大怪獣ギゴラ

一文字零

大怪獣ギゴラ

 朝、スマホからメッセージが届く。「ねぇ、あんたって誕生日いつだっけ」と、ぶっきらぼうな文章。アカウント名を見なくても、俺のことを「あんた」なんて呼ぶのはあいつくらいだから、寝ぼけてホーム画面の通知欄を見ても、誰からのメッセージなのかはすぐに分かった。俺はすぐに質問に答えようとしたけど、それと同時に目についた、画面に映る非現実的な時刻が、あいつに返信する心の余裕を綺麗に消し去った。

「よう」

「あ、既読無視したテニス男だ」

 登校中、今朝、メッセージを俺へ送った本人でありクラスメイトの美緒が、朝から陽気にそう言った。テニス男というあだ名は、俺がテニス部に入っていることが由来だ……と思う。こんなあだ名で呼ばれたのは初めてだ。多分もう二度とこのあだ名では呼ばれないだろう。

「人聞きの悪い。朝遅刻しそうになって、返信する余裕もなく急いで家飛び出したんだよ。っていうか、毎日こうして登校中に会ってるんだから、わざわざ連絡しなくてもいいだろ」

「まぁ、それはそうだけど。口頭よりメッセージの方が気分的に良いかなってこともあるのよ」

「意味わかんねぇよ。後な、質問に答えておくと、俺の誕生日はちょうど来週。お前とはもう五年も友達なんだぞ? 良い加減覚えて欲しいんだけどな」

「いや、あんたの誕生日は知ってる。ただ、確認しただけ」

 なんなんだこいつは。俺の誕生日をわざわざ朝に確認するなんて。そもそも、俺のアカウントのプロフィール欄を見れば、誕生日なんてすぐに分かるはずなのに。

「なぁ美緒」

「なに」

「今気付いたんだけど、なんでお前は遅刻しそうな俺と同じところを歩いてるんだ?」

「あ、そうだった。私も遅刻しそうなんだった」

 その時、チャイムという名の遅刻のお知らせが、大きく、はっきりと聞こえた。

 結局、二人揃って先生の激昂を喰らった俺達は、逆ギレするでもなく凹むでもない微妙なテンションで教室に入った。クラスの仲間は、爆笑するでもなくドン引きするでもない、これまた微妙な顔で出迎えた。

 昼の休み時間になると、一人の女子が俺に話しかけてきた。

「ねぇ、隼人くんって美緒と付き合ってるの?」

 その時、賑わっていたはずの教室が一瞬、静まり返った。

「付き合ってないよ」

 俺は変に怪しまれないように、淡白に返した。本当に美緒とは付き合ってない。

「あ、そう」

 そいつとの会話は、実に味気なく終わった。余計な詮索がなかったから良かったけど。

 今朝の出来事が自分の脳内で映像としてループする中、午後の授業が始まった。

 社会の先生はチョークを取って、一文字目を力強く書き始めた。黒板消し係の俺は「消しにくそうな字だな」と心の中で悪態をついていた、その時の出来事だった。

 校内放送のチャイムが鳴った。「えー、皆さん。よく聞いてください。只今、緑山市に避難指示が発令されました。信じがたい話ですが、なんでも巨大な動物らしきものが突然緑山市の海に上陸してきた、ということみたいで……」先生のどこか焦りを感じる声が、教室のスピーカーから聞こえた。

