラスの方が好きですよね!?」


 こいつ、レオノーラが好きだなー……


「落ち着きなよ。関係性はそれぞれだし、他所を見ない方が良いよ。2人の世界じゃないか」


 しかし、話が完全に夫婦みたいになってるわ。


「レオノーラさんは大人ですね。クリスさんの奥さんにどうですか?」

「ごめん。夫と2人の妻がいるんだよ」


 俺達か?


「ざーんねん」


 ドロテーはそう言いながらもレオノーラの肩にとまる。


「……あいつ、なんであんなにレオノーラを気に入っているんだ? 魔女っ子っぽいからか?」


 小声でヘレンに聞いてみる。


「……金髪だからですよ。ほら、カラスですから」


 光るものを集める習性か……


 そういやクリスも金髪だなーって思っていると、チャイムが鳴った。


「お客さんかなー?」


 エーリカが立ち上がると、玄関の方に行き、扉を開ける。

 燃えた支部の前には【ご利用の際は裏のアパートにお越しください】という看板が置いてあるのだ。


「やあ、エーリカ、元気かい?」

「あ、ルッツ君」


 んー?


「ホントだ。ユリアーナの彼氏だ」

「ホントだねー」


 軍服を着たルッツが玄関の前に立っていた。


「それ、やめてくれないか? ユリアーナにも言ったでしょ」


 ルッツが苦笑いを浮かべる。


「悪い、悪い。それで何の用だ?」

「もちろん、火事の件だよ」


 まあ、そうだわな。


「ルッツ君、入ってよ」

「お邪魔するよ」


 ルッツが部屋に入ってきたのでアデーレとレオノーラが勉強道具をしまい、ソファーの方に行く。


「勉強してたの?」

「さすがに仕事ができる状態じゃないんだよ。お前らからもらった魔力草も全部燃えたわ」


 現在は休業中となっているのだ。


「そのことも話をしようと思ってるよ」

「そうか。まあ、座れ」

「ここ、君の家?」

「エーリカの家だよ」


 どう見ても女の部屋だろ。


「まあ、いいか」


 ルッツが対面に座ると、エーリカがコーヒーを持ってきた。


「ルッツ君、どうぞ」

「ありがとう。まずなんだけど、犯人逮捕に協力してくれてありがとう。泥沼化しそうだったのが一気に解決したよ」

「おかげで俺達の城が燃えたけどな」

「それは何と言うか、申し訳ない。私達も見回りをしていたんだが、商会の倉庫を重点的にしていたんだ。まさか大通りにある支部を狙うとは思わなかったんだ」


 誰だって思わんわ。


「それは仕方がないだろう。こちらも軍を責める気はない」

「すまない」

「それでアドルフが別の件も含めた放火の犯人ということでいいのか?」


 一応、まだ便乗したという線もある。


「アドルフが他の放火の件もやったということで間違いないよ。本人はいまだに否定しているけど、商会の従業員があっさり吐いた」


 人のことは言えないが、人望がないな。


「議員とやらの繋がりは?」

「船の中に文書があった。議員が支部を燃やすように指示したやつだよ。それで昨日、その議員を逮捕した」


 商人なんかに頼むなよ。

 バカな議員だ。


「どっちも死罪か? 議員は人脈もあるかもしれんし、権力者だから恩赦もあるだろ」

「無理でしょ。いくらなんでも錬金術師協会の支部を放火したのはマズい。取りようによっては反逆罪だからね。ましてや君らってこの前、新聞で特集されてたでしょ。恩赦なんかしたら町の人から反感を買う」


 確かに無理だな。

 行政や貴族が消火活動のボランティアをして町に貢献した俺達の支部を燃やした放火犯を庇ったら政治への不満が一気に高まる。


「じゃあいいわ。逆恨みされたらたまらん」


 あの世に行ってくれ。

 俺のように生まれ変わるかもしれんがな。


「一応、当分はこの辺りの警備もしているから」

「どうも。ユリアーナが最近、休みが合わないって言ってたぞ」

「ホントだよ。というか、当分、休みがないんじゃないかってレベルで忙しくなってきた」


 そうだわなー。


「頑張れ。それで回復軟膏の依頼なんだが……」

「それそれ。渡した魔力草も燃えちゃったよね?」

「ああ。3階の倉庫に置いていたからな」


 乾燥させた草だし、いち早く燃えたと思う。


「まあ、こればっかりは仕方がないから依頼の期限を延ばすことになったよ」

「悪いな。魔力草は?」

「それなんだよ……市場がまだ回復していないんだ。魔力草って採取できる人が限られているのに値段が安いから一度なくなると中々、回復しないんだよ」


 魔力草は魔法使いじゃないと見極めが難しいからな。

 そして、魔法使いはわざわざ外に出て、採取なんかしない。

 戦える奴は金を持っているし、戦えない奴は森なんか行かないし。


「最悪は採取に行くか……」

「大丈夫?」

「まあ、浅いところだしな」

「一応、こっちでも集めておくけど、もしかしたら頼むかもしれない。言ってくれれば護衛をつけるから」


 護衛か……

 兵士なら強いし、いざとなったら盾になって、俺達が逃げる時間を稼いでくれるだろう。


「わかった。とりあえずは様子を見るわ」

「そうして。君達も大変だろうしね。じゃあ、話は以上だよ。私は仕事に戻ることにする」


 ルッツは残っているコーヒーを一気飲みし、立ち上がる。


「疲れたら言えよ。ポーションでも精神安定剤でも何でも作ってやるから」

「ありがとう。さすがは国一番の魔法使いだね」


 お前も新聞を読んだかい……

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