第2章
第039話 出迎え
俺はリートの町の空港前で人を待っていた。
もちろん、その待ち人は魔法学校のクラスメイトであり、かつての同僚であるアデーレである。
昨夜、レオノーラの家にアデーレから電話があり、明日の昼にそちらに着くと連絡があったため、こうして出迎えることにしたのだ。
だが、この場にはアデーレの友人であるレオノーラはいない。
レオノーラはいつものへらへら顔で『君が一人で行くんだよー』と言っていた。
「ふぅ……まずは服装を褒め、今日も可愛いなって言うんだったか?」
「ジーク様、それは参考にしてはいけない例の本です」
ナンパ本だったか……
あれは最近、ネタ本として3人で読んでたりするし、レオノーラがそれを使ってエーリカを口説いたりしているからごっちゃになってしまった。
「挨拶だな、挨拶」
やあ、アデーレ。
「はい……あのー、もしかしなくても緊張されてます?」
「ああ……あんなことがあったから顔を合わせづらいんだ」
手紙のやり取りはしたし、電話もした。
だが、あれ以来、初めて会うのだ。
そもそもあの時くらいしかロクに会話をしてこなかった相手である。
最近は自分でもマシになったかなと思わないでもないが、それでも変わろうと思った決定的な原因であるアデーレに会うのはどうしても緊張してしまう。
「なんか本当に好きな子に会うのに緊張する子供みたいですね」
レオノーラが言ってたやつか……
「そっちは経験がないからわからん」
「誰かを好きになることはないんですか?」
「ない。前世と合わせて何十年になるが、人を好きになったことなんてない。もちろん、お前を除いてな」
肩にいるヘレンを撫でる。
「ジーク様……嬉しいですけど、悲しいです」
ほっとけ。
「女って必要か?」
「とんでもないことを言い出した……」
ん?
「あ、いや、言葉を間違えたな。伴侶っているか? 結婚に何のメリットがある?」
「どっちみち、とんでもないことを言ってる……それが人の営みでしょう。そうやって、人が子を生み、その子もまた人を生む。それが歴史です」
「そうだな。だが、それは俺以外の誰かがやるだろう。それこそ結婚や子供を生むことに価値を見出し、その選択をした者達だ」
俺は何の価値も見出せない。
「こじらせてますねー。幼少の頃に女の人にいじめられました?」
どうだろ……?
そもそもイジメを受けるほどの関係性を築いたことがないし、有象無象に興味がなかったからわからない。
「うーん……」
「ジーク様の子供と遊ぶ夢は遠そうですねー……」
一生、来ないと思う。
でも、俺がちゃんと相手をしてやるから安心しろ。
そうだ、今度の休みは釣りに行くか。
「そもそも俺と結婚しようと思う女はおらん。いたら病院を勧める」
「奥さんが2人もいるじゃないですか」
「それ、レオノーラのしょうもない冗談だろ……って、来たな」
上空には飛空艇がおり、ゆっくりと降下し始めている。
「アデーレさんが乗ってる船ですかねー?」
「時間的にあれだ。俺達が乗ってきた船だし、王都からの便で間違いない」
俺達がそのまま待ち続けると、飛空艇が空港内に入り、見えなくなった。
そして、しばらくすると、乗客らしき人達が降りてくる。
すると、ビジネスマンらしき男達の中に赤髪の女性を発見した。
間違いなく、アデーレである。
「あれだ。行くぞ……」
「暗殺者ですか?」
「アホ」
歩いているアデーレに近づいていく。
すると、アデーレが俺に気付き、驚いた表情で足を止めた。
「やあ、あれーで……」
噛んだ……
「ジークさん、私の名前を憶えていないんですか?」
アデーレが怪訝な表情になる。
「すまん、噛んだだけだ。会うのは久しぶりだったんでな。元気だったか、アデーレ?」
「そうですか。まあ、見ての通り元気です」
「それは良かった。荷物を持とう」
「ありませんけど?」
アデーレは手ぶらだ。
「あれ? 荷物は?」
「私は空間魔法くらいなら使えます」
そうなんだ……
「……ジーク様、やっぱりエーリカさんが言うように用意してきた会話はダメですって。噛み合わないどころの話じゃありません」
確かに……
「会話を用意ですか……だから人の目も見ずに上を見ているんですね」
ダメだな。
普通に話そう。
マズいことを言いそうになったらヘレンが止めてくれるだろう。
「すまん。ちょっと嫌われないようにと考えすぎたようだ」
「そうですか……それにしてもジークさんはどうしたんですか? 仕事中でしょう?」
「アデーレを迎えにきた。あと、残念ながら仕事はない」
レンガとインゴットは簡単な仕事だし、2人に任せている。
「迎え? あなたが?」
「そうだ。アデーレはこの町に来たことがあるんだろうが、案内くらいはしようと思ってな」
「そうですか……それはありがとうございます。嬉しいです」
アデーレが微笑む。
「まずは寮に案内しよう。あ、これがアデーレの部屋の鍵な」
アデーレに鍵を渡した。
「手続きをして頂き、ありがとうございます」
「たいしたことじゃない。こっちだ」
「ええ。よろしくお願いします」
俺達は空港から離れ、寮に向かって歩き出した。
「アデーレはこの町に来たことがあるんだったな?」
「ええ。2回ほどあります。両方とも、レオノーラを訪ねたんです」
友人らしいからな。
しかし、タイプが全然違う2人だ。
「その時はあのホテルか? すごいホテルだったな」
「そうですね。せっかく南の町に来たんですから贅沢をしました。何故か、レオノーラも泊まりましたが、はしゃいでいましたね」
「光景が目に浮かぶな。とにかく、優待券をくれて、ありがとう。それまでの俺は高いところに泊まるのは金の無駄と思い、安いところばかりに泊まっていたが、ちょっと考えが変わった」
ヘレンもベッドに転がってにゃーって言いながらはしゃいでいたしな。
「そうですか。余計なお世話かもしれませんが、衣食住は人間の生活で大事なものですから重視した方が良いですよ。生活が豊かになります」
それは俺もわかり始めている。
パンよりエーリカが作ってくれる料理の方が美味しい気がするからな。
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