3. なぜなんでどうして

 気づけば、少年は眠っていたようでした。微かな光が目を射る感覚があって、少年はゆっくりと目を開きます。昨日は少年がいた小屋には窓はありませんでしたが、ドアからや屋根の隙間から光が漏れていました。

 ゆっくりと起き上がると、少年は腰や肩に痛みを覚えました。布団も何もないような硬い床で寝たからでした。少年は顔を顰め、痛い部分を軽く揉み解しました。長い時間眠っていたようでした。


ーーガチャッ


「! ひっ……」

 当然の金属音に、少年は震え、短く声を上げました。小屋の隅に身を寄せて、息を殺します。

 ガチャガチャガチャ、カチッ。

 外から鍵が開けられた音がし、扉が開きました。オレンジ色の陽が背後から照りつけ、そこにいる人物の姿を露わにしました。


 そこにいたのは、昨日の獣耳の男の子でした。


「あれ?」

 男の子は驚いた表情で少年を見つめています。

 少年は息を吐き、男の子を睨みつけました。

「あれ、じゃないんだけど。いきなり閉じ込めて、硬い床で寝かされて。もうちょっとマシなところなかったの?」

「……起きたんなら、働け。出るぞ。」

 獣耳の男の子はねちっこい少年の言葉を完全に無視しました。少年は無視かよ、と文句を言いつつ、他にどうしようもないので男の子の背を追いました。

 歩くたび、三叉の尻尾が揺れていました。

「……君は、人間じゃないの?」

 前を歩く彼がピタ、と止まりました。そして振り返り、告げます。

「『ニンゲン』じゃないさ。」

 二人は向き合いました。片方は怯えと、驚きの表情を浮かべ、片方は嫌悪感と、冷酷さを帯びた瞳で、じっとお互いを見つめます。

「この村がなんて呼ばれてるか知ってるかい。」

「……それは」

「『異形村』。」

 二人の間を風が吹き抜けました。


「ここは、はぐれ者が集う村。社会の中で異形と貶められ、迫害された者共の為の村。」


 獣のように鋭い瞳が、揺れる瞳を射抜きました。

「お前は、どうだ。違うなら、ここから出ていけ。……『ニンゲン』。」

「……ぼ、僕は…………僕も、そうだ」

 お互いに、顔を逸らしました。

「そうか。なら、お前は今日からここの住民だ。」

「うん……あ、僕はケイタ。」

 獣耳の男の子は静かに『ケイタ』を見つめました。

「そうか。ケイタ、俺から一つ警告してやる。」

「警告?」

「これから村人に『ニンゲン』かどうか聞かれても、はっきりと肯定するな。」

「な、なんで」

「じゃあ、行くぞ。ケイタ。」

 獣人は話を聞きません。ケイタは明らかにムッとした表情をしました。

「ぇ、どこに?」

「仕事場。」

 振り返りもせず返ってきた言葉に、ケイタは首を傾げることしかできませんでした。

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