「何々ドッキリ?」

「怪獣映画の撮影? ばっかみたい!」

 みんな口々に思ったことを吐き出す。そして「本当に巨大な動物らしきものが上陸してきたのか」という疑問は、考えうる限りの一番嫌な方向に解決するのだった。

「えっ」

「マジでいるの?」

「やばいやばいやばい……」

 ふと大きな爆発のような音が遠くから聞こえて窓の外を見ると、そのあまりにも浮世離れした光景に、クラスメイトの発言は弱々しいものになった。

 ここから二キロ離れた海岸で、六十メートルはあろうかという超が付く程の巨大な恐竜のような生き物が、のそのそと歩いている。

 たった今俺達の感情は、そのあまりに現実味のない出来事を嘲笑する気持ちから、それが現実であると知ってしまった恐怖の気持ちへと変わった。

 こんな時に、美緒は呑気に俺に話しかけてきた。

「ねぇ隼人、あの生き物、結構可愛いね」

 危険な巨大生物を目の前にして何を言い出すかと思ったら、この女は……全く。

「は? お前何言ってんだよ。俺らはこれからのことを考えなくちゃなのに。お前はいつも呑気だな……」

 三分前まで授業をしていた先生は、チョークを置き、俺達生徒に避難を促した。俺と美緒も立ち上がって、避難訓練の時と同じような動きで体育館へと移動した。この学校の玄関先には、既に近隣住民が避難しようと押しかけて来ているらしい。

「えー生徒の皆様、まずは落ち着いて、先生方の指示に従ってください」

 ステージでマイクを持った先生が、続けて「勝手な行動、私語はしないように」と言うのと同時に、マイクのハウリング音をぐっと低くしたような歪んだ音が、外から聞こえた。クラスメイトや他の生徒達はざわめきながら口々に言う。

「もしかして鳴き声じゃないの?」

「もうこっちの方まで近づいてきてるってこと? やばくね?」

 みんな落ち着いてなんかいられないんだ。そりゃそうだ。日本はおろか世界の歴史を見ても今まで前例のない、とてつもない大事件なんだから。

 あれから、目まぐるしく時間は過ぎていった。あの後合流した母と父の言動には、冷静さの中に確かな不安があった。日常は全てあの巨大生物の手によって破壊され、この街の住民は怯えながら過ごしていた。

 ギゴラと名付けられた巨大生物の出現から半日後、浜辺をうろうろしていたそいつは、何故か海へと帰っていった。でもいつまた現れるか分からない。そんなギゴラから逃れるため、俺は父の実家へ疎開することになった。中学三年生。高校受験を控えた十月のことだった。

 俺は緑山市に残ることになった美緒と、一旦の別れの挨拶をした。

「大変なことになっちゃったね」

「うん。でも、きっと大丈夫だって俺は思ってるから。美緒、また会おうな」

「そうね。あんたとまた会ったら、その時はまた一緒に遅刻しようね」

 美緒らしい、変な別れの挨拶だった。美緒とは確かに会えないけど、電話もメッセージもできる。一人になったわけじゃない。そう思った時、俺は思ったより美緒のことを大切に思っているんだと、気付いた。

 大怪獣の異名がついた巨大生物ギゴラは、多くの議論を呼んだ。「ギゴラを抹殺するべきか」「ギゴラはどこから、どのようにして生まれたのか」といったみんなが気になっているであろう議題から「ギゴラを観光資源として利用できないか」「ギゴラを飼うことは可能か」といった馬鹿げた議題まで、様々だった。

 父の実家には、お盆に何回か来たことがあるくらいで、俺にとっては全然馴染みのない場所。そして分かったことがある。俺は慣れない場所だと寝付けないということだ。

「ギゴラ……お前のせいで……」

 そんな独り言を呟くと、スマホから通知のバイブが地面に響いた。それは美緒からのメッセージで「通話しよ」とだけ書かれていた。どの道寝れないんだしいいか、と思って、俺はトークルームの通話ボタンを押した。

「よう」

 電話ではなんとなく「もしもし」は言いたくない。理由は上手く説明できないけど、本当になんとなく嫌ってだけ。

「よ! 今夜は日が昇るまで語り明かそ」

「はいはい」

 俺は美緒と、たわいもないお互いの日常の話をした。とは言え、学校の課題がなくて気が楽だの、先生とダンボールハウスが近くて気まずいだの、美緒が次々に話すもんだから、俺はほとんど聞き役だった。

