第2話・清く、正しく、モブらしく生きます
俺の新たな転生先であるレナード・カーソンは、『両手いっぱいの愛を君に』の悪役令嬢・レイチェルの双子の弟である。
年齢は10歳の子供だ。
真っ直ぐな黒い髪に碧い瞳、顔立ちもとても端正で…どこかのアイドルグループに所属していても全然おかしくないなと、鏡で自分の姿を初めて見た時はそう思った。
父親は公爵、母親は公爵夫人、子供は俺とレイチェルの2人だけだ。
ものすごく大きくて広い屋敷には使用人が何人か雇われているうえに料理人や家庭教師や庭師もいるので、まさに貴族だと思った。
*
レナードに転生してから1ヶ月が経ったある日のこと、俺はクルトと一緒に庭師の手伝いをしていた。
クルトは1つ年上で、俺とレイチェルの遊び相手として5歳の頃にカーソン家にやってきたと言うことだった。
「レイチェル、どこへ出かけたんだろうな?」
花壇の水やりをしながら、俺はクルトに尋ねた。
レイチェルは両親と一緒に朝からどこかへ出かけており、俺とクルトは留守番を両親から頼まれたのだ。
「…城だと思う」
そう返事をしたクルトの声はどこか暗かった。
「えっ、城?」
俺が思わず聞き返したら、
「ウェルズリー城だよ」
と、クルトは答えた。
ウェルズリーって、もしかして…?
「レイチェル様は、ウェルズリー家のご子息様・エドワード様と結婚なさるんだよ。
と言っても、今日はその婚約者様との顔あわせをするために両親と一緒に出かけたんだ。
2人が結婚するのはレイチェル様が18歳になってからなんだから」
クルトは自分には関係ないと言うように淡々と言っていた。
この世界も18歳になったら成人と言うことになるみたいだ。
それよりも、エドワード・ウェルズリーってレイチェルの婚約者である王子の名前だよな?
確か、カーソン家は王族とも深い繋がりがあると言われているくらいの大貴族だ。
ウェルズリー家は王族なので、レイチェルが将来的にそこへ嫁ぐのも当然だ。
改めて俺が転生したこの場所は『両手いっぱいの愛を君に』の世界なんだと言うことを知らされた。
「そうなんだ…」
俺はクルトに返事をした。
そう言えば…悪役令嬢・レイチェルの結末って、一体どうなったんだっけ?
処刑された…いや、国外追放だったか?
何となくで読んでいたので彼女の結末を思い出すことができない。
とは言え、
「俺には関係のないことか」
と、結論をつけることにした。
悪役令嬢の双子の弟と言う何かよくわからないポジションだし、物語に登場することもなければ関係することもないだろう。
「どうせモブなんだから別にいいよな」
モブはモブらしく生きることにしましょうそうしましょうと、俺は自分なりにこの世界で過ごすことに決めたのだった。
*
その翌日からレイチェルと顔をあわせることが少なくなった。
レイチェル専属の家庭教師が何人か雇われて、彼女は彼らに勉強を見てもらっていた。
休みの日は両親と一緒にウェルズリー城へ出かけて、その日の夕方に帰ることもあれば1週間ほど泊まっていることもあった。
俺は…と言うと、両親を説得して社会勉強も兼ねて使用人たちのお手伝いをしたいとお願いして勉強が終わった後は使用人たちの仕事を手伝った。
レイチェルの結末はどうだったのかはよくわからないけれど、せめて食いっぱぐれないように俺もいろいろと勉強していろいろと身に着けるのが最善の方法だろうな。
この世界は13歳から外へ働くことができるので、自分の視野を広げるために外へ働きに出たいとまた両親を説得にかかった。
要はバイトがしたいと言うことである。
さすがの両親もこのことに反対したが、カーソン家の長男として立派になりたいそのためにも世間のことをよく知りたい、バイト先では偽名を使って身分を隠して働くと言ったら許可してくれたのだった。
俺は“レオン”と名乗り、街の酒場のウエイターとして働いた。
働いて稼いだお金を両親に渡そうとしたが、両親は“自分で稼いだお金は自分で管理しなさい”と言って俺からお金を受け取ろうとしなかった。
まあ、いいか。
このお金はもしもの時のためにも貯金することにしようと判断した俺は銀行に稼いだお金を預けてもらうことにした。
これでもしレイチェルの身に何かあって、それで爵位を剥奪されることになっても心配はいらないな。
使用人の手伝いをしていたからだいたいのことはできるし、働くところも探せばどうにでもなる。
偽名を使って身分を隠して、必要だったら変装をすればいいだけの話なので何とかなりそうだ。
貯金があるからレイチェルの身に何かあったとしても食いっぱぐれる心配はないし、どこへでもやって行けそうだなと思って過ごしていたら、18歳の誕生日まで後3ヶ月を切っていた。
レイチェルが王子・エドワードと婚約をしてから8年が経っていた。
明日の朝に彼女はこれまでお世話になっていたカーソン家を出て、ウェルズリー城へと行くことになっている。
3ヶ月の間に結婚に向けての準備をして、18歳の誕生日に結婚式を挙げることになっている。
ところが、その日の朝に事件は起こった。
「旦那様、奥様、大変です!」
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