第047話 悩む


 支部に戻ってきた俺達が階段を昇ると、すでにレオノーラとアデーレが戻っていた。


「よー、早かったな」

「ただ今戻りました」


 俺とエーリカは2人に声をかけ、席につく。


「あ、おかえりー」

「おかえり。コーヒーを淹れるところだけど飲む?」


 アデーレが聞いてくる。


「頼むわ」

「あ、手伝います」


 エーリカがそう言って立ち上がると、アデーレと共にコーヒーを用意しだした。


「レオノーラ、役所の依頼は何だった?」

「うーん、それなんだけどねー……先にそっちの依頼を聞いてもいい?」


 何かあったな……


「こっちはたいしたことない。回復軟膏を100個だ。納期はひと月で依頼料は30万エル」

「ふーん……回復軟膏って何だっけ?」


 エーリカもだけど、そのくらいは知っとけよ。


「アデーレは知ってるかー?」


 エーリカとコーヒーの準備をしているアデーレに聞いてみる。


「ええ、知ってるわ。携帯用の回復薬よね? ウチは武家だから必需品よ。父に頼まれて作ったこともある」


 さすがは軍人さんの家の子だ。


「そうそう、それ。まあ、たいしたことはない。材料に魔力草を使うが、それは向こうで用意してくれるそうだ」

「それはありがたいね。じゃあ、そっちは大丈夫そうだ」


 レオノーラが頷くと、アデーレがレオノーラのデスクにコーヒーを置き、エーリカが俺のデスクに置いてくれる。


「悪いな」

「いえいえー。それで役所はどうなんです? なんか大変な感じですか?」


 エーリカもレオノーラの様子で察したらしい。


「何と言うか……」

「色々あったわね……」


 レオノーラとアデーレが顔を見合わせる。


「何だ?」

「えーっと、まずだけど、この前、ジーク君が倉庫の火を魔法で消火したでしょ? 町長から感謝状の授与があるらしいよ」


 ハァ?


「いらん」


 金にならないし、ゴミが増えるだけだろ。


「そう言うとは思ったけど、もらった方が良くない?」

「そうよ。火事の件は知らなかったけど、とても立派よ。私は誇らしく思うわね」


 えー……


「ヘレン、どう思う?」

「支部の評判を上げるためにやったことですし、もらった方が良いでしょう。ついでに、営業でもかけたらどうです?」


 なるほど。


「まあ、町長の心証は良くした方がいいか」

「そうですよ。嘘でも町のために尽くしたって言うんですよ」

「わかってるよ」


 嘘は簡単だ。

 エーリカならこう言うだろうっていうことを言えばいいんだから。


「ジーク君、行ってくれるかい? ルーベルトさんに行ってくれって頼まれたんだよ」

「行くわ。いつだ?」

「今週末がいいってさ」


 まあ、別にいいか。


「わかった。行ってくるわ」

「頼むよ。それで依頼なんだけどさ、2種類ある」


 2種類?

 2つじゃなくて?


「緊急依頼か?」

「いや、具体的には緊急依頼じゃないんだけど、急ぎだと思う。火事で燃えた倉庫の復旧と資材の修復の依頼が役所経由でウチに来てる」


 あー、そういうやつか。


「役所が補助で復旧費用を半分出すやつだな」

「ルーベルトさんもそう言ってたね。ちょっとよくわかんないけど」


 そういう依頼の経験がないか。


「火災なんか事故だと役所からある程度は補助が出るんだよ。その一環として、協会に依頼する場合は役所が費用を半分負担してくれるんだ」


 だが、その申請にはいくつかの条件がある。

 その1つが申請者に過失がないということだ。

 つまり役所や軍は今回の失火を放火と見ているということだな。


「へー……そういうこと」

「もう1種類は何だ?」

「普通の依頼。えーっと、火曜石と水曜石を50個ずつ」


 火曜石と水曜石ねー……


「当ててやろうか? 火曜石は倉庫にあったやつで水曜石は今後の火事対策だろ」

「おー、当たってる! ジーク君すごーい!」

「どうも」


 例の本の褒め褒め大作戦だな。


「ジーク君の想像通り、火曜石は例の火事になった倉庫にあった分の補充だね。あれは役所に納品されるものだったんだよ。水曜石はこの前の火事の反省からだそうだよ。この町は海も近いし、川もあるから水が豊富なんだ。でも、あの倉庫はそのどちらからも距離があって、対応が遅れちゃったらしいんだよ。そういうところは他にもあるから配るんだって」


 水曜石があれば初期の失火なら魔術師がいなくても対応できるもんな。


「わかった。納期は?」

「火事の方は要相談だってさ。水曜石は急ぎ。火曜石はひと月だって」


 水曜石が急ぎなのはわかるな。


「うーん……ちょっと多いな」

「だよねー。まだ前にもらった役所のインゴットとレンガが終わってないよ」


 ちょっと営業をかけすぎたかもしれんな。


「そっちはどうだ?」

「インゴットが38個終わっているから残り12個、レンガは40個終わっているから残り10個だね」


 さて、どうするか……


「アデーレ、インゴットやレンガは作れるか?」

「魔法学校の実習でやったじゃない」


 確かにやったね……


「一応、聞く。仕事では?」

「あまり仕事を回してもらっていないのでしてないわね。まあ、レンガやインゴットを作る仕事なんてないでしょうけど。あってもスイッチ一つじゃないの」


 そうなんだよなー。


「全員に聞く。火曜石と水曜石を作ったことがある奴は手を上げろ」


 当然、誰も手を上げなかった。


「やったことないです」

「ないねー」

「当然、ないわね」


 3人が首を横に振る。


「まあ、そうだろうな……7級、6級レベルだし」


 エンチャントだから難しいのだ。

 なお、王都の機械があればスイッチ一つ。


「教えてくれたらやるよ?」

「火曜石はミスったら爆発するぞ」

「……水曜石がいいな」


 そっちはびしょ濡れになる。

 まあ、家が近いし、着替えることはできるな。


「とりあえず、残っているレンガとインゴットを協力して終わらせよう。その後にどう分けるかだなー……」


 一番楽なのは難しいのを俺がやって、簡単なのを3人娘に任せることだ。

 だが、成長を促す意味でも任せるべきだと思う。

 うーん……

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