第11話・創立記念パーティーの打ちあわせ

ーー何で躰が動かないんだ…?


そう思ったのと同時に、自分は2本の柱の間にいることに気づいた。


ど、どう言うことなんだ…!?


目玉だけは動くので周りを確認すると、頭の上に刃物があった。


これって…もしかしなくても、ギロチンだよな…?


どう言う訳なのか、俺はギロチンに拘束されている。


何でギロチンに拘束されているんだ!?


俺は何をしたって言うんだ!?


そう思っていたら、

「ーーレナード・カーソン」

と、聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。


その声の主に視線を向けると、

「ーーえ、エドワード…?」


エドワードは俺のことを見下ろしていた。


金色の瞳は憎しみと怒りにあふれていて、このまま俺は殺されるんじゃないかと思った。


何でそんな目で俺を見ているんだ…?


俺は何をしたって言うんだ…?


エドワードの冷たい目に見つめられているせいで、躰がガタガタと震え出したのがわかった。


「ーーあっ…あっ…」


唇を動かすことができないうえに、あまりの恐怖に歯をガチガチと鳴らすことしかできない。


「ーーあの世で自分の罪を反省するんだな」


エドワードが言った。


罪って、何の話だよ…!?


そう聞こうとして口を開いたその瞬間、刃物がものすごいスピードで俺の首に向かって落ちてきた。


 *


「ーーうわあああああああああっ!?」


悲鳴をあげながらガバッと勢いよく躰を起こした。


「ーーあっ…」


見なれた部屋の光景に先ほどの出来事は夢だったんだ…と、俺は胸をなで下ろした。


震える手を首に当てて、自分の躰がちゃんと繋がっていることを確認する。


「ーーあっ…」


ああ、よかった…繋がってる…。


「ーーな、何ちゅー夢だ…」


夢の内容を思い出しただけなのに、躰はガタガタと震えた。


とりあえず、枕元に用意されている水を飲んで気持ちを落ち着かせる。


窓の外に視線を向けると暗かったので、まだ夜なんだと言うことがわかった。


水を飲んだら少しだけ落ち着いた…ような気がするので、俺はまた横になった。


「また見ないことを祈るしかないな…」


もう2度と出てきませんように…と心の中で祈りながら、俺は目を閉じた。


祈ったおかげで夢を見なかったのはいいものの、眠りが浅くて仕方がなかった。


「あー、眠い…」


いつものように朝食を済ませて庭に出て水やりをしているものの、眠りが浅かったせいで躰がダルくて仕方がない。


「レナード様、大丈夫ですか…?」


そんな俺の様子にアンネが心配だと言うように声をかけてきた。


「大丈夫かどうかと聞かれたら、大丈夫ではないな…」


俺はそう答えると、やれやれと言うように息を吐いた。


「何か…ここ最近、変な夢ばかりを見るんだよな…。


今日はどう言う訳なのか、エドワードに処刑される夢を見た」


「しょ、処刑ですか!?」


「声が大きい」


周りに誰もいなかったことが救いである。


「“あの世で自分の罪を反省しろ”って言われて、それで…」


俺は手を首に当てて斬られる動作をした。


「思っていた以上に恐ろしい夢ですね…」


青い顔で言ったアンネに、

「ああ、飛び起きてすぐに首が繋がっていることを確認したくらいだ…」

と、俺は言った。


「でも、どうしてそんな夢を見てしまったんですかね?


レナード様、エドワード様に何かしたんですか?」


「それがわからないから困っているんだ、これと言った心当たりも思い浮かばないし…」


そんなことを言っていたら、

「やっぱり、ここにいたか」

と、聞き覚えのある声がそう言ったので俺はビクッと躰を震わせた。


そちらの方に視線を向けると、やはりエドワードだった。


彼の顔を見た俺はゾッ…と躰が震えてきたうえに、吐き気を感じた。


「どうした?


気分が悪いのか?」


エドワードがそう言って俺に近づこうとしてきたが、

「え、エドワード様、本日はどう言った要件でこちらへ?」

と、俺と彼の間にアンネが入ってきたのと同時に尋ねた。


「あ、ああ…後1週間ほどで国の創立記念パーティーが開催されるだろう?」


アンネが自分たちの間に入ってきたことに戸惑っているようだったが、エドワードは質問に答えてくれた。


「えっ…?」


国の創立記念パーティーって…?


