第053話 外での錬金術


「ふーん……まあいいや。じゃあ、エンチャントを教えよう。まずなんだが、お前らって魔法は使えるのか? もちろん、錬金術じゃなくて魔術師が使うような魔法だ」

「使えませーん」

「やったことない」

「攻撃魔法は好きじゃないのよ」


 いかにも女性錬金術師って感じがするわ。

 男の錬金術師は初級魔法くらいなら使える奴が多い。


「別に攻撃魔法じゃなくてもいいぞ。生活魔法と呼ばれる超初級の魔法でいい」


 生活魔法というジャンルの魔法はない。

 コップくらいの水を出したり、ライター程度の火を出すくらいの超簡単な魔法をそう呼んでいるのだ。


「水なら出せます。学校で習いました」

「同じく」

「まあ、それくらいなら……」


 ホントかな……


「ちょっとやってみ」


 そう言うと、3人娘が地面に手を向ける。

 すると、少量の水が手から飛び出し、びちゃっと地面を濡らした。


「ふう……」

「これが最初にできた時は感動したなー……」

「無駄に使って魔力が尽きて、気持ち悪くなった思い出があるわね」


 まあ、俺も最初は感動した。

 前世では魔法なんて物語の中だけだったし、自分で使えるというのは非常に嬉しかった思い出がある。


「イメージとしたらその魔力で出した水を魔石に込める感じだ……こんな感じ」


 魔石を手に取ると、魔石にエンチャントする。

 すると、徐々に魔石が黒から青っぽく変わっていき、10秒も経たずに水曜石を錬成した。


「速っ! いくらなんでも速すぎない? 数秒で魔石が水曜石になってるじゃないか」

「これは見せるためにスピードを重視したからな。ランクとしてはFだし、売りものにはならん」


 水曜石の質は内包する水量でランクが決まる。

 Fランクでは風呂の水を溜めるので精一杯だ。

 依頼でランクの指定はないが、火事の予防なら最低でもEランクは欲しいし、支部の評判を上げるためにはDランクが望ましいだろう。


「へー……それでもすごいよ」


 レオノーラが感心する。


「まあ、こんなものだな。やってみ」

「失敗したらびしょ濡れだっけ?」

「水が爆発とは言わんが、噴き出すからな」

「ふむふむ……しゃがんでー」


 レオノーラは帽子を取ると、俺の頭に乗せようと腕を伸ばしたのだが、身長が足りなかったらしい。

 仕方がないので身をかがめると、レオノーラが自慢の三角帽子を俺の頭に乗せた。


「ちょっと離れてて」


 レオノーラがそう言うと、俺達は距離を取り、観察する。


「ジーク君、アドバイスは?」

「最初は絶対に失敗する。何回かやって、コツを掴め。最悪は赤字になってもいいからやりまくれ」


 この前の魔剣や軍の緊急依頼もどきでかなり黒字になっているから魔石程度をいくら消費しようと問題ない。


「わかった。水も滴る良い女を見せてあげよう」


 レオノーラはそう言うと、手に持っている魔石に魔力を込めだした。

 すると、黒い魔石が薄っすらと青い色が付きだす。

 直後、魔石にひびが入った。


「あ、魔力を込めすぎた。失敗――ひぇ」


 魔石から水が吹き出し、レオノーラが水も滴る良い女になった。


「いいぞー。ちょっと色が変わっただろ。それがエンチャントだ。あとは魔石が壊れないように魔力を調整しながら全体に水属性をエンチャントしろ。質は気にしなくていいからまずはやりまくれ」

「わかったよぅ……」


 ぽたぽたと滴る長い金髪を払ったレオノーラは木箱から魔石を3つ取り出し、エーリカとアデーレのもとに向かう。


「はい。3人で童心に帰って水遊びをしよう」


 レオノーラが2人に魔石を手渡した。


「やりますか……」

「そうね。今日は雨が降ったと思いましょう」


 2人は顔を見合わせると、魔石をじーっと見る。

 すると、先程のレオノーラの時と同様に魔石の色が微妙に変わったのだが、すぐにヒビが入った。


「「あっ」」


 ヒビから水が噴き出し、2人が水浸しになる。

 俺は晴れなのに水浸しになっている3人娘を離れて見ていた。


「ポジティブなことを言うと、色が変わっただけでも才能はあるぞ。できない奴は色すら変わらんからな」


 あとは数をこなし、コツを掴むだけだ。


「ジーク君もこっちで一緒に濡れない? 意外と気持ちいいよ?」


 レオノーラが手招きしてくる。


「俺はこっちで火曜石を作る。水気は邪魔だ」


 火曜石は失敗した時のリスクが大きいので3人に任せる気はない。

 さすがに防御魔法を覚えさせてからになるし、かなり先になるだろう。


「絶対に濡れたくないからだよ」

「多分、そうでしょうね……」

「そ、そんなことはないですよ。ジークさんはジークさんで仕事をしているのです」


 すまん、エーリカ。

 合ってるのは貴族令嬢2人だ。

 濡れたくない。


「いつでも家に帰って着替えるなり、風呂に入るなりしろよー」


 そう言って、椅子と魔石が入った木箱を取り出し、腰かけながら火曜石作成作業に入る。

 3人娘も噴水みたいな水を浴びながら水曜石を作る修行をし始めた。


「なあ、ヘレン。女子供に働かせて、一人サボっている悪い男に見えないか?」


 前にもこういうことがあった。

 森でエーリカとレオノーラに採取をさせ、俺一人がサボっていた時だ。

 いや、サボってはいないし、見張りをしていたんだが……


「ご安心ください。今回は水で遊んでいる女子供とそれを温かい目で見ている保護者に見えます」

「ならいいか……」


 まあ、どっちみち、仕事をしているようには見えんな。

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