第020話 レオノーラ


 仕事を終え、エーリカに夕食をご馳走になると、家に帰り、就寝した。

 そして翌日、エーリカが朝から来てくれて荷解きの手伝いをしてくれる。


「ジークさん、これ何ですか?」

「空気清浄機。ウチのヘレンはデリケートなんだ」


 埃とか毛を吸うことができる。


「へー……これは?」

「加湿器。ウチのヘレンは喉が弱いんだ」


 乾燥するから。


「知らないものがいっぱいありますね。作ったんですか?」

「そうそう。ほとんどヘレンのための道具だな」


 俺はあんまり空気とか湿度とか気にしない。


「お好きですねー。ヘレンちゃん、良かったね」

「にゃー」


 テーブルの上に座っているヘレンが嬉しそうに一鳴きする。


「手伝ってもらって悪いな」

「いえいえ。それにあまり荷物もなさそうですし、午前中で終わりそうですよ」


 まあ、ヘレンがいるとはいえ、基本は一人だからな。


「助かるわー」


 俺達は手分けして荷解きをし、家具なんかを設置していく。

 そして、あらかた片付いて、最後にキッチンで物を収納していると、チャイムが鳴った。


「んー? 誰か来ましたよ?」

「営業かな?」


 知り合いと言えば、支部長くらいだが、来そうにない。

 そうなると、新聞かなんかの営業だろう。


 この場をエーリカに任せると、玄関に向かい、扉を開ける。

 すると、大きな三角帽を被った金髪の少女が立っていた。

 少女は背が高くなく、150センチもないだろう。

 三角帽子のせいで魔女に見えなくもないが、身長的に子供みたいだ。

 ただ、体つきは子供ではない。


「誰?」


 マジで誰?

 営業には見えんぞ。


「変なことを聞くけど、君こそ誰だい?」


 人の家を訪ねてきて、そう聞くのは確かに変だ。


「あ、この声はレオノーラさんだ」


 キッチンにいたエーリカが玄関にやってくる。


「やあ、エーリカ。ただいま」

「おかえりなさい。戻ってきたんですね」


 どうやらこの少女、いや、女性が例のレオノーラらしい。


「うん。朝一の飛空艇で戻ってきたよ」

「終わったんですねー。あ、こちらは先日、赴任してきたジークヴァルト・アレクサンダーさんです」


 エーリカが俺を紹介してくれる。


「ジークヴァルトだ。ジークでいいぞ」

「どうも。レオノーラ・フォン・レッチェルトだ。ようやく同僚が増えて、嬉しいよ」

「貴族か?」

「勘当されてるけどね」


 え? なんで?


「あ、中に入るか? ちょうど片付いたところだし、お茶を…………」


 ちらっ。


「あ、淹れまーす」


 エーリカが淹れてくれるらしい。


「それはありがたいね。あ、エーリカ、これお土産。お茶請けにでもしてくれ」


 レオノーラがエーリカに包装紙に包まれた箱を渡す。


「ありがとうございます」


 エーリカがそう言ってキッチンに向かったのでレオノーラを招き入れ、テーブルにつかせた。


「いやー、疲れたよ……おや? 猫がいる」

「そいつは使い魔のヘレンだ」

「こんにちは」


 ヘレンが顔を上げ、ぺこりと挨拶をした。


「ふむ……使い魔ということは魔術師かい?」


 レオノーラがヘレンを撫でながら聞いてくる。


「そっちの資格あるだけで本業は錬金術師だ。3級になる」

「3級? それはすごいね……あー、君の師匠ってクラウディア・ツェッテルかい?」


 師匠の名だ。


「知ってるのか?」

「まあ、本部長だしね。魔女クラウディアの秘蔵っ子って君だろ?」


 秘蔵っ子かは知らんが、目にかけてもらったのは確かだ。

 左遷されたけどな。


「そうかもな。レオノーラは貴族なんだろ? 勘当って何だ?」

「ジーク様、初対面で聞いてはダメです。もうちょっと仲良くなってからの方が……」


 それもそうか……


「すまん。聞かなかったことにしてくれ」

「いや、別に隠してもないし、どうでもいいことだよ。単純に親の方針と合わなかったから家出しただけ。私は錬金術の道に進みたかったけど、親はどっかの良いところに嫁いでほしかった。でも、それを拒否して家出した。それで勘当されただけさ」


 貴族令嬢だとそういうこともあるか。


「なるほどねー。ところで、なんで俺の部屋を訪ねてきたんだ?」

「このアパートは支部の寮だからね。空家のはずの部屋から人の気配がしたから気になったんだよ。最初はエーリカを訪ねたんだけど、いないし、もしかしたらこっちかなと……案の定いたね。彼氏かと思ったけど……」

「荷解きを手伝ってもらっていただけだ。あいつ、良い奴だから」


 仏のエーリカ。


「そうだねー。自慢の子だよ。でも、あげないよ? 彼女は私のメイドさんだから」

「メイドじゃないでーす」


 エーリカがコーヒーとお土産のクッキーを持ってきて、レオノーラの隣に座った。


「悪いな。あ、レオノーラもありがとう。頂くわ」


 2人に礼を言ってクッキーを摘まむ。


「いえいえー」

「構わないよ。仕事の方はどんな感じ? やることある? ないなら明日も休むけども」


 まあ、帰ってきたばかりだしな。

 暇なら休むか。


「今は役所からの依頼であるレンガ50個と鉄鉱石をインゴットに変える仕事ですね。あとは軍のヴェーデル大佐から魔剣作成の仕事も頂きましたが、こちらはジークさんです」

「魔剣? まあ、私達には無理だね。そうなるとレンガとインゴット……ポーションはないの?」


 そういやレオノーラは薬作りが得意ってエーリカが言ってたな。


「10級ならレンガやインゴットくらい作れるだろ」

「乗り気になれないけど、人手がないか……でも、インゴットはやったことないよ?」

「誰でも最初は初めてだ。エーリカだって初めてだったが、鉄鉱石を鉄に変える工程まではできている」


 それからインゴットに変えるのだ。

 まあ、鉄をインゴットに変えるのは簡単。

 その辺の資格なしでもできる。


「ふーん……エーリカ、明日から手伝うよ」

「お願いします」


 2人でやれば期日以内は余裕だろうな。


「ふう……なんかクッキーを食べたら逆にお腹が空いてきたね。よし、ジーク君の歓迎会を兼ねて昼食に行こうか」


 レオノーラがそう言って、コーヒーを飲み干す。


「この前やったが?」

「私はやってない。お姉さんが奢ってあげるから安心しなさい」


 お姉さん?

 このチビ、何言ってんだ?


「お前、いくつ?」

「22歳」

「そういや同い年って聞いたわ……」


 見えねー。


 俺達はその後、家を出て、3人で昼食を食べに行った。

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