「ねぇ」

 三十秒くらいか、沈黙の後、あいつはまた話し始めた。既に通話を始めて四十分が経とうとしているのに、まだ話し足りないのか。俺の話もさせて欲しい所なんだけど。

「なに」

「もし、もしだよ。あのギゴラがまたここにやって来たとして……私達と一緒に暮らせるとしたら、友達になれるとしたら……」

「おい、お前まだそんなこと言ってんのかよ? ギゴラは俺達の街を破壊するかもしれない存在なんだぞ? 正体が何もかも不明のまま、共存なんて無理だよ」

 窓を打ちつける雨の音が、段々と聞こえ始めた。

「ギゴラが悪いやつって、まだ決まったわけじゃない。まだ何も分かってないなら、共存が無理かどうかも、まだ分からないよ?」

「そうは言ったって、既にギゴラの調査に行った数人が、死んでるんだぞ……潰されて。たとえギゴラを生捕りにしたとしても、やつは人間に懐かない。アリくらいの大きさの俺達に興味も示さず、やつはただ自分の身が脅かされることを危惧して、警戒心を募らせるだけだ」

 気がつけば、雨音は激しさを増していった。明日の天気予報は晴れのはずなのに。

「そうは言ったって、でも私、やっぱりお互いのことを何も知らないまま争うなんて、見てられないよ」

 そうだった。美緒はこんなやつだった。

「美緒……ごめん」

 俺と美緒の間に流れていた、四十分前までのあの和やかな空気は、あっという間にどこかへ行ってしまった。

 再び沈黙が流れる。雨は止んで、屋根からポツポツと水滴が垂れるだけが響く。

「ねぇ隼人、あんた、誕生日明日でしょ」

 美緒のその一言は、二人の間に流れていた重々しい空気を一瞬にしてビリビリに破いた。

「あぁ、確かにそうだな。というか、もう二十分くらいで日付が変わって誕生日になるのか」

「早いね、もう十五歳なんだ」

「早くねぇよ、お前が遅いんだろ」

「三月生まれで悪い?」

 十五歳か。高校受験、どうなっちゃうんだろうな。もしかしたら緑山にはもう……いや、嫌なことは考えないに限る。

「そういえば、二人で遅刻した一週間前のあの日、なんでわざわざ誕生日なんか聞いたんだ?」

 美緒はなぜか少し動揺したように「え? あぁ、えっと」なんてモゴモゴしながら「祝いたかったのよ。誕生日は間違えたくなくて」と答えた。やっぱり美緒は飄々としていて、たまに受け答えが適当で、掴みどころがない。ほっといたら転んで怪我して泣いていそうな、危なっかしさと儚さもある。でも、そんな美緒とこうして話していられる時間が、俺は楽しい。

 美緒はギゴラと友達になりたいみたいだけど、やっぱり俺は違う。俺と美緒が離れ離れになってしまったのも、そもそもギゴラが原因なんだ。あいつさえいなければ、何もかも、いつも通りだったのに。

 気分の悪い考え事をしている間に、俺は十五歳になってしまった。いまいち実感がないけど、歳をとる時はいつもそうだ。

「隼人、誕生日おめでとう」

 美緒からのお祝いの言葉を聞き、しばらく話してから電話を切った後、俺はすぐに寝ることができた。この一週間、なんだかんだで疲れが溜まっていたのだろう。

 朝、俺はボロボロの机に向かって、スマホで勉強ができるアプリを開く。課題も学校もないとは言え、俺は受験生であることに変わりはない。それにしても、夏休みでもないのに平日学校に行かなくていいのはかなりの違和感がある。俺に関して言えば、風邪で学校を休むこともあまりないから尚更のことだ。

 社会の授業動画を見ようと、画面をタップしたその時、あの時の記憶が、理不尽にやってきて、残された中学生活の日々を、全て壊していったあの化け物が、フラッシュバックする。

「あぁ、ぐっ……」

 あいつのせいで、仲間と心を一つにする学校行事も、美緒と通学路を歩くあの時間も、無くなってしまった。

 世界がセピアになったみたいだ。こんなの、絶対おかしい。

 俺は椅子に座ったまま、うずくまって、しばらくそのままでいた。自分の中にある全ての気持ちに、収拾がつかないままでいる。

「ん?」

 すると、誰かがこの家の廊下を歩いてこちらに近づいてくる音が聞こえた。

「隼人! ちょっと来て!」

 正体は母だった。母は部屋の扉を開けて、俺にシリアスな表情でそう言った。

 今度はなんだ。俺はもう、今にもはち切れそうな心臓を抑えるのに疲れた。このまま何事もなく、平穏に時を過ごしたい。思う事はたったそれだけ。神様がもしいるのなら言ってやりたい。「そんなに無理な願いかよ」と。

「これ……」

 居間に来た俺は、母が指差す方へ視線を向けた。

 言葉は出なかった。俺はその場でしゃがみ込んで、呼吸が荒くなっていくのを感じながら、不可逆性を持った時間という名の悪魔を、噛み締めた。たった今、過去は別れも告げずに蓋を閉められ、未来は瞬時に表情を変えた。

 ギゴラ。恐竜のような発達した後ろ足、サイのような一本の大きな角、ワニのような鱗を持った、全生物の中で一番巨大な体をした化け物は、再び日本に上陸し、あろうことか、緑山の街を破壊していたのだ。テレビ越しに呆然とする俺をやつは睨みつけ、一歩一歩確実に歩みを進める。音は割れ、地面は崩れ、人々は容赦なく下敷きになった。

 俺の意識も、やつに踏み潰されたかのように突然、消えた。

「ん……」

「隼人、大丈夫か? 今はもう夜だ」

 父の声が聞こえる。そして俺はベッドに横たわっている。一体俺は何をしてたんだ? さっき俺は居間でギゴラが緑山市を破壊しているのを見て……あれ?

「ねぇ、ギゴラって……」

「あぁ。お前はテレビに映ったギゴラを見て、倒れたんだ。恐らく強いショックを受けたんだろう」

 そうか。一瞬、ギゴラに関する全ては夢だったんだって思ったけど、やっぱりあれは現実だったんだな。

「ギゴラは……街はどうなったの?」

 本当は聞くのが怖くてたまらなかったけど、聞かないわけにはいかなかった。

「隼人、安心してくれ。ギゴラは、あの後自衛隊の手によって殺された」

 意外な返答だった。見慣れた風景が、やつが足を踏みしめるたびに押し潰されるあの光景を見て、俺は絶望した。このまま日本は壊し尽くされるんだと思った。でも、人間は勝ったんだ。俺達は救われたんだ。この国は何度も災害に遭い、その度に復興してきた。きっと今回も同じように、緑山の街も蘇るんだろう。

 そんなことを考えた時、ふと一つの疑問が頭をよぎる。美緒は無事だろうか。気になった俺は、すぐに美緒に連絡した。いつも既読が早い美緒なら、すぐに返事が返ってくるだろうと思って。

 メッセージを送った時、少しだけ抱いていた「もしかしたら」という不安は、一分ごとにかさを増していった。返信が一向に来ない。いや、最初から大きかった不安に、見ないふりをしていただけなのかもしれない。

 ギゴラ上陸事件での死亡者数は九千五百名。その中に美緒がいることを知ったのは、メッセージを送って一週間が経ってからのことだった。

 俺は、ずっと考えていた。こんなことなら、こんな思いをして生きるくらいなら、美緒と一緒に死んだ方がマシだとさえ思った。永遠に既読のつかないトークルームを眺めて、何度も電話をかけた。不在着信のマークだけが一つずつ追加されていくだけ。なんて馬鹿なことをしてるんだろうと、自分で自分のやっていることが怖くなった。

 自分の感情の整理もつかない中、一つだけ、分かりかけてきたことがある。それは、俺が美緒を大切に思う気持ちは、俺自身が思ったよりも大きかったということ。このことに気付いてからは、後悔ばかりが募る日々だった。最近、毎日夢に美緒が出てくる。でも、最後は決まってギゴラが美緒を潰して、目が覚める。正に悪夢だ。俺はもう立ち直れない。そう思っていた。

 鈴虫の声が静かに響くある夜、俺は部屋に篭りながら、美緒のメッセージ画面をぼんやりと眺めていた時のことだった。玄関のインターホンが鳴った。察するに、何やら郵便が届いたらしい。

