第054話 信じてるよ?
俺達はそれぞれの作業をしていると、昼になったので昼食を食べることになった。
すると、レオノーラがどうせ昼からも濡れるんだから外で食べようと言い出したのでテーブルと椅子を設置し、4人と1匹でエーリカが作った弁当を食べだす。
「本当に着替えなくてもいいのか?」
3人娘はタオルで軽く拭いた程度でまだ濡れている。
「洗濯物が増えますし、大丈夫ですよ」
「海に来たと思えばいいんだよ」
「それは思えないけど、もう慣れたわね」
水着にでもなればいいのにって思うが、人通りがないとはいえ、街中でそれは嫌か……
「作業しながら見てたけど、良い感じだったぞ」
「エンチャントのコツは掴めた気がするんですけど、すぐに壊れちゃうんですよね」
「ホント、ホント。魔石がもろすぎる」
「魔力を下げると、魔力が籠らないし、加減が難しいわね」
これが魔術師と錬金術師の決定的な差でもある。
錬金術師は魔力のコントロールが苦手なのだ。
素材から成分を抽出したり、素材同士を合成するのにはそこまでの魔力コントロールを必要としないせいである。
「コツはいかに同じだけの魔力を流し続けるかだ。小さくてもいいからコントロールできるだけの魔力を流せばいい。それでできるのは質が低い水曜石だろうが、最初から高ランクの物を作れなくてもいい。Fランクでもいいし、それ以下の粗悪品でもいいからまずは1個作ってみろ」
さすがは学習できる俺だ。
『なんでこんなこともできないんだ?』という言葉を飲み込めた。
「なるほどー。やってみます」
「服が生乾きっぽくなる前に再開しようか」
「ちょうどいい季節で良かったわね。暑くても寒くてもきついわよ、これ」
3人娘がそう言うので今日は昼食を食べ終えたらすぐに仕事を再開する。
午後からも午前と同様に火曜石を作っていき、3人は水に濡れながらも水曜石を作っていった。
しかし、数十分前から3人の手にある魔石から水が噴き出していない。
それどころか魔石の色が徐々に濃い青っぽくなっていた。
「…………あー! 気持ち悪い!」
「あっ」
「もうダメ……」
アデーレが大きな声を出すと、魔石が割れて、水が噴き出す。
それと同時にエーリカとレオノーラの魔石も割れて、水が噴き出し、3人は再び、水浸しになった。
「惜しいなー。もうちょっとだっただろ」
こっちから見てても上手く魔力をコントロールできていたと思う。
「ええ。でも、中途半端に服が乾いてきたせいで気持ち悪くて集中できなかったわよ」
「本当ですよね……」
「表面だけが乾いてきたのに服の中はびしょ濡れだからね。しかも、生温かい」
それは確かに不愉快だろうな。
「――失礼」
もう着替えさせた方が良いかなと思っていると、急に声がしたので振り向く。
すると、支部からの細い道から出てきたところに軍服を着た茶髪の若い女性が立っていた。
「どうかしましたか?」
「錬金術師協会リート支部の方達でしょうか?」
「あ、ユリアーナさんだ」
エーリカがこちらにやってくる。
「ん? エーリカさんですか……なんで濡れているんです?」
どうやらエーリカの知り合いらしい。
「役所から水曜石の依頼を受けたんですけど、作ったことがないので教えてもらっていたんですよ。その過程で濡れています」
「そ、そうなんですか。錬金術には疎いものでよくわかりませんが、大変ですね」
確かに知らない人から見たらよくわからんわな。
「これも勉強です。あ、ジークさん、こちらは軍のユリアーナさんです」
エーリカが紹介してくれたので立ち上がった。
「リート支部のジークヴァルト・アレクサンダーです」
「はい。ルッツから聞いております。私はユリアーナ・フォーゲルです。よろしくお願いします」
ユリアーナが自己紹介をしながら手を差し出してきたので握った。
「よろしくお願いします。それでどうしたんですか?」
「ええ。こちらが依頼している回復軟膏の材料である魔力草をお持ちしました。玄関を見たら裏にいるとのことでしたので……」
あ、持ってきてくれたのか。
「ありがとうございます。どちらに?」
「表に車を停めてあります」
「では、取りに行きましょう……あ、お前らは風呂でも入って着替えてこい。それで再開しよう」
また気持ち悪くて失敗したくないだろう。
「失敗したらまた濡れちゃいますよー」
「あそこまでいったら大丈夫だと思う。それにその緊張感を持ってやればいいだろ」
「なるほどー。じゃあ、お風呂に入ってきます。魔力草をお願いします」
「ああ」
3人娘がそれぞれの部屋に入っていったのでユリアーナと共に表に回る。
「ルッツは?」
「ルッツは別の仕事ですね」
あいつも忙しいんだな。
「こちらになります」
表に来ると、玄関の前に車が停まっており、荷台には木箱に入った魔力草が入っていた。
採取してそんな時間は経過していないようだが、想像通り、乾燥はさせていないようだ。
「これだけですか?」
「いえ、市場に出回り始めているのですが、まだ数は少ないんですよ。なので仕入れ次第持ってきます。もちろん、こちらが遅れることもありますし、納期についてはそこまで厳しくしません」
材料がなければ何もできんからな。
いくら錬金術が神秘であろうと無から物を作ることはできない。
「わかりました。では、仕入れ次第持ってきてください」
「はい。それで魔力草なんですけど、私達では処理ができないもので……」
軍人は魔力草を乾燥できんわな。
それができるのは専門の薬屋や錬金術師だ。
「わかってます。その辺りはこちらでやりますので」
そう言って、荷台の木箱を空間魔法に収納する。
「すみませんが、よろしくお願いします。では、私はこれで……」
ユリアーナはそう言って車に乗り、去っていったので支部の裏に戻り、受け取った魔力草を乾燥させていく。
そのまましばらく作業をしていると、3人娘が戻ってきた。
「乾いた服って良いですねー」
「ホントよね」
「お風呂っていいね。あ、返してもらうよ」
レオノーラが俺の頭から三角帽子を取り、被った。
「魔力草を受け取ったわ」
「ありがとうございます」
「さっきのユリアーナは詰所で見たことがないんだが、ルッツの同僚でいいんだよな?」
「港の方の警備を担当されている方ですよ」
へー……
「詳しいな。友達なのか?」
「いえ、ルッツ君の彼女さんです」
彼女かい……
「ふーん……まあ、ルッツは爽やかだからな。モテそうだ」
「ジーク君には私がいるじゃないか」
そうだな。
レオノーラじゃなくてヘレンだけど。
「はいはい……水曜石を作るか?」
「やってみます」
「宝物の帽子を濡らすわけにはいかないからねー」
「さっきの感じだといける気がするわ」
多分、できるだろうな。
できる奴はすぐにできるし、できない奴は永遠にできないのがエンチャントだ。
「頑張れ。俺は魔力草を乾燥させてるわ」
そのまま作業を続けていると、3人娘も魔石を持って水曜石を作り出した。
しかも、目の前で……
「俺にまで緊張感を持たせるなよ……」
「まあまあ。お師匠様じゃないですか」
椅子の下に隠れているヘレンが良いことを言う。
「まあ、それもそうか……信じることが大事だ」
とはいえ、一応、防御魔法はかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます