第057話 あーあ
「私が壊したとは?」
「魔道具は燃えていないのに動かなくなっていた。聞けば貴様が壊したというではないか」
ディスペルを使ったからな。
魔力を使う魔道具は当然、壊れる。
「私は軍の要請に従っただけですよ。でも、不満があることはわかりました。指示をした大尉に伝えておきましょう」
「い、いらんことをするな!」
は?
「だったらいらんことを言うな。こっちはお前と違って、暇じゃないんだよ」
「な、何だと!?」
「時間は有限だ。そんなしょうもないことを言う余裕があるくらいには暇なんだろう? とても時間を大切にする商人とは思えんな」
まあ、少しでもこっちの過失にしたいんだろうけど。
「き、貴様っ!」
「何か?」
何だ、こいつ?
「まあまあ、ジーク君。落ち着いて」
「アドルフさんも落ち着いて。今日はそういう話じゃないと先にお伝えしたでしょう?」
レオノーラとルーベルトが諫めてくる。
「ふん! 言葉には気を付けろ!」
お前がだよ……
おもっきし、軍を批判してただろ。
「それで具体的な内容は?」
この商人では時間の無駄なのでルーベルトに聞く。
「まずは倉庫の復旧ですね。これは説明はいらないと思いますが、レンガ造りですのでレンガを納品してください。使えるものも残っているので数は300でいいです」
300ね……
まあ、そんなものか。
「わかりました。魔道具の補修は?」
「抽出機が2つ。分解機が1つですね」
ん?
「また高い機械だな……なんでそんなものが倉庫に?」
「そんなことは貴様が知らなくてもいいことだ」
ルーベルトに聞いたのにアドルフが答えた。
でもまあ、これに関してはアドルフの言う通りだ。
こちらには関係ない。
「それもそうだな……依頼は以上か?」
「そうですね。他は別口への依頼になります」
民間か……
まあ、その辺りは俺達の信用のなさだろう。
「期限は?」
「すぐにだ。倉庫が使えないうえに機械がないと商売にならん」
ホント、バカは嫌いだわ。
「すぐとは? 10秒以内か? 今日中か? それとも一週間以内か? 期限を聞いたら具体的な日数を言え。時間の無駄だ」
「貴様っ……! 何だ、その態度は!?」
それはこっちのセリフだ。
「お前は黙ってろ。話にならん」
「なんて奴だ! さすがは錬金術師協会だな……私は議員の先生と知り合いだし、潰してもらうこともできるんだぞ」
議員って……
こんな地方の議員にそんな力があるわけないだろ。
錬金術師協会を舐めているのか?
「こんなことを言っているぞ、我が弟子レオノーラ・フォン・レッチェルト」
フルネームを呼びながらレオノーラを見る。
「ウチやアデーレの家より支部長の家の方が上だからそっちで良いと思うよ」
やっぱり支部長って上の方の貴族なんだな。
「くっ! 貴族か……!」
商人は貴族が嫌いだ。
まあ、権力を持っているし、商売の邪魔でしかないから当然である。
いやー、レオノーラを連れてきて良かったわ。
「ルーベルトさん、期限は?」
鬱陶しいアドルフが黙ったので話を続ける。
「レンガについてはひと月を目途にすべてを納品して頂きたいです。ただ、復旧作業を並行して行うので毎日取りに伺います」
レンガが300個ないと作業が始められないわけではないしな。
「わかった。支部に取りに来てほしい。別の納期が短い仕事もあるしな」
もちろん、水曜石のこと。
「承知しています。私が毎日、夕方に伺いますので。もし、納品するレンガが用意できない場合は電話をして頂けると助かります」
無駄足になるしな。
「承知した。抽出機と分解機の修理は?」
「そちらについては……」
ルーベルトがアドルフをチラッと見る。
「ふん! できるだけ早くだ。1日遅れるごとに赤字が出る」
「わかりました。ジークさん、どうですかね?」
ルーベルトが聞いてくる。
「こればっかりは見てみないとな……燃えてないならそんなに時間はかからんと思うぞ」
「そうですか……でしたらこの後、見に行きませんか?」
「わかった。次に料金だが……」
さて、本格的に揉める時間だ。
「まずレンガですけど、15万エルです。これに緊急依頼の割増が加算され、20万エルですね」
まあ、そんなもんだな。
レンガは簡単に作れる分、安いし。
「わかった。抽出機と分解機の修理は見積もりになるのは承知しているか?」
「ええ。わかっています。どのくらいになりますかね?」
そうだなー……
「見てみないことには断言できんが、1つにつき50万エルで3つで150万エルって感じかね」
「なるほど……」
「おい、もうちょっと安くならんか?」
アドルフが声をかけてきた。
先程のような怒鳴る感じではない。
どうやら威圧的にして良い条件を出そうとする演技をやめたらしい。
「こればっかりは難しいですね。協会は単価が決まっていまして、そこから多少の上げ下げはしますが、大きく変わることはできません」
まともな話なら俺もまともに対応する。
「こっちは被害者だぞ」
知らんわい。
「その辺りの補償は町と相談してください。ウチは国の機関であり、決められたルールがあります」
町で起きた問題は町で解決してくれ。
「その辺りはどうなんだ?」
アドルフがルーベルトに確認する。
「今回はアドルフさん側に過失は認められませんので半額をウチが負担します」
過失がまったくないと断言するわけか。
火事からそんなに時間も経っていないのによくわかるな。
まあ、どうせ知り合いの議員さんとやらに手を回したんだろうな。
「うーむ……レンガはともかく、抽出機と分解機の方はどうにかならんか? 半額負担でも75万エルは高すぎる」
そうか?
めっちゃ安いぞ。
「民間なら倍以上はしますし、修理にひと月以上はかかりますよ」
あいつら、能力ないもん。
「しかしなー……新しい機械でもないし、それなら買い替えた方が良いように思える」
あー……そういうことね。
よくやるわ……
「引き取り制度もありますよ。こういう場合は錬金術師協会が買い取ります」
「ほう……いくらかね?」
ほらね。
「年数はどれくらいです?」
「抽出機が8年と10年前に買った。分解機は6年になる」
随分と古いね。
そりゃそうだろうけど。
「200万エル、250万エル、350万エルってところですね」
「安すぎる! その3倍はしたんだぞ!」
こいつ、わかりやすいなー。
演技する時は怒る。
「そう決まっていますので。差額については役所の補償制度をご利用ください」
「できるのか?」
知ってたくせに。
「できますよね?」
ルーベルトに振る。
「ええ。確かにそういった補償もありますね」
「では、それでいきたい。修理に時間がかかりそうだし、この際、新しい機械を買うことにする」
はいはい。
「かしこまりました。ですが、書類を用意しないといけませんし、機械を確認する必要もありますので数日、時間をください」
ルーベルトも役所の人間らしく淡々と話を進める。
「わかった。それくらいなら待とう。話は以上だな。では、次の約束があるので私は失礼させてもらう」
アドルフはそう言って立ち上がると、そそくさと部屋から出ていった。
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