 その後、母が階段を駆け上がり、俺は部屋の前まで来て「荷物、隼人宛てに来てたわよ」と扉越しに言って、荷物を置いた。郵便は俺宛てだったらしい。こんな時に、誰がこんなことを。不審に思いながら、俺は扉を開け、ダンボールを回収した。

 俺が独り言の一つも発さずそれを開封すると、中からは四つ入りのテニスボールの缶と、一枚の手紙が入っていた。俺はまさかと思って、恐る恐る、手紙を読んだ。

 

 隼人へ

 隼人、誕生日おめでとう。これ、ちょっとしたサプライズのプレゼント。あんたがテニス続けるか分からないけど、他に何をあげたら良いか、思いつかなかった。ごめん! 私もテニス部憧れてたんだけど、あの学校女子テニス部ないからさ。せめてあんたを応援することにしたんだ。いいでしょ! 本当は直接渡したかったんだけど、しょうがないよね。こんな中、郵便というシステムがまともに機能してるだけでも感謝しなくちゃ。郵便の受付の人に「いつ届けられるか分からない」って言われちゃったから、多分変なタイミングで届いてると思うけど、そこは許して! 今度私もテニスしたいな。その時はコツとか教えてね。必ずまた会えるから。ギゴラもきっと悪いやつじゃないし。だって、最初から何かを傷つけるために生きてる生き物なんて、いないでしょ。人を傷つけてるのにも、何か理由があるんだよ。いつかギゴラと人間は友達になれるよ。ともかく、心配性のあんたは不安でいっぱいだろうけど、私はギゴラも人間も信じてるから、安心して。こんなにちゃんとした手紙書くの初めてだから、なんか緊張しちゃった。手紙の行も最後だし、この辺で。じゃ、最高の十五歳にしようね。

 あんたの親友 美緒より


 まだ残暑厳しい秋の夜。

「馬鹿。こんなボール、使えるわけねぇだろ」

 俺は俯いたまま、濡れた顔を拭いながら、所々滲んできた手紙の文章を何度も読み返して、そう呟いた。

 あの夜から、後悔や怒りは少しずつ影を潜め、俺は少しずつ前へ進み始めた。でもそれは、美緒を忘れるということではなかった。

「美緒。ただいま」

 三年後のことだった。

「まだあの時のこと、昨日みたいに思い出せるよ。俺は……いや、俺らは、ギゴラと友達にはなれなかったよ。ごめんな」

 高校三年生となった俺は、受験勉強の合間を縫って、復興が進む緑山市にようやく帰ってきた。一時は絶望の底で体を丸めていた俺も、疎開先の高校に進学して、少しずつ過去を受け入れていくことができた。時間というものは残酷だけど、希望でもあるらしい。

「花とか、好きだったっけ」

 鈴虫の鳴き声がひっきりなしに聞こえる。美緒が眠る墓の前で、俺はそっと花を供えた。

「もうすぐ大学受験だよ? 早いよな。未だに信じられないさ」

 すぐ目の前に美緒がいると思うと、嬉しかった。

「秋だってのにまだまだあっついけど、しばらく俺はここにいるよ。せっかく久々に会えたんだし。あ、そういえば俺、高校でもテニス続けてたんだよ。成績は……察してくれ」

 緑山市にはギゴラの墓もある。あの災厄とも言える事件を風化させないために、敢えて作ったんだそうだ。

 ギゴラの正体に関しては、海底で突然変異を起こした深海生物だったという結論は出ているけれども、謎は多く残っているのが現状だ。

「なぁ美緒。ギゴラって、何者だったんだろうな。俺らを離れ離れにさせて、青春を奪って、何がしたかったのか。何一つ分からない。俺、あれから俺にとって美緒がどんなに大切かを思い知ったんだ。俺って馬鹿だよな。死んでから気付くなんて」

 地面に一滴の雫が落ちた。声が少し、震えてしまった。笑顔で会うって決めてたのに。

 美緒。明日は俺の、十八歳の誕生日だよ。

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