第10話 suffer
「東郷翔也が私を脅しています。...それでですが先輩」
そう言いながら私は先輩を見上げる。
すると先輩はドキドキした様な感じで見てくる。
そんな先輩に私は父親の一鉄を見る。
一鉄は私を見ながら笑みを浮かべている。
私はそれを見てから一鉄から目を離して先輩を見据えた。
「私は先輩が好きなんです」
「...マジか...」
「そうですね。もう雰囲気で察したかもですけど」
「いや。雰囲気っていうかもう...」
「アハハ。そうですか」
それから私は先輩を抱き締める。
そして先輩の温もりを感じてから「私...この事を公表したくないです。だから私は...この恋を辞めるぐらいなら普通の女子に戻ります」と宣言した。
その言葉に「!!!!!」と先輩もお父さんもなった。
「...だって好きな人と自由に会えないなんてありえないですから」
「だけどお前...好きなんだろ。この仕事が」
「好きです。大好きです。でもそれとこれは別。だったら潔く辞めます。女優業」
「...マジか」
私は先輩に笑みを浮かべる。
それから私はまた先輩を抱き締めた。
すると一鉄が「辞めたとして。どうするんだこれから?」と聞いてくる。
私はスマホを開く。
そしてそこにあるお母さんの写真を見てからお父さんに向く。
「ラーメン屋を引き継ぎたいって思う」
「...それは有難いな。...だけどそれは本心か。お前の」
「...?」
「俺の店はどうでも良い。...これは一代限りで閉店しても構わない。お前は将来をキチンと見据えて歩いているのか」
お父さんはそう言いながら「俺の事は気にすんな」と肩をすくめる。
私はその言葉に「...」となってから真剣に考える。
「もう少しだけ時間を下さい」と言いながら、であるが。
すると「おう!」と返事をしたお父さん。
「勿論だ。キチンと考えてから結論を出すんだな」
「...相変わらずだね。お父さんは」
「相変わらずというよりかはこれが俺だからな」
「...うん。ちゃんと考えるよ。全て」
そして私は最後に先輩を見る。
先輩は柔和になりながらも複雑な顔を浮かべている。
私はその姿を見ながら「先輩のアイドルで十分です。私は」と笑顔になる。
先輩は「...有難うな」と苦笑した。
「...だけど無理はするなよ」
「無理はしてないです。...私は...いつも無理はしてないです」
「...」
するとお父さんが「ところで坊主。お前...ラーメン食いに来たんだよな?」と笑顔になる。
私は「あ。そうだった」と思いながら先輩を見る。
先輩は「そうですけど大変な事になってしまいましたね」と苦笑いを浮かべる。
「...何だか...そんな事になっているとは思いませんでした」
「芸能界っていうのは大変なんですよ。先輩」
「...ああ。本当に大変だな」
「そうですね。...まあでもそれが楽しいんですけどね」
そして先輩は椅子に座ってから豚骨ラーメンを注文した。
私はその姿を見ながら私も先輩の横で醤油ラーメンを食べる。
いつもより味わい深く。
美味しかった。
☆
芸能界を引退するつもりだけど。
だけどもし私が引退したらファンが悲しむだろう。
そう思いながら私は何も手が付けられない感じで目の前のメモ帳を見る。
というか日記の様なそんなもの。
「...私が今すべき事柄は何だ」
そう呟きながら私は日記帳を見る。
それから居ると電話が掛かってきた。
その相手は...萌香。
筈間萌香(はずまもえか)だ。
私の...芸能界での友人といえる存在。
「萌香?」
『もしもし。...ね。聞いたんだけど...東郷翔也が貴方に関わっているって。...何かあったの?』
「...何も無いよ。ただ...その、内緒にしてくれる?」
『...うん』
「私ね、好きな人が居る...だからこそその穴を突いてきている感じかな」
『そういう事なんだね』
そういう事だ。
そう思いながら私は萌香に相談する。
すると萌香は『...芸能界を休んだりするの?』と聞いてくる。
私は「...それよりも引退するかも」と言葉を発した。
『引退か』
「そうだね。...ただまだ決めて無いけど。正式にはマネージャーとかと話をしないと」
『そういう事になるよね。有名女優だもん』
「私は...馬鹿だからさ。...周りの大人の顔を伺っているから」
『うーん?そうかな?』
「私は...有能じゃないから」
そして私は窓に手を添える。
それから空を見上げた。
夕焼け空が広がっている。
私はそれを静かに見据える。
「萌香。それはそうと仕事の方はどうかな」
『舞台俳優の仕事を得たんだ。凄くない?』
「そうなんだ。...おめでとう」
『...話を戻すけど私、引退してほしくない』
「...!...萌香」
『だってライバルが消える事になるから』
その言葉に私は「...」となりながら考え込む。
それから真剣な顔で窓を開ける。
そしてカーテンを感じる。
風を感じた。
「萌香。私さ」
『うん』
「どうしたら良いと思う?」
『...私は公表してそれで良いんじゃないかって思うけど』
「でもさ。それをすると...その好きな人に迷惑が掛かる...」
『でもその好きな人に告白したんでしょ?話し合ったら良いんじゃないかな』
「...」
私は顎に手を添える。
それから頭にソイツらの存在が浮かぶ。
それは...東郷翔也と。
あともう一人の屑野郎。
「...そうだね。少しだけ考えてみる」
『うん。それで良いんじゃないかな。私はそう思うよ』
「...有難う。萌香」
そうだ。
私は何の為に此処に居るか忘れていた。
何の為か。
簡単だ。
私は...先輩の元カノを倒す為に居るのだから。
大金持ちになって。
先輩を幸せにして妬ませてやりたいから、だ。
それを忘れていた。
ならば私がすべき事は何だろうか。
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