第031話 緊急依頼終了


 昼食を食べ終え、仕事を再開すると、1時間ちょっとで2人のマナポーション作りが終了した。


「できたー」

「頑張りましたねー」

「お疲れさん」


 作成中の刀身を眺めながら2人をねぎらう。


「そっちはどうですか?」

「というか、なんか怖いね」


 抜き身の剣を眺めている同僚がいたら怖いわな。

 だから個室が良いって言ってるのに……

 まあ、こいつらに提案できないんだがな。


「こっちも順調だな。マナポーションはどうする? 俺が傍目で見る限り、全部Eランク以上あったし、もう納品はできると思うぞ」

「ちゃんと見てたんですね」

「良い師匠だなー」


 任せたけど、気になってたからな。


「まあな。悪くなかったし、最後の方はスムーズで良かったと思うぞ。もう10級の域ではないだろう」


 褒めるのが大事っと……


「そうですかね?」

「いやー、照れるなー」


 ホントに効果的だ……

 ナンパ本すげーな。


「それでどうする?」

「急いでいるわけですし、納品に行きましょう」

「まあ、まだ昼過ぎだしね」


 時刻はまだ2時過ぎだ。


「じゃあ、行くか。俺が持つわ」


 そう言って作成中の魔剣を置いて立ち上がると、マナポーションが入った木箱を空間魔法に収納する。


「ジーク君は本当にすごいね。錬金術だけじゃなくて、魔法も優秀なんだもん」

「当然だ」

「うーん、この子は褒め甲斐がないし、効果的じゃないな」


 あ、レオノーラもナンパ本を実践してるし。


「やはり優秀なのはエーリカだろう。料理も完璧だ」

「まあねー。頭も良くて家事もできる。まさしく、完璧な女性だ」


 悪ノリした俺とレオノーラが褒めながらエーリカを見る。


「2人共、あの本を忘れましょうよー……絶対に良くない本ですってー……」


 エーリカが頬を染めながらつぶやいた。

 どうやらエーリカには効果があるようだ。


「悪い。行くか」

「はーい」

「あ、私も行く」


 俺達は何故か3人全員で支部を出て、近くにある役所に向かう。

 そして、役所に着くと、右端にある受付に向かった。


「ルーベルトさん」


 エーリカが書き物をしているルーベルトに声をかけた。


「やあ、エーリカちゃんにジークさん。それにレオノーラちゃんは戻ってきたんだね」


 ルーベルトが優しい笑みを浮かべながらレオノーラを見る。


「ただいま。有意義な出張だったよ」

「それは良かった。それで3人揃ってどうしたんだい?」

「緊急依頼のマナポーション50個をもってきました」


 エーリカが答えたので空間魔法から木箱を取り出し、カウンターに置いた。


「え? もうできたのかい?」

「はい。ジークさんが教えてくれましたし、3人で協力して頑張りました」

「早いねー。でも、魔力草はどうしたの? 市場になかったでしょ」


 まだないのかね?

 市場に行ってないからわからんわ。


「ルーベルトさん、私達は錬金術師だよ? いにしえより錬金術師は自分で材料を採取するものなんだよ」


 レオノーラが言うように昔はそういう錬金術師が多かった。

 というのも、今は完全に分業になっているが、錬金術師は魔法使いなので俺みたいに魔術を使える者が多かったのだ。


「外に行ったのかい? 危ないよ?」

「問題ないよ。ウチのジーク君は5級の魔術師だし、私達だって魔法使いの端くれさ」


 門番に止められたけどな。


「うーん、まあ、気を付けてね。じゃあ、ちょっと確認するよ」


 ルーベルトがそう言って木箱に入ったマナポーションを確認し始めた。


「どれも質が良いね」


 ルーベルトが1本1本確認しながら頷く。


「俺の見立てではCランクが3本、Dランクが35本、Eランクが12本だな」

「それはすごいね。期限より短かったし、色を付けないと」


 ラッキー。

 どこぞの少佐よりよほど良心的だわ。

 ホント、こういう依頼者だと助かる。


「ルーベルトさん、ウチは俺が加入したし、今度もう1人来る予定だ。さらにはエーリカもレオノーラも次の試験で9級に受かるだろう。何か依頼があれば積極的に回してほしい。もちろん、それでも人が少ないのは確かだが、こちらも努力する」


 営業、営業。


「ホントかい? それは助かるよ。民間は高くてねー」

「ウチの信用がないのが悪いんだが、できたら今回の依頼も最初からウチに回してほしかった。だったら市場から魔力草が消えるなんてヘマはしていない」


 ついでに民間を下げるっと……

 こういうことは得意。


「わかったよ。正直、今回の緊急依頼はかなり足元を見られちゃったんだよね」

「民間だからな。ウチは公的機関だし、決められた単価の範囲があるからそういうことはできない。役に立てるなら積極的に声をかけてほしい」

「本当に助かるよ。じゃあ、ちょっと見繕うからまた連絡する」

「ああ。こちらも今貰っている依頼を進めておく」


 よしよし。

 こういう良い依頼者には良い顔をしておくのが大事だろう。

 俺も成長したな。


「うん…………よし、確かにEランク以上が50個だね。正式な依頼料が決まったらまた連絡するよ。ありがとうね」

「こちらこそ感謝する」

「ありがとうございました」

「ありがとー」


 俺達は納品を終えると、役所を出て、支部に向かう。


「ジークさん、営業が上手ですね!」

「まあな! そういう本も買ったんだよ」


 昨日読んだ。

 こちらの有能性をアピールしつつ、競合相手をさりげなく下げるのが良いらしい。


「ジークさんは勉強家ですね!」

「……こいつ、ナンパ本を実践してんのか?」


 レオノーラに確認する。


「エーリカは元からそういう子だよ。生まれ持ったもんなんでしょ」


 生まれつきのナンパ女……いや、違うか。


「まあいいや。急ぎの仕事も終わったし、2人はレンガとインゴット作りに戻ってくれ。俺もさっさと魔剣を作ってそちらに加わる」

「わかりました!」

「充実してきたねー」


 これまでが暇だっただけだろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る