第019話 何言ってんだ、こいつ? ★
私とルッツは納品された魔導石を持って、地下の倉庫にやってきた。
そして、ルッツから渡された2枚の紙を見比べる。
1枚はルッツが購入した魔石の鑑定書であり、これには魔石のランクが書かれている。
もう1枚はジークヴァルトが納品した魔導石の鑑定書であり、こちらもランクが書かれていた。
「すごいな……ランク落ちが1つもない」
ランク落ちというのは錬成した物が錬成前より質が落ちることである。
これは錬金術師の腕や触媒などの影響を受けるものであり、そう珍しいことではない。
「大佐、その鑑定書は本物でしょうか?」
「偽物だったら資格はく奪だぞ」
それほどまでに偽証の罪は重い。
「しかし、ランク落ちが1つもないとは……私は錬金術師に詳しくないですが。3級ともなるとすごいですね」
「私は妻が錬金術師だからある程度は知っているが、聞いたことないな。特に魔導石作りは難しいと聞く」
それをわずか2日で100個か。
「そこまで……ジーク殿は何者でしょうか?」
「王都で最高の錬金術師と言われるクラウディア・ツェッテルの一番弟子らしい」
「クラウディア・ツェッテル……魔女クラウディアですか」
この国に3人しかいない1級錬金術師であり、錬金術師協会のボスである。
最近は政治にまで顔が利く王都の魔女だ。
「そうだ。王都で問題を起こし、左遷されてきたようだ」
「問題? 何かあるんですか?」
「昨日、支部長に聞いたが、致命的なまでに人とのコミュニケーションが苦手らしい」
「そうは見えませんでしたが? 普通にしゃべっていました」
なんか偉そうだったが、確かに普通の範疇だった。
「訓練中だそうだ。自分以外は無能と本気で思っている奴らしい」
しかも、それを態度に出すらしい。
たとえ、思ったとしても普通は隠す。
「そ、そうですか……」
「ルッツ。お前はあそこの支部の娘と親戚だったな?」
「はい。エーリカは私の従妹になります」
ちょうどいいな。
「今回のように少佐のような錬金術師協会に不満を持っている者が対応すると面倒だ。お前が窓口になれ」
「はっ!」
さて、ジークヴァルト・アレクサンダーはどの様な魔剣を持ってくるか……
あの自信にふさわしいかどうか楽しみだな。
そして、その結果次第ではこちらも動かないといけないだろう。
◆◇◆
「ジーク様ぁ……あの嫌味臭いのを直しましょうよー」
「ジークさん、さすがに大佐はマズいですって……」
詰所を出ると、2人が苦言を呈してきた。
「わかってる……でも、大佐が俺をバカにしてきたのが悪い」
「え? バカにしてました?」
「褒めてたような気がしますけど……」
どこが?
「指折りって言ってただろ。つまり俺に並ぶ存在が5人もいるってことだ。いねーよ」
陛下もお前に並ぶ者はおらんって言ってたし、師匠も史上最高の天才って褒めたんだぞ。
「あ、はい……」
「あれを悪口と捉えるんですね……気を付けます」
ぐっ……俺が悪いっぽい。
「わ、わかっている。一生懸命、人格矯正中だ。それよりもエーリカ、魔鉱石を売っている店に案内してくれ」
「あ、そうですね。新しい依頼をもらいましたもんね。こっちです」
俺達は街中を歩いていく。
「今回の依頼で500万、今度は1500万か……ボーナスは期待できそうだな」
基本給は下がったが、ボーナスくらいは良い額をもらえるだろう。
「あのー……本当にAランクの魔剣を用意するつもりなんですか? そんな感じっぽかったですけど」
エーリカが聞いてくる。
「CだろうがAだろうが手間は一緒だからな」
「ジークさんって魔剣も作れるんですね」
「まあな」
実は武器作成が一番得意だったりする。
この世界にはない拳銃やビームサーベルも作ったし。
もっとも、絶対に外には出せない。
「すごいですねー……」
「エーリカももの作りが得意なんだろ? 剣も作れるんじゃないか?」
「いやー……武器は怖いです」
あー、女子はそう思うか。
「料理が好きだったな? そういう道具を作ってみるのはいいんじゃないか? 俺もミキサーを作ったし」
「良いですねー。でも、何ですか、それ?」
「なんか混ぜるやつ」
栄養ドリンクを作ろうと思って作ったが、サプリメントができたので不要になったものだ。
「よくわかりませんが、今度見せてくださいよ」
「いいぞー」
俺達は話しながら歩いていき、とある店に入った。
店の中は木箱に入った色とりどりの石が売られている。
「ここが魔鉱石を売っている店ですね」
魔鉱石は魔力を持った鉱石の総称であり、これらを使って剣にエンチャントし、魔剣を作るのだ。
「王都より、充実しているな」
「この辺に鉱山もあるんですよ」
この町ってマジで豊かだわ。
何でもある。
「さて、どうしようか。氷、水、雷……いや、男は炎の魔剣か」
軍人だし、そんな気がする。
「炎の魔剣を作られるんですか?」
「そっちがわかりやすくて良いと思うしな。そういうわけで紅鉱石だ」
真っ赤な石が詰め込まれている木箱を覗くと、一つ一つを手に取り、選別していく。
「わかります?」
「鑑定士の資格を持っているって言っただろ」
「あのー、なんでそんなに資格を持っているんですか? 確か、魔術師も5級でしたよね?」
すごかろう?
