第029話 うーん……


 翌日、支部に出勤した俺は2階のフロアにいるエーリカ、レオノーラに挨拶をするとすぐに1階に降りた。

 そして、受付内にある扉をノックする。


「ジークヴァルトです」

『おー、入れ』


 中から声が聞こえたので扉を開け、中に入った。


「おはようございます、支部長」


 デスクで新聞を読んでいる支部長に挨拶をする。


「おー、おはよう。朝からどうした?」


 支部長がそう聞きながら新聞を畳んだ。


「実は昨日、王都にいる友人に電話をしまして、その際にウチに来てほしいと頼んだら了承をもらえました」

「錬金術師か?」

「はい。アデーレ・フォン・ヨードルです。私の同級生であり、本部に努めている9級の国家錬金術師になります」

「貴族か……ヨードルと言えば西部の貴族で軍部に影響力を持っている家だぞ」


 そうなのか?

 貴族のことはあまり知らないんだよな。

 さすがにアウグストみたいなところの大貴族はわかるが、他は興味がないし、知ってても役に立たないから知らない。


「王都の魔法学校は半分以上は貴族ですからね」

「王都の魔法学校を卒業し、本部に就職か……よく了承してくれたな」


 やっぱりそう思うよなー……

 十分に勝ち組だ。


「ダメ元で聞いたのですが、了承をもらえました」

「うーん……クラスメイトだったな? 何だ? 彼女か?」

「いえ、そういうロマンスは一切ありません。友人とは言いましたが、かなり微妙なレベルです。ただ、レオノーラとは昔からの友人のようですね」

「まあ、あいつも貴族だしな。そのアデーレとやらは使える奴か?」


 知らねー。

 本部で一緒に仕事をすることもなかったし、学校では同じ実習班だったが、眼中になかった。

 アデーレの名誉のために言うが、アデーレが眼中になかったというより、学校の生徒全員が眼中になかったのだ。

 だって、あいつら、資格の一つも取れないバカばっかりだったし。


「申し訳ありませんが、アデーレの実力はわかりません。ですが、9級なら一定の実力はあるかと思います」

「そうか……まあ、理由はわからんが、人手不足なウチにとっては朗報だ。ジーク、指導はもちろん、上手くやれよ」


 そこなんだよなー……


「支部長、この支部を建て替え、もしくは、リフォームする気はないですか?」

「ん? なんでだ? 新しいというほどではないが、そんなに古い建物ではないだろう?」


 確かに人の気配がないからさびれているように見えるが、そこまでボロボロなわけではない。


「いえ、やはり個人のアトリエが必要なような気がします。王都の本部ではそれぞれ個人のアトリエがあり、そこで働きます」

「個人のスペースを取れるほどの広さはないぞ。それにこれから人を増やす予定でどれだけ増えるかもわからん状況だ。建て替え、リフォームは時期尚早に思える」


 俺もそう思う。


「支部長、私はそのうち主に人間関係で問題を起こしそうなのです。隔離すべきかと……」

「自分で言うか? その辺りのことはお前らで話し合え。仕切りでも使って個人のスペースを作るなりなんなりしろ」

「ちなみにですが、私がそれを提案した場合、上の2人はどう思いますかね?」


 もちろん、2階でマナポーションを作っているエーリカとレオノーラ。


「知らん。だが、俺は『めんどくせー奴だな』とか『感じ悪い奴だな』って思うな」

「そうですか……参考になります。では、仕事に戻ります。失礼しました」


 そう言って、支部長室を出た。


「やっぱりダメ?」


 ヘレンに聞いてみる。


「ダメですね」

「そっか」


 やっぱりなーと思いつつ、2階に上がって席につき、魔剣作りを始めた。


「なあ、アデーレがここに来たら席はそこか?」


 レオノーラの隣であり、俺の正面の空席を見ながら聞く。


「そこじゃないですかね?」

「アデーレの希望もあるだろうけど、順当に行けばそうだね」


 そうなるよな……

 俺の正面か……


「顔を上げたらめっちゃ目が合うな」

「嫌なのかい?」

「すぐにさっと目を逸らしそうだわ。嫌な感じじゃない?」

「好きな子を見れない子供って感じがして微笑ましいよ」


 レオノーラがそう言いながら笑う。


「それはそれで嫌だな……」

「ジークさん、女性の目が見られないんですか? 普通に見てません?」

「見てるよね」


 お前らは見れるわい。


「いや、思春期のやつじゃなくて、アデーレには罪悪感やらなんやらあるし、距離感が掴めそうにないんだよ」

「普通で良いと思うけど……」


 普通って何だ?


「普通じゃない奴にそういうこと言うな」

「悲しい師匠だ……」

「あの、今のうちに席を代わりましょうか?」


 エーリカが提案してくる。

 エーリカと代われば正面がレオノーラになるから大丈夫な気がする。


「ヘレン、どう思う?」

「それは逃げな気がします。結局は4人しかいない職場であることは変わりませんし、さっさと普通に接するべきでしょう」


 確かに長々とぎくしゃくするのはマズい。

 4人しかいないから協力しないといけないし、他の2人には普通なのにアデーレだけに態度が違うの良くない。

 何しろ、俺はこの班のリーダーなのだから。


「普通って何だ?」

「エーリカさんやレオノーラさんにはちゃんとできてますよ。同じように接すればいいのです」

「わかった。席はこのままでいこう」


 あと2週間あるし、考えておくか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る