第055話 気遣いができる男


 作業を続け、すべての魔力草に乾燥処置を終えたので3人を見ると、3人共、ほぼ魔石が青くなっており、もう少しで水曜石ができそうなところまではできていた。


 F、F、Eかな……

 アデーレの水曜石だけEランクってところだ。

 経験は少ないかもしれないが、さすがに王都の魔法学校をそこそこの成績で卒業しただけはある。

 エーリカとレオノーラは同じFランクだが、エーリカの方が質は良い。

 エーリカは物を作るのが得意だし、レオノーラは薬を作るのが得意だからその差だろう。


「魔力草を倉庫に持っていくわ」


 そう言って、支部に戻り、3階の倉庫に乾燥処理させた薬草を置く。

 そして、支部の裏に戻ると、3人娘がテーブルについて休んでいた。

 さらにはテーブルの上には3つの青い石が置いてあり、水曜石作成に成功したのがわかった。


「できたか?」


 テーブルにつきながら聞く。


「はい。質は悪いですけど、できました」

「すんごい疲れたね……」

「集中力と魔力の消費がすごいです……」


 疲れは濡れたくないというプレッシャーのせいだろうけどな。

 俺も無駄に疲れたし。


「見た感じ、初めてにしてはいい出来だと思う。とはいえ、それは納品できんから風呂の湯にでも使え」

「アデーレのは良さそうけど、私とエーリカのはFランクって感じだもんねー」


 うーん……


「レオノーラはさっさと鑑定士の資格を取れ」


 そこまでわかるなら受かるだろ。


「無茶言わないでよー。9級だけで精一杯」

「鑑定士の資格試験はいつだ?」

「再来週。どっちみち、もう受付は終わってるね」


 じゃあ、ダメだわ。

 次の試験で取らせよう。


「その辺のスケジュール管理もするか……」

「師匠ー。家庭教師の先生みたいだよ」

「同じようなもんだろ。いいから取れ」

「はーい……受かったら王都のレストランを取ってもらうからね」


 遠い……

 なんで飯を食いに行くだけで王都まで行かなければならないのか……


「受かったらな……」


 架空の出張を入れて、行くか……


「ジークさん、今日はどうします? まだ4時ですけど……」


 中途半端だな。


「今日も早めに終わろう」

「わかりましたー」


 エーリカが返事をすると、テーブルの上でゴロゴロしていたヘレンが起き上がり、ジャンプして、肩にやってきた。


「……ジーク様、エーリカさんに疲れが見えます。夕食は外で食べるのがよろしいかと。お弟子さんの成長を祝いましょう」


 確かにエーリカは疲れているように見える。

 そんな中で料理を作ってもらうのは気が引けるな。


「エーリカ、今日は外食にしないか? お前らが初めてエンチャントを成功させたわけだし、奢ってやる」

「え? いいんですか?」


 エーリカがちょっと驚いた表情になった。


「ヘレンが師匠らしいことをしろって言ってきた」

「それは言わなくてもいいですよ……」


 そうは言うが、お前が耳元に来た時点でわかるだろ。


「えーっと……」


 エーリカがおずおずとレオノーラとアデーレを見る。


「せっかくジーク君が祝ってくれるって言っているんだから行こうよ」

「そうね。せっかくのお誘いだし、お言葉に甘えましょう」


 2人は多分、ヘレンが本当はエーリカに気遣えって囁いたことだとわかっているんだろうな。


「じゃあ、御馳走になります」

「ああ。とはいえ、さすがに勤務時間に行くわけにはいかないから1時間後にしよう」

「わかりました! ありがとうございます!」


 俺達は一度解散することにし、支部に戻った後にそれぞれの部屋に帰った。

 そして、1時間後に再度集まり、いつもの飯屋に行くと、料理の飲み物を頼み、夕食を楽しむ。


「この町は海産物が多くていいですね。王都もですが、ウチの実家は山の方なので滅多に食べられませんでしたよ」


 アデーレの実家は山の方らしい。


「だよねー。この町は本当に良いところだよ」

「そう言ってもらえると、この町出身の私としては嬉しいですね」

「このまま4人で楽しく過ごしたいねー」


 4人?

 1、2、3……


「ヘレン、ヘレン。俺も入ってんのかね?」

「そうですね。というか、この場面でレオノーラさんが3人って言ったらショックでしょ」


 確かに……

 これこそ社交辞令だろうが、レオノーラはそんな人を傷つけることは言わんか。


「レオノーラ、ワインを注いでやろう」


 空いているグラスにワインを注ぐ。


「おー! ありがとう!」


 レオノーラは礼を言うと、ワインをグイっと飲んだ。


「飲みすぎないようにしなさいよ」

「んー……そう言うアデーレはワインじゃなくてウィスキーだね」

「この前、ジークさんの家で飲ませてもらったのが美味しかったのよ。でも、水で割ったのは微妙ね。やっぱりあの炭酸とやらが良かったのかしら?」


 ハイボールか……


「炭酸? 何それ?」

「ジークさんが作ったシュワシュワする謎の水ね。なんか癖になる感じがした」

「へー……ジーク君は本当に色んなものを作っているんだね。私も飲ませてよ」


 アデーレとレオノーラはワインが好きだし、シャンパンとかの方が好きなんだろうと思うが、作り方がわからんな。


「また今度な。明日も仕事だし、また二日酔いになるぞ」

「それもそっかー。明日も外で水曜石作り?」


 もう大丈夫だとは思うが、念のために外の方がいいか。


「そうだな。でも、午後からは役所だぞ。例のやつ」

「あー、そうだったね。どうする? 私がしゃべろうか?」


 貴族のレオノーラに任せたいという思いはあるが……


「いや、レオノーラはそういう依頼をしたことがないし、俺が話すわ。揉めそうな空気になったら仲裁に入ってくれ」

「了解。任せておいて」


 こういう時に俺が持ってないものを持っている3人は心強いわ。


「エーリカとアデーレは水曜石を作っておいてくれ」

「わかりました」

「ええ」


 俺達はその後も飲み食いをし、遅くなる前に解散した。

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