2. ようこそ、異形村へ

 少年は、男の指した道を歩き続けました。その道には再び、一面の緑が生い茂っていました。

 少年は黙々と歩きます。少年を突き動かしているのは勇気などではありませんでした。

 ひどくひどく、臆病であったからでした。

 歩き続けていると、開けた場所に出ました。広い場所でしたが、消えかけの小さな焚き火だけが、その場所にあるものでした。

 少年は前方に目をやります。すると道の先に集落のようなものが見えました。

 それはどうやら村のようでした。

 少年は喜びました! 無事村に辿り着けたのです! 少年は早速村へと歩みを進め、人がいないか探しました。

 その時です。物陰から何かが飛び出してきました。

「お前、『ニンゲン』か。」

 少年の前に飛び出してきたのは、同じくらいの年の男の子でした。彼は獣のような耳を持っていました。髪の毛の間を縫うように、獣の耳が生えていたのです。

 臆病な少年は声を出すことができませんでした。そしてそれがコスプレの類であることを疑いました。しかし本来耳があるはずの場所に耳はなく、ただ皮膚があるだけでした。

 その時少年の目はふおん、と視界の端に動くものを捉えました。視線を下ろしていくと、獣耳の男の子には三叉に分かれた尻尾が生えているのが確認できました。

「聞いてるのか? お前。」

「ひっ……」

 獣耳の男の子は少年の目の前に来ていました。少年の上げた悲鳴のような声に、男の子は不快そうに目を細めました。

「この村に何か用か。ないなら帰れ。」

「! 用、は、ある。ここを、目指してきたんだ」

「へえ。」

 三叉の尻尾が不機嫌そうに揺れます。少年は思わずそれを目で追いました。少し考えて、獣耳の男の子が続けます。

「この村は、来るものも去るものも拒まない。ついて来い。」

 そう言って男の子が歩き出し、少年は慌ててその後を追いました。その速度は速く、少年はついていくので精一杯でした。

 夕日に照らされ、地面に男の子の影が伸びるのが見えます。少年は村を見渡しましたが、二人以外の気配はありませんでした。ただ点々と、茅葺き屋根の小屋が何軒かあるだけでした。村とは思えない、廃村のような雰囲気を醸し出しています。

「この村は、意外と広いんだ。村のやつは自分の好きなところで生活してる。こんな場所にいるのは物好きと新入りくらいさ。」

 獣耳の男の子が鼻を鳴らし、そう説明してくれます。そして一つの小さな小屋の前に立ち、指差しました。

「入れ。ここは自由に使え。そして今日はもうここから出るな。」

「……」

 存分な物言いに少年はムッとし、しばらく獣耳の男の子を見ていました。しかし男の子はそれに構う様子もなく、かなりの力で少年の腕を掴み、強引に小屋に入れました。臆病な少年は為す術なく小屋の床に尻餅をつきました。

 ガチャリ、と音がしました。外から鍵を閉められてしまったようです。部屋は窓も灯りもなく、真っ暗でした。

 臆病な少年は怖がりなので、目を固くつぶり、横になりました。小屋の中はツン、と鼻につくような臭いがします。

 出発した時間から何も飲み食いしていませんでしたが、不思議と空腹はありませんでした。そしてゆっくり、少年の意識は闇に落ちていきました。

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