第056話 打ち合わせへ


 翌日、この日も朝から寮であるアパートの前でそれぞれの作業をしていた。

 俺は火曜石を作りながら水曜石を錬成中の3人を眺めている。


 相変わらず、FランクとEランクって感じだな……それに遅い……

 濡れたくないからか、性格か……

 質についてはまだその域に達していないのだろうからわかる。

 でも、もうちょっとスピードを上げられそうなんだが、必要以上に慎重になっている。

 まあ、焦ることもないし、人には人のペースがあるしなと思うか……


「ジークさん、そんなに見られると気になるんだけど?」


 じーっと見ているとアデーレが顔を上げた。


「そうか? 別に気にするなよ」


 お前らの出来が気になるんだよ。


「いや、プレッシャーが……」

「なんかひどい出来の水曜石だなーっていう声が聞こえてきそうなんだよねー」

「私にはこいつら遅いなーって聞こえます」


 口に出してはいないんだが……


「気にするな。最初から高ランクを作れる奴はいないし、インゴットだって最初は時間がかかっただろ」

「確かにそうですね。頑張ります」


 もう水曜石に関しては教えることがないな。

 優秀な弟子達は楽でいいわ。

 きっと本部長も俺が弟子で……いや、俺は別の意味で楽じゃないか。


 邪魔しちゃ悪いと思って、3人を見るのをやめ、火曜石作りに集中することにする。

 そして、昼になったので支部に戻り、昼食を食べた。


「ジーク君、そろそろ行こうか」


 レオノーラがそう言って立ち上がったので俺も立ち上がる。


「そうだな。エーリカ、アデーレ、留守を頼むわ」

「わかりました」

「依頼主を怒らせないでね」


 それはどうかな……


「頭の片隅に置いておくわ」


 そう言って、レオノーラと共に3階に上がり、役所に納品するレンガとインゴットを収納した。

 そして、支部を出て、役所に向かう。


「アデーレはああ言ってたけど、依頼主を怒らせないようにするのは難しいんだよな」

「そこは頑張ってよ。ウチの評判に関わるよ?」


 レオノーラが諫めてきた。


「いやー、俺は関係ない。多分そうだろうなーって思って、火事になった倉庫の持ち主を調べたら商人だった。向こうは被害者のスタンスで来るから確実に揉める」

「あー、商人だったかー……それは厳しいかもね」


 商人は利益を追求する。

 今回のことも少しでも損害を減らそうとして、びた一文も払う気はないだろう。


「本当は断りたかったけど、現状を考えると依頼を選ぶ余裕がないんだよな」

「今はお得意様である役所からの信頼を取り戻さないといけないからねー」


 ホント、ホント。

 最悪、商人の評判は別にいい。

 勝手に民間でも頼ってくれ。


「そういうわけで覚悟しておいてくれ」

「私を誘った理由がわかったよ。エーリカは舐められるからでアデーレは逆に刺激するからだね」


 そういう要素もある。

 エーリカは善すぎるし、アデーレはちょっと気が強い。


「俺は一切、頭を下げんし、譲らんからな」

「わかったよ。まあ、商人相手ならそれくらいがいいかもね」


 俺達は役所に着いたので中に入り、ルーベルトのもとに向かう。


「やあ、ルーベルトさん」


 端の受付に来ると、レオノーラが声をかけた。


「レオノーラちゃん、こんにちは。それにジークさんも」


 ルーベルトがいつものニコニコ顔で挨拶をしてくる。


「よう。例の件で来たぞ。でも、その前にレンガとインゴットを納品してもいいか?」

「もうできたのかい? 早いねー。じゃあ、先にもらっておこう。ここに出してくれ」


 ルーベルトがカウンターを指差したので空間魔法からインゴットとレンガが入った木箱を置いた。


「インゴットとレンガが50個ずつだな。これが請求書」


 ルーベルトに請求書を渡す。


「はい、確かに。一応、確認しておくから2人は先に応接室で待っていてくれないかい? 私も先方が来たら向かうから」

「わかった」


 応接室ってどこだ?


「ジーク君、こっちだよ」


 レオノーラが知っているようなのでついていくと、とある部屋に入る。

 部屋には対面式のソファーが置かれていたので2人で腰かけた。


「帽子を取った方がいいかな?」

「そのままでいい。魔法使いなら堂々としておけ」

「わかった」


 俺達がそのまま待っていると、ノックの音がし、扉が開かれる。

 すると、ルーベルトと共に太った40代くらいの男が入ってきて、対面に腰かけた。


「お待たせしました。こちらが今回の依頼主であるアドルフさんです」

「ふん」


 ルーベルトが今回の依頼主を紹介してきたが、当の本人は不満そうに俺達を見ている。


「アドルフさん。この方達が錬金術師協会のジークヴァルトさんとレオノーラさんです」

「どうも。ジークヴァルトです」

「レオノーラです」


 俺達が自己紹介したのにアドルフは俺達をじろじろ見るだけで自己紹介をしない。


「ルーベルトさん、本当にこいつらで大丈夫なのか?」

「そう判断してましたね」

「ふん。どうだか……いかにもな魔女みたいな子供とペット連れの男じゃないか」


 想像以上にめんどくさそうな客だな。

 まあ、何でもいいけど。


「依頼内容は?」


 さっさと終わらせたいので早速、本題に入る。


「先日の火事で焼失した倉庫の復旧と壊れた魔道具の補修になります。それでよろしいですね?」


 ルーベルトが説明すると、アドルフが俺達というか俺を睨んできた。


「当然だ。倉庫はこちらの過失ではないし、魔道具に関してはそこの男が壊したんだからな」


 想像通りだ。

 大尉に言質を取っておいて良かったわ。

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