4. 働かざる者食うべからず
どうやらケイタの眠っていた小屋は、村のかなり入り口、もっといえば村の手前に位置していたようでした。小屋からかなりの距離を歩き、連れてこられたのは、集落のような場所でした。村人らしき人がちらほらと畑仕事をしているのが見えましたが、何人かは手を止めてこちらを凝視しています。
ケイタはその視線に萎縮しました。単純に注目されて辟易したこともありますが、視線のほとんどは獣であったり、妖怪のような姿をした生物から向けられていたからでした。
「猫狐、なんだよそいつ。『ニンゲン』か?」
屈強な見た目をした、狼男のような風体の男性が獣耳の男の子に話しかけてきました。臆病なケイタは男の子の影に隠れました。
「その呼び方はやめろといってるだろう。こいつは新入りさ。ほら、いいから仕事に戻りな。」
「……新入り、ね。はいはい、わかったよ。」
狼男はぎろりとケイタを睨めあげ、去っていきました。ケイタはすっかり萎縮し、俯いてしまいました。
男の子ははぁと声にしてため息を吐きました。
「ここにいる以上、今みたいなことばかりだ。嫌なら帰るか。」
「かっ、帰らないっ」
「じゃあ、我慢しろ。」
その一言を受け、ケイタはこの村で生きていく覚悟を決めました。
「あ、あの、猫狐って……どういう意味なの」
「化け狐と猫又のハーフ。本当は、駄目なんだ。」
「駄目?」
獣耳の男の子はなんでもないように言いました。
「禁止されているのさ。違う生命体同士のハーフはよくいるが、化け狐と猫又だけは禁忌なんだ。理由はわかっていないが、生まれてくる赤子が強くなりすぎる。」
そういって、獣耳の男の子はケイタに腕を見せました。男の子は袖が破り裂かれたような形をしたノースリーブを着ているので、それがよく見えました。男の子の腕は一般的な太さで、どちらかと言えば細く見えました。
男の子は何も言わず腕にグッと力を入れました。するとみるみる腕に筋肉が浮かび上がり、爪は真っ黒の、鋭く長い形状になりました。
「うわぁ……」
ケイタは目を輝かせてその様子を見つめました。
「かっこいい……」
思わずこぼれた一言に、獣耳の男の子は目を見開きました。そしてその表情の乏しい顔で、ひどく複雑そうな顔をしました。
「ケイタ、は変わってるな。そんなこと言ったの、お前が初めてだ。」
「そうなの?」
ケイタの視線から逃れるように男の子は顔を逸らしました。
「さて。そろそろ俺たちも仕事をしないと。」
「あの……さっきから気になってたんだけど、仕事ってなんなの?」
「ここでは、誰でも受け入れる代わりにそれぞれに仕事が当てられる。働かざる者食うべからず、だ。」
獣耳の男の子はケイタに向かって指をびしっと指しました。
「俺が担当しているのは、この村の雑用全般。お前もとりあえず俺についていって、何の仕事が向いているかを探す。」
「な、なるほど」
「お前、体力に自信は。」
ケイタは苦虫を踏み潰したような顔になって言います。
「……ない。…………運動は、嫌い」
「じゃあ畑仕事は駄目だな。次。」
そうして、ケイタと獣耳の男の子の奇妙な職探しが始まりました。
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