第13話 流転の感情

状況を整理する。

先ず東郷翔也だが...コイツは東郷幸子を何だと思っているのだ?

人間じゃなくてもしかして異次元の悪魔か?、と思うぐらい妹の扱いが雑だ。

そして全て金の為。

最早人間では無い気がする。


東郷幸子。

コイツは操られている気がする。

だけどまあもう人の事だしどうでも良いが。

だけど救いようがあるんじゃないかとは思う。


そんな感じで話は進んで行っているが。

俺はそう思いながらテレビを観る。

そこに...陸羽が映っている。

陸羽はインタビューに答えていた。


『私はこれからもテレビで満足させられる様な女優を目指します。キラキラします!』


その様に答えながら笑顔で手を振る。

ファン達が「陸羽ちゃん!」と声援を送っている。

正直...陸羽が俺を好きだと言ってから、ラブコールを貰ってから...世界は変わった気がする。

コイツを見る目が変わった。

俺はそう思いながらテレビを消す。


そして立ち上がって伸びをしているとインターフォンが鳴る音がした。

何だ?新聞なら取ってない。

宅配便もあり得ない。

何も注文していないしな。

俺はそう考えながらインターフォンを覗く。

そこに...美少女が、いや。


「お前はもしかして」

『初めまして。筈間萌香と言います』

「...有名人が何でこの場所に?」

『それは勿論。...陸羽の事です』


俺は「...」となりながらドアを開ける。

そこに筈間萌香が居た。

笑顔でニコニコしながら俺を見ている。

流石は...女優か。

この笑顔は薄っぺらい。


「...営業スマイルなら要らない」

「あれ?良く分かりましたね。私の笑顔」

「...なんせ陸羽を見ているしな。...散々見ている。だからそういうの要らない」

「そうですか。...じゃあ早速、内容に移りますね」

「...どういう内容だ」

「...東郷翔也は危ないですから。...芸能界から消去したいんです」


そう言ってくる筈間萌香。

俺は「...それはどういう意味でしかも何で俺なんだ」と言う。

筈間萌香は「家に上がっても良いですか」と笑みを見せた。

その言葉に「...構わないが」と家の中を案内する。


「...お前、怖い事を言うね」

「私は怖い事は言ってませんよ。ただあの人が居ると...世界は汚れます」

「...それが怖いんだが」

「消去は何ら怖い事じゃないです。...他の人達が迷惑を被っているので消えてもらいたいんです。死ぬとかそういうのじゃないですけど」

「...」

「私達にもただひたすらに脅威ですしね」

「...そうか」


俺は言葉をそう発しながら筈間萌香を見る。

筈間萌香は静かに怒っている。

笑顔だが「マジにウザい」という感じで目を細める。

コイツも怖いな。

そう思いながら俺は筈間萌香を見る。


「実の所、私、東郷翔也には恨みしか無いので」

「...恨みってのは」

「私は本人。東郷翔也に陰口とかでイジメられていました。学校で」

「...!」

「だから私は絶対に許しませんよ。東郷翔也も妹も。まあ妹は論外です。どうでも良いですけど」

「お前がそんな目に遭っているとはな」

「...出来ればこの事はあの子には内密に。あの子は知りませんので」

「そうなのか?」


初めて聞いた。

考えながら俺は筈間萌香を見る。

筈間萌香は「何であんなのが有名になるんですかね。みんな何も知らないからこういう事になりますよね」と怒りながらワナワナと震える。

俺は「そういうもんじゃないのか。芸能界ってのは」と言いながらお茶を出す。

その姿を見ながら「ですかね。まあでも確かにそうかもですね。...成り上がりとかばかり...かな」と顎に手を添える筈間萌香。


「...そうなのか」

「多分そうかもです。...良く考えてみたら...本当に。目を逸らしていたのかも」

「芸能界も大変だな」

「...私じゃないです。私より...陸羽ですよ」

「...」

「...陸羽だけは...守りたい」

「分かった。...そう言うなら正直滅茶苦茶嫌だけど俺も協力するよ」


何が出来るかさっぱり分からんが。

そう考えながら俺はお茶を飲む。

筈間萌香は俺の様子に笑みを浮かべながら「有難う御座います」と頭を下げる。

それから「お茶頂きます」と話してから飲み始める。


「これ...もしかして」

「口に合うか分からないがレモンティーだ」

「レモンティー...とても柔和な茶葉ですね」

「そうか。...良かった。口に合うなら」

「私、この味はとても好きです。懐かしい味です」

「懐かしい味?」


「そうですね」と返事をする筈間萌香。

それから筈間萌香は「...イジメられていた時に良くお母さんが飲ませてくれていたあのレモンティ―に似ています」と話した。

俺はその言葉に考え込む。

市販のお茶だが...それでも重なるのだろう。


「...メーカーが同じなのかもな」

「違います」

「...え?」

「同じメーカーだとは思いますがそれは違います。メーカーじゃないです。作り方が似ているんだと思いますよ」

「...!」

「...陶冶さんの作り方。お母さんに似ているんです」


そして心の底からの様な笑顔になる筈間萌香。

その顔は...偽りの笑顔じゃなくなっていた。

心から愛する様な笑顔だ。

涙が少しだけ浮かんでいる。

俺は「そうか」と返事をして少し苦笑する様な顔でその顔を眺めていた。

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