第048話 仕事開始


「私、回復軟膏が良いなー。薬を作るのが好きだし」


 悩んでいるとレオノーラが立候補する。


「レオノーラ、それはいいけど、依頼の優先順位をつけるべきよ。急いでいるのは水曜石でその次は要相談の倉庫の補修。回復軟膏と火曜石は優先順位が低いわ」

「「なるほどー」」


 レオノーラとエーリカが口を揃えた。


「えっと……」


 アデーレが困った顔で見てくる。


「悲しいことを言うと、これまでは優先順位をつけるほどの依頼がなかったんだよ」

「そ、そう。でもまあ、依頼も増えてきたということでしょう」


 そうなるな。


「人も増えたし、良い変化だ……アデーレ、水曜石を作ってみたいと思うか?」

「思うわね。私は錬金術の仕事をしにこの町に来たの」


 そうだったな……


「じゃあ、全部受けるか」

「そうしましょう」

「せっかくだしね」

「初仕事から大変みたいだけど、頑張りましょう」


 このようにやる気もある。

 正直に言うと、俺は倉庫の復旧は断りたかった。


「わかった。エーリカ、ルッツに電話してくれ。レオノーラもルーベルトに電話して、水曜石の具体的な期限と倉庫の復旧の件を詳しく聞いてくれ」

「はーい」

「わかったー」


 2人は立ち上がると、エーリカがそこにある電話のところに行き、レオノーラは1階に降りていった。


「ジークさん、すべての依頼を受けて大丈夫?」


 デスクに残っているアデーレが聞いてくる。


「大丈夫だろ。最悪は俺がフォローする。残業代が稼げるな」


 そう答えると、アデーレが何も言わずにじーっと見てきた。


「何だ? もう目は逸らさんぞ」

「いえ……本部長があなたをここに送った理由がわかった気がしただけ」


 わからんでもいいわ。


「そんなしょうもないことより、アデーレ、前にレオノーラを訪ねてきた時にサイドホテルに泊まったんだよな?」

「そうね。良いホテルだったわ」


 それは俺もそう思う。

 ベッドに転がるヘレンが可愛かったし。


「最上階のレストランには?」

「行ってないわね。行こうかと思ったけど、あいにくと天気が悪かったのでレオノーラと1階のレストランで食べたわ。まあ、あれはあれで楽しかったわね」


 つまりレオノーラも最上階には行ってないわけか。


「そうか……ヘレン、ヘレン、どうやって誘えばいいんだ?」

「えー……そこで聞いてきます? 自分も気になっているから一緒に行こうでいいじゃないですか」


 気になってないが?

 あ、社交辞令……


「アデーレ、実は俺もそこに泊まったんだが、最上階のレストランには行ってないんだ。良かったら一緒に行かないか?」

「お誘いありがとうございます。喜んでお受けします」


 アデーレが姿勢を正して、うやうやしく頭を下げた。

 大げさだな……


「いつが空いてる?」

「いつでも空いてるわよ。この町に来たばかりだし、予定なんてないもの」

「じゃあ、週末にでも行こう」


 アデーレも飲むだろうし、翌日が休みの方が良いだろう。


「はい」

「あ、ちょっと待て。予約できたらな」

「それもそうね。まあ、いつでも大丈夫なので空いてたらで構いません」


 夜にレオノーラに電話を借りるか。


「わかった。ちょっと待ってくれ」

「はい。待ってます」


 しかし、何を話そうか……

 あ、でも、エーリカが話を用意しない方がいいって言ってたしなー。


「ジークさん、ルッツ君に依頼を受ける旨を伝えましたよ」


 考えていると、電話を終えたエーリカが報告してくる。


「魔力草は?」

「随時、持ってくるそうです」


 つまり随時、乾燥させないといけないわけね。


「わかった。あとはレオノーラだが……あ」

「戻ってきましたね」


 エーリカが言うようにレオノーラが戻ってきた。


「お待たせ、お待たせ」

「どうだった?」


 レオノーラが席についたので聞いてみる。


「水曜石はできたら1週間や2週間で欲しいってさ。もちろん、早ければ早いほどボーナスを付けるって。基本的な納期は3週間で100万エル。1日短くなるほどに10万エル増える感じ」


 まあ、そんなものか。

 ボーナスが付くなら優先度がさらに上がったな。


「倉庫の方は?」

「明後日に倉庫の持ち主との打ち合わせがあるから来てほしいって」


 この依頼を断りたかったのはこれなんだよなー……

 絶対に客との打ち合わせが入ってくる。


「そこで具体的なことを決めるわけか?」

「そうなるね」

「行きたくねー。バカと話したくないんだよ」


 最悪。


「バカとは限らないんじゃないかな?」

「バカじゃないかもしれないが、絶対に揉めるぞ。向こうはできるだけ安くしたい。でも、良いものを早く作ってほしい。その辺の交渉がめちゃくちゃ面倒なんだよ」

「まあ、そうだろうね」


 絶対にそうだわ。


「そういえば、ジークさんはそういうのが嫌で協会に就職したんでしたね」


 エーリカが言うように民間に入らなかったのも自分で店を持たなかったのもバカな客を相手にしたくなかったからだ。

 金だけが目当てなら自分で起業したり、店を出した方が絶対に儲かる。


「じゃあ、私達が打ち合わせに行こうか?」


 こいつらに任せる……

 経験もロクにないうえに貴族令嬢2人と心配になるくらいに善のエーリカ……

 ダメだろ。


「俺が行く。でも、誰かついてきてくれ…………うーん、レオノーラでいいわ」


 3人を見渡し、レオノーラに決める。


「私をご指名? なんで?」

「貴族がいたら向こうが委縮するかもしれんだろ。あとは見た目。お前は小さいから向こうも温かい目で見てくれるかもしれん」


 アデーレでもいいんだが、来ていきなり嫌な仕事を回すのはどうかと思う。


「そういう打算なわけね。わかった。じゃあ、明後日一緒に行こう。午後からだから」


 午後からか。

 打ち合わせは11時にした方が強制的に1時間で終わるからいいんだがなー……


「はいよ。じゃあ、仕事を始めるか。今日中にレンガとインゴットを終わらすぞ」

「レンガ作りまーす」

「そうしよう。インゴット作ろー。アデーレ、手伝って」

「インゴット……何年振りでしょう」


 3人がそれぞれ仕事を始めた。


「俺はちょっと買い物に行ってくるわ。材料を買わないといけない」

「お供します」


 俺はヘレンと共に支部を出ると、この間も行った鉱石なんかを売っている店に向かった。

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