第069話 何か来た
ユリアーナが帰った後もエーリカと水曜石を作っていると、昼前にはアデーレとレオノーラが部屋から出てきた。
「Dランクができたわよ」
「失敗しなくて良かったよ」
2人の手には水曜石があり、確かにDランクに見える。
「お疲れさん。これで20個にはなったな」
「ちょっと早いですけど、昼食にしませんか?」
エーリカが提案してくる。
「今から作り始めても中途半端な時間になっちゃうし、そうするか」
俺達は早めの昼休憩に入ることにし、皆でエーリカが作ってくれた弁当を食べだす。
そして、昼食を食べながらユリアーナが訪ねてきたことを2人に説明した。
「ふーん……放火未遂まであったんだね」
「物騒ねー……放火って重罪よ?」
縛り首かなー?
「あの、レオノーラさんとアデーレさんはどう思いますか?」
エーリカが2人に確認する。
「犯人はあのアドルフって商人でしょ」
「実行犯は別でしょうけど、指示をしたのはそうでしょうね」
2人はあっさりと頷いて答えた。
「御二人もそう思うんですね……」
「動機を考えればねー……」
「最初から計画されたことなんでしょう。関わる気はないけど、後ろ盾にいる議員とやらも怪しいわよ。というか、それが黒幕じゃないかしら?」
さすがは貴族……
こういうことには詳しい。
「議員……ユリアーナさんは大変でしょうね」
「地方議員ってそんなに力を持っているのか?」
たかが田舎の議員だろ。
「地方議員って元を辿れば有力な地主だったりするんだよ。国全体で見たらたいした権力はないけど、地方では強いよ。貴族の領主ですら無下には扱えない」
「色んなところに伝手や人脈があるから厄介なのよね」
それでアドルフがふんぞり返っていたわけか。
「まあ、あとは軍と役所が考えるだろ。その役所の奴が来たぞ」
皆が支部の方を見ると、そこにはルーベルトがいた。
「やあ、皆さん。食事中にすまないね」
ルーベルトが手を上げてこちらにやってくる。
「別にいいぞ。ちょっと早めの昼にしただけだし」
「羨ましいねー。ウチがそれをすると、市民から苦情が来るよ」
役所はそうだろうな……
役人にならなくて良かったわ。
「頑張れ。それで何か用か? 電話は……誰もいなかったな」
支部長もいないから支部はもぬけの殻だ。
「まあ、毎日来てるからわかってるよ。火事の件は知ってるかい?」
やっぱりその件か。
「軍のユリアーナから聞いたわ。放火だってな」
「そうなんだよ。それで水曜石を急ぎで欲しいんだ。もちろん、料金は割増して支払う」
「そこに20個あるからひとまずはそれを持っていけ。残りも今週中に作っておく」
地面に置いてある木箱を指差す。
「おー! さすがは王都の天才錬金術師!」
こいつも新聞を読んだか。
「ほぼ3人娘が作ったやつだぞ。10級、9級にしては良いものが作れてる」
「へー、すごい成長だね。とにかく、もらうよ。すまないね」
ルーベルトが腰を下ろし、木箱に入っている水曜石をカバンに詰めていく。
「新たに燃えた倉庫の復旧の依頼は?」
「ないよ。そこの商会さんは申請をしないそうだ。代わりに商人ギルドが動き出したよ」
商人はバカじゃない。
勘づいたな。
「面倒なことになりそうだな」
「すでに面倒なことになっているよ。ここだけの愚痴だけど商人ギルド、議員、軍と色んなところが動いている。その矢面に立たされるのがウチさ」
役所に就職しなくて本当に良かったわ。
「精神安定剤でもやろうか?」
「まだそこまでじゃないけど、もらいにくるかもね……よし、確かに20個あるね。質も問題ない」
ルーベルトはすべての水曜石をカバンに入れると、立ち上がった。
「頑張れ」
「そうだね……ウチはそこまで急いでいないけど、レンガの方も急いだほうが良いよ。関わりたくないだろ?」
そうした方が良さそうだな。
「わかった。レンガも今週中には納品する。火曜石は?」
「そっちはゆっくりでいいよ。他の依頼もあるでしょうしね。じゃあ、私はこれで。また夕方に取りにくるよ」
ルーベルトはそう言って役所に帰っていった。
「ルーベルトさんも大変ねー……」
アデーレがつぶやく。
「私達にできることは早く物を納品することだよ」
まあ、そうだな。
「お前らは引き続き、水曜石を作ってくれ。俺はレンガを作る。週末までに終わらせよう」
「わかりましたー」
「はーい」
「やりましょうか」
俺達は弁当を食べ終えると、早めに昼休憩を終え、作業を再開した。
そして、この日、翌日と黙々と水曜石とレンガを作っていった。
さらにその翌日も青空錬金術をしていると、テーブルの上に丸まっていたヘレンが急に起き出した。
「どうした? 散歩でも行きたいのか?」
「あ、いえ……誰かが来たようです。それもこの匂いは知っている匂いですね」
んー?
「ルーベルトかルッツかユリアーナか?」
「いえ、この町の方達ではなく、王都で覚えた匂いです」
王都?
「誰だろ?」
支部の方をじーっと見る。
すると、金髪の男が顔を見せた。
「んー? あれ? あいつ、クリスじゃないか?」
同門の兄弟子であるクリストフに見える。
「ですね……クリスさんです」
何してんだ、あいつ?
首を傾げていると、クリスがこちらにやってくる。
「やあ、ジーク、久しいな」
クリスが爽やかな笑顔で声をかけてきた。
「こんなところで何してんだ、お前? 左遷されたか?」
「とんだ挨拶だな……私はどっかの師匠にすら『こんなのもできないのか?』と暴言を吐く弟子とは違うから左遷なんてされないよ」
「ふーん……取り入るのだけは上手いんだな」
無能は大変だ。
「ハァ……新聞を見たよ。あんな感じのことを言ってくれよ」
なんでお前なんかに言わないといけないんだよ。
メリット皆無じゃねーか。
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