第5話 揺らぐ心

アイツに本当に思いを寄せていた時期もあった。

初カノだった事もあり愛していた。

だが今となっては恨みしかない。

本当に絶望しかない。

俺はそう思いながら家に帰って来る。


「...お前」

「先輩」


帰って来ると陸羽が居た。

何か持っている。

それは...ラーメンセットと書かれている。

俺は「?」を浮かべて陸羽を見た。


「うちのお父さんからのおすそ分けです」

「...ああ。そうなんだな」

「私の実家のラーメンが楽しめるセットです。父から伝言を預かってます。「また食いに来いよな!待っているぞ!」だそうです」

「...はは。親父さんは元気だな」

「そうなんですよね...元気すぎます」


そう言いながら陸羽は苦笑する。

すると直ぐに俺の気配に「?」を浮かべて聞いてくる。

「先輩。何かあったんですか?」という感じで、だ。

俺はその言葉に「アイツが。...飯田が復縁を迫ってきた」と視線を横に向ける。

すると陸羽は「...」となる。


「...ああ。そうなんですね」

「この浮気の事は自らの彼氏にも隠していたそうだ」

「自業自得ですね。...私は飯田は嫌いですし丁度良い終わりじゃないですかね」

「...そうだな」

「私は飯田を一生許しません。先輩をないがしろにした挙句に...復縁?笑わせますね」

「...」


陸羽は強く言いながら怒る。

それから俺の手を握った。

そして笑みを浮かべた。

俺は「?」を浮かべながら陸羽を見る。


「まあそれはそうと先輩。...もし良かったら家に入れてくれませんか」

「...ああ。そうだな。鍵開けるから」


それからドアの鍵を解錠する。

そして俺は玄関に荷物を置きながら陸羽を見る。

陸羽はニコニコしながら俺を見てくる。

俺はその姿を見てから家の中に陸羽を招く。


「先輩」

「...?」

「私は先輩が1人なのが気になります」

「...俺が?...大丈夫だよ。死んでないしな」

「...まあそうなんですけど...お一人で戦っていますから」


陸羽はそう言いながら荷物を置く。

それから玄関から上がってから俺をまた見る。

何だか吸い込まれそうな瞳をしていた。

今日はまるでジェットエンジンの様に吸い込みが激しい。


「...陸羽。どうしたんだ?」

「先輩が心配なだけです」


そう言いながら陸羽が駆け寄って来た。

それから俺はふわっとしたその彼女を受け止める。

俺は咄嗟のその動きに「?!」と思いながら彼女を見る。

陸羽は俺に受け止められたまま擦り寄って来る。

まるで甘える子猫な感じで、だ。


「ど、どうしたんだ?」

「先輩。実はですね。私...色々な人達に厳しく厳しく言われてるんです。...学校生活でうつつを抜かしているんじゃないかって」

「...!」

「それでですね。ずっと毎日言われるから嫌になったので芸能の生活を一旦、休止しようと思えました。ちょっとばかり頭を冷やすのに」

「...そうだったんだな」


陸羽は「はい」と返事をする。

その身体は震えていた。

「だけどその決断は私だけで出来るものじゃないですから先輩にも相談したくて」と言う。

俺は「...そうだったんだな」と話した。

背筋がヒヤッとした。


「私は根性無しですね。本当に」

「...それは無いとは思うが」

「いえ。根性無しですよ。逃げてばかりです」

「...」

「でも先輩の前では強く居たいんですけどね。すいません。言葉が見つからない」


それから彼女は「...先輩。私はどうすれば良いと思いますか?愚かな私ですが」と聞いてくる。

俺は震えてのその言葉に「...」となる。

そして彼女の顔を見た。


「...俺からは芸能人の事は何も言えないけど。だけど1つお前の様子で言いたい事はある。お前は頑張ってるよ。本当にな」と頭を撫でた。

それから彼女の手を握る。


「苦戦しているんだな。お前も」

「...私、馬鹿ですからこんな事まで先輩に相談。情けないです」

「...俺はお前を情けないとは思わない。情熱的でとても魅力がある女性だと思う。だってお前は...頑張っているしな」

「先輩だけです。そう言って下さるの」


そう言いながら涙を流してから嗚咽を漏らした陸羽。

俺はその姿に「...」となった。

「厳しく罵倒される様に言われるのはあまり好きではない」とも陸羽は話す。


「あくまでそれも覚悟でこの世界に飛び込んだんですけど」

「...そうなんだな」

「愚痴を聞いてもらいたかっただけではあるんですがでも...良いですね相談っていうの。...特に特別な人に相談するっていうの」

「ああ...は?」


俺は絶句しながら彼女に「ま、待て。特別な人って何だ?」と慌てる。

すると彼女はかあっと赤くなり「気にしないで下さい。女の子は秘密が多いんです」とニコッとして唇に人差し指を添えた。


「いやお前な」

「内緒です。あくまで」

「...」


苦笑いを浮かべる。

それから胸に手を添えてみる。

心臓がバクバク波打っており...血流が緩やかになるまで時間がかかりそうな気がした。

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