第12話 契約者

 火の鳥との契約が終わった直後に俺は“大扉”の外へと転移していた。

「あれ?もう終わり?」

『いや?続きは思念伝達で要所要所でやってやるから気にするな』

「それならいいか」

『それで?これからどうする?』

「連れと合流するか。運命だの何の言っちまったがやっぱり1人旅は寂しいからな」

『そうかまぁいい。我は基本的には干渉することはないだろうからな、肝に銘じておけ』

「了解」

 そうしてフーカが向かった“祭壇”へと歩を進めた。


「ここで合ってるよな」

 数分歩いて自分の記憶の中にある祭壇の位置に着いた。

 そうして一番に目に入ったのは黒い半球状の結界のようなものだった。

「あの黒いのが祭壇での契約用の結界領域か⋯少し待つか⋯⋯。頼むぞ⋯フーカ⋯⋯」

 それから〈ストレージ〉を発動して森の中で作ったスープの余りを出して火魔法で温めて飲み、フーカが契約を終わらせるのを待った。


 それからさらに数分後に結界にひびが入ったため食事をやめた。

「さ〜て、どっちが勝った?」

 悪魔との契約は勝者が肉体の主導権を持ちこの世に顕現する。

 そのため、もしフーカではなく悪魔が顕現した時に対処ができるように構えていた俺に予想外な光景が目に飛び込んできた。

 それはフーカにフーカがしがみついている光景だった⋯⋯。

 しかもしがみついついている方のフーカは黒い霧で大事な場所こそ隠れているもののほぼ全裸だった。

「よし。俺は何も見ていない。それじゃ」

 その現実を受け止められなかった俺は現実逃避をするためにその場から立ち去ろうとしたのだが⋯⋯。

「待ちなさい!エンブ!この子退けてよ!」

「え〜ふーちゃん冷たいな〜アタイ泣いちゃうよー」

「あ、それはやめて。というか服着てよ!それ私の体だから!」

 という会話は聞こえたがフーカと同じ声しか聞こえないため何も知らずに聞いたら一人芝居をしているような状況だった。

「え〜と、まずなんで2人になってんの?まぁだいたい分かるけど」

「この子が無理やり私の〈分身〉を使ったのよ!それよりも早く退けてよ!掴まれてると力込めにくいのよ!」

「うん、予想どうりだな。よし、心残りも無くなったしまた今度会おうな〜」

「ねえ!待ちなさいよ!ぶち殺すわよ!」

「ふーちゃんはあいつのこと殺して欲しいの?」

 その瞬間、俺の体は動かなくなっていた。

(これは威圧!不死鳥の威圧ほどじゃねーがこんな威圧を扱える悪魔なんて上級悪魔でしか聞いた事がねぇ!上級になんか勝てっこないぞ!)

 そんな威圧の中で俺は焦りと緊張を覚えていた。

「いや、違うのよしーちゃん。今のはじゃれ合いっていうか、まぁそんな感じのやつなのよ」

 と言ったフーカの一言でその威圧はなくなった。

「そうなの?ごめんねアタイ空気読めなくて⋯⋯」

「い⋯いいのよ。しーちゃんは私のことを思ってくれたんだもんね。ありがと」

「あ〜♡ふーちゃんだ〜い好き♡♡」

(助かった⋯⋯のか?というかなんつー化け物と契約してんだよ!まぁそれで言ったら俺の契約した不死鳥の方が格は高いけど、それは俺がそういうふうに作られているからで、普通の人間に張り合われたらそれこそ終わりだわな)

「ちょっとエンブ!早くこの子退けて」

「え〜そんなにアタイのこと嫌なの?」

「え⋯いや⋯そのね、そうじゃなくて⋯⋯⋯。そう!しーちゃんが握ってる右腕って結構ヤバい状態でね、ちょっと離してくれると嬉しいかな〜なんて」

「えっ!ごめん気づかなくて」

「いいのよ〜私が言ってなかっただけだから」

 そんな会話をして腕を離されたフーカとしーちゃん?は俺の方へと近づいて来た。

「えっ。なんでこっち来た?」

「何?会いたくて待ってたんじゃないの?」

「あぁそうだったそうだった。隣にいるそいつの存在感が強すぎて忘れてたわ」

「そいつじゃない!アタイはシビルっていうふーちゃんがつけてくれた名前があるの!」

「ごめんな、シビル?」

「は?!こいつ馴れ馴れしい!殺す!」

 その刹那には俺の体はいつの間にか呼び出されていた鎌に斬られていた。

(あれ選択肢ミスった?不死鳥と契約してるから死ぬことはないけど⋯⋯。それにしても痛って〜〜。元々痛覚が多少鈍いからこんなリアクションで済んでるけど普通は絶叫もんだろ!)

