第068話 わかるだろ


 俺とエーリカは水曜石を作り始めた。

 質のバランスのためにCランクの水曜石を作りながらもエーリカの水曜石の出来を見ていく。


 うーん……魔力も安定しているし、普通にDランクも作れそうだ。

 3人娘の欠点を上げるとしたらこの慎重さだろうな。


「エーリカ、もうちょっと魔力を上げてもいいぞ」

「そうですか?」

「ああ、お前らなら普通にDランクも作れる。もう少し、自信を持て」

「うーん……もうちょっとこの魔力でやらせてください。さすがに数日しか経っていませんし」


 やはり性格だろうな……

 こればっかりはどうしようもないだろう。

 焦らせてもいいことはない。


「そうか。じゃあ、自分のペースでやって…………あ、ルッツの彼女、じゃないユリアーナだ」

「あ、ホントだ。ユリアーナさんだ」


 昨日も会ったユリアーナがこちらにやってきていた。


「ジークさんにエーリカさん、おはようございます」


 ユリアーナが挨拶してくる。


「おはよう」

「おはようございます」


 俺達も水曜石を作りながら挨拶を返した。


「御二人だけですか?」

「レオノーラとアデーレは風呂場で水曜石を作ってる。水曜石は失敗すると、水が噴き出るんでな」

「前はずぶ濡れでしたもんね。錬金術のことはわかりませんが、錬金術師も大変なんですね」


 水が噴き出ることが大変なことかどうかは微妙だ。


「仕事だからな。魔力草を持ってきてくれたのか?」


 昨日、そう言ってたし。


「はい」


 ユリアーナは頷くと、ドヤ顔でカバンを見せてくる。


「魔法のカバンか?」

「はい。ようやく支給されました」


 これまでは車に積んでたもんな。


「良かったな。出してくれ」


 そう言うと、ユリアーナが魔力草をテーブルに出していく。


「ジークさん、また火事があったことを御存じですか?」


 ユリアーナが魔力草を出し終えると、聞いてくる。


「さっきエーリカから聞いたな。違う商人の倉庫だって?」

「はい。実はまだ公表していませんが、未遂がもう一軒あるんです。それも違う商人の倉庫でした」


 未遂……


「やはり放火と見ているんだな?」

「さすがに立て続けに起きたら放火ですよ。事故ではないでしょう」


 はいはい……


「何を言う? お前らは最初から放火と考えていただろう?」

「え? いや、そんなことはないですよ」


 バカと会話をするのは疲れるわ……

 ルッツの彼女だから言わないけど。


「役所には火事の際の保証制度がある。でも、これは過失を見て、割合が決められる。アドルフは早々に過失がないと判断された。それは火事が放火だったからだろう? それに昨日、お前が調査をしている時点で事件性があるものだとわかるわ」


 しかも、わざわざ休みの日。


「うーん、ルッツが言ってた通り、ジークさんって頭が良い人なんですね」

「王都の天才錬金術師ですよー」


 エーリカがそう言いながらテーブルの上の新聞を見る。


「私も見ましたよ。錬金術師協会の方は立派ですね。私、ものすごく感銘を受けました」


 これ、下手なことを言えなくなったな……

 評判を取り戻すには時間がかかるものだが、上がった評判が落ちるのはすぐだ。


「そうか……それで未遂の方はなんで失敗したんだ?」

「たまたま倉庫を見にきていた商会の人がいち早く水曜石で火を消したんですよ。それで大事にはなりませんでした」


 水曜石で火を消した……絶対にルーベルトが来るな……


「俺はこの前、ここに来たばかりだが、以前からも放火事件ってあったのか?」

「いえ、そんなことはありません。ぼや程度は昨年もありましたが、あれはただの事故でした」


 ふーん……


「お前らはどう思っているんだ?」

「うーん……言ったらダメなんでしょうけど、ちょっと意見を聞きたいです。我々は商人を狙った恨みの線が濃厚とみています」


 被害は全部商会だし、商人は恨みを買いやすいからな。


「昨日、燃えた倉庫には何があった?」

「船で他所の町に輸送する冷凍の魚ですね。かなりの損害らしいです」


 魚……さすがに依頼は来ないな。

 いくらなんでも魚の復旧は無理だ。

 来るとしたらレンガだろう。


「未遂の倉庫は?」

「燃えていませんが、穀物らしいですね。これも船で輸送する予定だったらしいです」

「昨日、確認しろと言ったアドルフの倉庫に火曜石はどれくらいの数があり、どういう位置にあったのかは?」

「火曜石は倉庫の中央に20個程度置いてあったらしいです。隣の倉庫にも同程度ですね」


 そこに中古の機材ね……


「エーリカ、どう思う?」

「え? さあ?」


 エーリカはこういう時にまったく戦力にならないな。

 人が良すぎる。


「3件の放火事件があったわけだろ? それで被害を受けた、もしくは受けそうになった商会が2件。そして、火事になったが、結果的には儲かりそうな商会が1件。答えが出ているのと思うのは俺だけか?」


 アドルフのあの白々しい演技を見た時から怪しいと思っていた。


「えっと……ジークさんはアドルフさんの商会が怪しいと?」

「さすがにそれは……」


 エーリカとユリアーナが顔を見合わせる。


「意見を聞きたいと言われたから俺が思っていることを答えただけだ。昨日、レオノーラと釣りに行ったが、港でアドルフを見たぞ。新しい抽出機を船から降ろしていた。いくらなんでも早すぎると思わんか? 抽出機なんて注文から納品まで最速でもひと月はかかるぞ」


 火事が起きたのは先週だというのに。


「それは……」

「すみません。もう少し調べてみます。ご協力感謝します。私はこれで……」


 ユリアーナは頭を下げると、小走りで去っていった。

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