第030話 オーケー
アデーレを勧誘してから数日が経ち、役所からの緊急依頼であるマナポーション作りも残り数個になっていた。
そして、昼休憩になったので3人と1匹でエーリカが作ってくれた昼食の弁当を食べる。
「やればできるもんだねー」
「本当ですね。これもジークさんのおかげです」
2人が木箱に入っている四十何個のマナポーションを見ながら頷いた。
「それはお前達の努力の結果だ。というよりも、お前らの実力ならそれくらいはできる」
これが生まれ変わった俺のセリフ。
「最初に浮かんだのは?」
レオノーラが聞いてくる。
「できて当たり前。それができないなら10級を返上してこい……どうだ? 最低だろ?」
「うーん、確かに言葉は強いねー」
「ですねー。でもまあ、事実なんでしょうね」
俺達が何をしているのかというと、弟子2人が俺の人格矯正を手伝ってくれると言ったのでどう思うかを確認してもらっているのだ。
「そもそも同僚やクラスメイトとはあまりしゃべらなかったから実際に言葉には出していないと思う。でも、こう思っており、それを態度に出していたんだと思うんだ」
「まあ、直した方がいいとは思うね」
「ジークさんが変わろうと頑張っておられることを知っていますし、根は優しくて良い人であることを知っているので流せますが、初対面でそれを言われたらちょっと身構える人は多いかもしれませんね」
いやー……エーリカは大丈夫かね?
「やっぱりアデーレが来る前に直すか……」
昼食を食べ終えたので昨日買ってきた本を読む。
「聞く姿勢が大事か……『へー』……『すごいなー』……『それどこで買ったの?』……『俺も興味があるんだよね』……『今度案内してよ』」
こんなん言うの?
「あ、あのー、それ何ですか?」
エーリカは読んでいる本を見ながら聞いてくる。
「昨日、参考になるかもと思って、本屋で買ったんだよ。店員におすすめされた」
「へー……あ、あの、タイトル的になんか方向性が違う気がしますけど……」
タイトルは【仲良くなれる 女性とのしゃべり方】と書いてある。
「そうか? 店員に同僚と上手くしゃべりたいと言ったらおすすめされたぞ」
「なんで女性に限定しているんですか?」
「お前ら女じゃん」
もちろん、アデーレも女。
「ジーク君、それナンパとか女性の口説き方の本じゃない?」
「そうなのか?」
「女性と限定している時点でそうだよ。店員さんはジーク君が職場に好きな人がいると思って勧めたんじゃないかな?
なるほど。
えーっと……
「へー……レオノーラはすごいなー」
「実践しなくていいよ……」
「うーん……」
パラパラと本をめくり、読んでいく。
「いきなり告白してはいけません。告白はいわば最終確認にすぎないのでそこまでにどれだけの関係性を築くのが重要なのです。だから先に身体の関係を持っても問題ないで……ダメだこれ」
マジでナンパ本だわ。
「ジークさんは読まない方がいいと思いますよ」
エーリカが困った顔で首を横に振る。
「見せて、見せて」
「ほれ」
立ち上がってレオノーラに本を渡した。
「ほーん……」
レオノーラが本を読みこむ。
「やっぱりヘレンに頼るか」
「そうですよ。私に任せておいてください。男性はやはり自信と清潔感、そして、ふいに見せる優しさが大事なのです。自信満々でかっこいいジーク様に足りないのは優しさです。ぶっきらぼうでも構わないのでちょっとしたことで優しさを見せればコロッと落ちますよ。要はギャップです、ギャップ」
うーん、ヘレンの言っていることもちょっと違う気がするなー。
「それ、お前の好みじゃない?」
「女性は皆、そうですよ!」
「と言ってるが?」
エーリカを見る。
「うーん、まあ、一概にはそうとは言えませんが、否定もできませんね……私は引っ張ってくれる人が良いです。ちょっと鈍いんで」
確かに鈍いな。
「エーリカは問題ないな。俺リーダーだし」
引っ張っている。
「頼りになりますねー」
うんうん。
「レオノーラはどうだー?」
「ジーク君、この前、部屋に上げたけど、そういうことじゃないからね」
ん?
「何を言ってんだ?」
「いや、この本によると、家に上げた女性はオーケーと……」
嫌な本だな。
「その場にはエーリカもいただろうが。というか、その本、捨てろ」
自分で買っておいてなんだが、良くない本だわ。
「本好きには本を捨てることはできないよ。せっかくだから置いておこう。何かの役に立つかもしれない」
レオノーラはそう言って立ち上がり、錬金術関係の本や材料などが書かれた本が収納されている神聖な本棚にナンパ本をしまった。
「それが役に立つ日が来るとは思えんがな」
「そんなのわからないじゃないか。良いことも書いてあったよ? とにかく褒めろってさ。これは男女関係なく良いでしょ」
褒めるか……
確かに良いかもしれない。
褒めて伸ばすという言葉もあるくらいだし。
「確かにな。レオノーラは本当に賢いわ。だから勉強しろ。試験までひと月だぞ」
「わかってるよ……本当に微妙なラインなんだよなー。夕食後に教えて」
「そうだな」
アデーレに結構な啖呵を切ったし、落ちられたら困るわ。
「あの、私も錬金反応のところが……」
エーリカは十分に受かると思うんだけどなー。
「いいぞ」
まあ、やる気をそぐわけにはいかないし、あれだけ飯をごちそうになっているから断るという選択肢はない。
というか、勉強もエーリカの部屋だしな。
オーケー、オーケー…………これを口に出したらダメなことは俺でもわかるな。
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