「鑑定士に関しては錬金術師でもそこそこ取っている奴はいるぞ。大きなプロジェクトだと1つ1つの材料を鑑定しないといけないんだが、いちいち鑑定士に依頼をしていたら時間がかかって仕方がないからな。だから時短のために取るんだ。そして、そういう奴が上に行く」
仕事のスピードが圧倒的に違うから当然である。
「へー……王都の錬金術師ってすごいんですね」
「エーリカも持っておいて損はないぞ。仕事をする際に意識して材料を見ろ。そうやっていると、自然と身に付くし、そうなったらそこまで難しい試験じゃない」
「なるほどー。やってみます」
「そうしな……紅鉱石はこれでいいか」
紅鉱石を選ぶと、他にも必要な材料と共に購入し、支部に戻ることにした。
そして、エーリカが昨日に引き続き、鉄鉱石を鉄に変える作業に入る。
「魔剣ってどうやって作るんですか?」
購入した紅鉱石と鉄鉱石を机に置くと、エーリカがこちらを見ながら聞いてくる。
どうやら鉄鉱石を見なくても錬成できるようになったらしい。
「色々と方法はあるが、オーソドックスに鉄で剣を作り、その後に紅鉱石から抽出したエレメントをエンチャントする」
「なんか難しそうですね」
「実際、難しいと思うぞ」
俺にとっては造作もないがな。
「へー……私もいつかできるようになりますかね?」
「技術的にはな。でも、武器が怖いんだろ? ならやめとけ。似たようなもので焼くこともできる包丁でも作れよ」
「使い道がありそうでなさそうですね」
「そうかもしれんな」
まあ、自分で考えてくれ。
「あ、そういえば、明日は休日ですけど、ジークさんはどうされるんですか? もし、良かったら町を案内しますよ?」
明日は休みか……
「いや、明日こそは部屋を整えたい」
「あー、そうでしたね。手伝いましょうか?」
エーリカは本当に人間ができているな。
「ちょっと待て。会議をする」
「はーい」
エーリカも慣れたものですぐに頷いた。
「ヘレン、どう思う?」
机の上で丸まっているヘレンに聞く。
「せっかくですし、手伝ってもらいましょうよ」
「俺もありがたいし、そう思う。だが、なんかエーリカが舎弟か便利な小間使いに見えてきたんだが……」
「ひどーい」
「優しい方なんですよ。こういうのは助け合いです。エーリカさんが困った時にジーク様がそっと手を差し伸べるのです」
助け合い……
「なるほどな。エーリカ、困ったことがあれば言えよ」
「いつも助けてもらってますよー。勉強も見てくださいますし、仕事も教えてくれるじゃないですか。ジークさんって本当に良い人だなーって思います」
こいつ、人を見る目は皆無だな。
「大丈夫かな、この人……エーリカさん、詐欺師には気を付けてくださいね」
「ひどーい」
いやー……俺もヘレンと同意見だわ。
エーリカは善すぎてちょっと心配になってきた。
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