第13話 暗殺者その3

 俺は今“祭壇”から離れて見知った奴の気配を感じる木に着いた。

 そうして木の枝の上で器用に寝ている女に話し掛けた。

「仕事中に居眠りかな?ミーナ」

「⋯ん?⋯はっ!〈水龍〉!」

 寝起きが悪いのか起きて俺を見つけた瞬間に龍を形作った水を放ってきた。

「え!ちょ!」

 それに対して驚きながらも魔法で土を巻き上げて壁にして防いだ。

「お前って寝起き悪いんだな。これは意外な面だな」

 おちょくるようにそう言った。

「あ!エンブ!やっと出てきたのね。一晩も待たせちゃって最低ね」

「⋯⋯で?何の用?殺しに来たか?」

「えぇ、フーカを殺せだってさ」

「フーカなら決着付けに行ったぞ」

「え!ハァーやっぱり最近調子悪いなー。お兄ちゃんの死が結構こたえてるのかな?⋯⋯でも一応仕事だから」

「あぁ、分かってる。俺が相手してやるよ」

 俺は構えながらそう言った。

「ありがたいわね。でもあなたの相手は私じゃないから」

 ミーナがそう言った直後、後ろに気配を感じて振り返るとそこには炎を纏った女が居た。

「〈火龍〉!!」

 女がそう叫び放たれた炎は龍の形を形成して俺を焼いた。

「それじゃあ私はフーカの方へ行くから後は任せたわよ。カエラ」

「了解」

 そんな会話を聞きながら俺は自分の体を再生させた。

「今の俺には不死鳥との契約で身につけた〈火の鳥〉があるのにそれでも熱いと感じるほどの熱気を出すとは流石だな」

「!!なんで!私の最高火力なのに!」

「確かに火力は高いな。少なくとも火力だけなら契約前の俺とはいい勝負できたんじゃないか?」

 俺は煽るようにそう言った。

 そうしてこの場から立ち去ろうとするミーナの進行方向に立ち塞がった。

「悪いがあいつの邪魔はさせねえよ。疲れ果てるまで踊ろうか、ミーナ」

 そう言って俺は〈炎膜〉で炎を纏って掴みかかった。だがミーナは咄嗟に弾力のある水の膜を纏っていて俺の手を受け止めた。

「お前がそこまでしてあいつの言うことを聞くのかがさっぱりわからんな」

「私を無視するな!〈火龍〉!」

 そう叫びながら攻撃してきたカエラに対して呆れるように言った。

「それはもう効かないって分かってるだろ」

 そうして一瞬気が緩んでしまった。その一瞬にミーナは水魔法で俺を拘束してきた。

「流石姉妹、連携もバッチリだなだが⋯⋯力の差が俺たちにはあるんだよ!」

 そう言いながら水による拘束を引きちぎり向かってくる火の龍を避けながら側面を触れた。

「術式改変〈◼〉」

 そう唱えた瞬間に火の龍は氷の龍に変わりカエラの火を消し去り、ミーナを纏っていた水を凍らせ身動きを取れなくした。

「何が起きたの?」

「術式改変。相手の術式に触れて自身の魔力を流し込むことで魔力の属性を変えたり術式を書き換えたりして相手の想定した効力とは違う効力にする技だ」

 そんな説明をしていると氷を溶かしたミーナが話しかけてきた。

「術式改変は少しの改変しか加えられないはず。ましてや一瞬触れた程度で正反対の属性にするなんて一体どんなカラクリよ」

「そこを知りたいなら俺の伴侶にでもなって貰わないとダメかな」

「それじゃ全部終わったら考えといてね」

「お?それは期待しても良いやつ?」

「寒いからちょっと寝るね」

「ちょいちょい、それ寝たらダメなやつだろ起きろ〜」

 と言いながら〈炎幕〉で周りの氷を溶かしてミーナを温めながら頬を叩いた。

 そうしているとミーナは目を覚ました。

「ちょっと!普通に眠いから寝かせて!」

「はいはい寝たいなら好きにしとけよ」

 と言いながら〈ストレージ〉から敷き布と毛布と枕を取り出して渡した。

「?あんたなんでこんなもの持ってるのよ」

「収納系のスキルを持ってることを教えたらリナがもうすぐ処分するからってくれたんだ。まぁ綺麗だし処分とかは嘘だろうな」

 そんな会話をしてミーナを寝かせた後、自分の最高の技が2度も破られたことで戦意喪失していたカエラに問いかけた。

「お前はどうしたい」

「え?」

「俺を殺したいのか、親を殺したいのか、自分を殺したいのか、それとも別の何かか⋯お前が決めろ」

「⋯⋯私はあんたを殺したい⋯でも──」

「でもじゃねぇ。お前の目指した奴はやれない理由を探してたか?違うだろ、お前ら救うために死にものぐるいで努力していったんだろ」

「あんたに!兄貴の何が分かる!」

「わかんねぇからお前が決めろつってんだよ!」

 苦悶の表情をして悩むカエラに俺は腕を広げながら言った。

「悔いのない一撃を俺にぶつけろ。未完成の技があっただろ」

「!!なんで知って⋯⋯死んでも文句言うなよ!」

「死人に口なし⋯思う存分来い!」

「火土複合魔術〈溶岩龍・激〉!」

(誰かが火属性の魔力を通しやすい石柱を創り出し、別の誰かが高出力の火属性の魔力で発動させる技として作った複数人による発動が前提の魔術だってのに⋯)

「やっぱりお前らは才能の塊だな!だったら俺も最高火力を見せてやる!ダズを倒した一撃を!」

(魔術〈突風障〉を推進力にした⋯)

「〈炎槍・激・圧〉」

 そうして放った炎の槍と溶岩の龍がぶつかり合った。

 強い閃光と共に火花と溶岩が飛び散り周りの木々を燃やしていった。

 俺は魔力を使い果たし倒れそうになっていたカエラに近づき体を左腕で支えて言った。

「流石ダズの妹だな。右腕がボロボロだ。ハッハッ まぁすぐ治るけどな」

 そう言いながら溶岩に触れて爛れた右腕を見た。

 意識が朦朧としているカエラが俺に反応するよりも早く右腕の再生が終わった。

 腕が治ってから両腕でカエラを持ち上げてミーナの寝ている方に向かった。

「お前、戦闘の近くでよく寝れるな」

「ぜんっぜん寝れませんでしたよ」

 ミーナが少し怒り気味に言いつつも立ち上がり俺にカエラを寝かせるように促した。

 それに従いカエラを寝かせた。

「カエラを起こしたくないからこっち来て」

「何か用あったっけ?」

 そう言いながらミーナについて行った。


  

「エンブはこれからどうするの?フーカについて行かなかったってことは私達を助けるつもりはないの?」

「必要が無いなら助けないさ。今お前らに会ったらどうなるのかが分からなくて怖いんだよ」

「フーカは決めたことをそんな簡単に変えないわよ」

「お前らと過ごしてきたフーカはそうだろうな。でもあいつは多分、昔を思い出した。あの野郎に⋯ディードに親を殺されたあの時を⋯⋯」

「!?なんでエンブがあいつの名前を知ってるの?!」

「今から言うことは誰にも言わないでくれよ」

「⋯わかったわ」

「俺は───」

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