「その打ちあわせをしたいから訪ねてきたのだが…この様子だと、また日を改めた方がよさそうだな」


「それはつまり、早い話がレイチェル・カーソンとして創立記念パーティーに参加して欲しいと言うことでよろしいですか?」


アンネが俺の代わりだと言うように返事をした。


「まあ、そう言うことだな。


ドレスやアクセサリーの装飾品はこちらで用意する」


「レナード様、エドワード様がこうおっしゃられておりますが」


アンネが俺に顔を向けてきたので、

「あ、ああ…わかった、そうしてくれ…」

と、俺は返事をした。


ちゃんと上手に返事をすることができただろうか?


「では、失礼する」


俺から返事を聞いたことを確認すると、エドワードはその場から立ち去った。


「レナード様、大丈夫ですか?


先ほどよりも顔色が悪くなったような気がするんですが…」


俺の顔を覗き込んできたアンネが声をかけてきた。


「ああ、うん…」


俺はそう返事をすることしかできなかった。


打ちあわせ自体は短かったが…正直なことを言うと、エドワードがこの場にいたせいで生きた心地がしなかった。


と言うか、

「国の創立記念パーティーって…」


「あるみたいですね」


俺の呟いた声が聞こえたと言うようにアンネは返事をした。


何だろう…?


何かを忘れているような気がする…。


「レナード様!?」


めまいを感じて、耐えられなくなった俺はその場に座り込んだ。


気持ちが悪い、ずっと吐き気がする…。


「レナード、大丈夫か?」


「エドワード様?」


思わず顔をあげると、心配そうな顔をしているエドワードが俺を見下ろしていた。


アンネの声を聞いて戻ってきたらしい。


「レナード、立てるか?」


エドワードがそう言って俺に向かって手を差し出してきたが、

「や、やめろ!」


俺はその手に対してパシッとたたいて払った。


エドワードの目が大きく見開かれる。


「あっ…」


どうしよう、とんでもないことをしてしまった…。


だけど、今はエドワードに触れて欲しくなかった…けれど、こんな仕打ちはないだろう。


俺を見下ろしているその目も怖いし、俺たちの間を流れる沈黙も怖い。


アンネは俺とエドワードの顔を交互に見てオロオロとすることしかできない。


ーーこのまま殺されたら、どうしよう…。


そう思ったとたん、目の前が真っ暗になった。


目を開けたら、見覚えのある天井が視界に入った。


あの後で俺は部屋に運ばれたみたいだ。


躰を起こしたら、

「レナード、大丈夫か?」


その声に視線を向けると、エドワードがベッドの近くに座っていた。


「あ、ああ…大丈夫だ…」


俺はちゃんと返事ができているだろうか?


「先ほどは、本当に…」


俺が先ほどの出来事を謝ろうとしたら、

「気にするな、何ともない」


エドワードはさえぎるように言ってきたが、俺はその後をどんな顔でどう返事をすればいいのかわからなかった。


「レナード」


エドワードは俺の名前を呼んだ。


「創立記念パーティーの件についてなんだが、嫌だったら無理して同席しなくていい。


周りには体調を崩したとでも言って説明しておくから」


そう言ったエドワードに向かって、

「いえ、同席させてください。


せっかくの一大イベントだし、王子に恥をかかせる訳にはいきません」

と、俺は言い返した。


「そう言うことは気にしていないが…だけども、本当に無理だと思ったら同席しなくていいからな」


「ええ、わかっています…」


俺たちの間に何故か沈黙が流れた。


「それじゃあ」


その沈黙を破るようにエドワードは椅子から腰をあげた。


「本当に無理だったら断っていいからな」


「ああ…」


俺が返事をしたことを確認すると、

「では」

と、エドワードは部屋を後にしたのだった。


ドアが閉まったのを確認すると、俺は息を吐いた。


夢の内容が内容だっただけに、エドワードに常にビクビクしているのは躰にも心臓にも悪いうえにエドワードに対しても申し訳がない。


少し前までは普通に接することができたはずなのに、ここ最近見ている夢のせいでいつものように接することができない。


1週間後に開催されると言う国の創立記念パーティーに、エドワードは無理そうならば同席しなくていいと言っていたが…彼の婚約者であるレイチェル・カーソンとしてパーティーに同席しないといけないのは確かだろう。


「創立記念パーティーが中止…になる訳ないよな」


そうなったら誰も苦労しないと言う話である。


「とりあえず、創立記念パーティーが何事もなく無事に終わることを祈るしかないな…」


俺はそう呟いて、息を吐くことしかできなかった。

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