「い゛っ痛ってーな〜馬鹿悪魔!」

「え!人間って普通即死じゃないの?!」

「簡単に死んでやるか!バーカバーカ」

「あっそ、じゃあ死ぬまで切り刻んであげる!」

「ストーープ!しーちゃん!これ以上やったら今日は罰受けてあげないよ!」

「えっ!ダメ!嫌だ!」

「それじゃあ一旦鎌しまおっか」

「うん!分かった!」

「フーカ!何なんだよこいつ!追撃は俺が煽ったせいだから俺が悪いが初撃は完全にこいつが悪いだろ!」

 と不満をぶつけたのだったが⋯。

「うるさい!お前が馴れ馴れしいのが悪い!」

 というふうに当の本人は一切反省していないようで⋯。

「んな理不尽な」

「もういい!アタイ寝る!」

 そう言ってシビルは分身体を解きフーカの体の中へと戻って行った。

 それを見て俺は安堵の言葉を発した。

「ふ〜これで俺の平穏は保たれたぜ」 

「で⋯あんた。私のこと結局助けなかったわね」

「⋯一難去ってまた一難ってやつか」

「まぁそれはいいわ。私の同じ状況なら同じ選択をするわ。しーちゃんを敵になんかしたくないものね。それでなんであんたは体ぶった切られているのに生きてるの?」

「脳と肺と心臓が1つの塊に集まっているから?」

 冗談交じりにそう答えるとフーカは冷たい視線で俺を見てきた。

「そんな目で見るな。契約した幻獣の能力だよ」

「結局言うなら最初っから言いなさいよ」

「はいはい、次からはそうしま〜す」

 そう言って俺は斬られた断面と断面の間を炎で埋めて引き付けてくっつけた。

「は?何それ」

 驚きと困惑が混じったフーカの声を聞いて答えた。

「俺が契約したのは“不死鳥”だ」

 そんな俺の一言にフーカ激しく驚いていた。

「!!は?不死鳥ってあの不死鳥!?もう存在しないんじゃないの!?」

「死なねーし、消えねーから不死種って呼ばれるんだよ。死なないだけの奴は死霊種だろ」

「どうやって契約したのよ!」

「俺の寿命のほぼ全てだ」

「!!じゃああんたは今どれだけ生きられるの?」

「4日だ」

「?⋯⋯極端過ぎない?」

「“今”は4日だ。ちなみに契約で不死種に近づいたから寿命で死ぬことはない」

「⋯⋯⋯」

 フーカは俺を軽蔑する目で見てきた。

「なんだよ⋯⋯ジョークだろジョーク。ほら?あれだよ、不死種ジョークってやつ?」

「⋯⋯しーちゃん止めなかったら良かったかも」

 とさらっととても恐ろしいことを言ってきた。

「いや⋯流石に完全に不死になってる訳じゃないから余裕で死ねるんよ⋯⋯」

「今からしーちゃん起こそうかな」

「やめて、それだけはやめてくれ。冗談抜きで死ぬ。あっそうだお前の腕治すから⋯な!頼むよ」

「元はと言えばあんたのせいだけどね」

「いや〜そこはおあいこってことで⋯ね」

「まぁいいわ。これからについて話しましょ」 

「⋯⋯俺は他所の家庭には首は突っ込まないって決めてるからな。お前がかたをつけろ」

 と言いながらフーカの右肩に触れて今使える回復系の魔法と魔術を全て掛けた。

「なに?最後まで見てくれないの?」

「他所には首つっこまないってだけだよ」

「そう⋯⋯やっぱりあんたは違ったのかしら」

「⋯まぁそういうことでこの話しは終わりだ。俺には外せない用事があるからな」

 そう言ってスープの入った鍋から2人分のスープを水筒に入れてから鍋を〈ストレージ〉に入れた。

「このスープシビルとでも飲めよ」

 そう言い残し水筒を渡してその場を離れるのだった。

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