第11話 悪魔
私は今エンブとのちょとした会話を終えて“祭壇”へと向かっていた。
(運命⋯かぁ~。私達の未来は明るいのかな?いや、今はそんなことを考えるな。私は⋯⋯)
そんなことを考えながら歩いていると祭壇へと着いた。
少しの迷いを持ちながらも私は自分のやるべき事を再確認して祭壇へ宝玉を乗せた。
そうしてしばらく経つとその宝玉から魔力が溢れ出て祭壇全体を呑み込み私も呑み込まれるのだった。
私は今どこにいるのかが解らず、触覚以外の感覚がなく体が漂う感覚だけがあった。
『あれ?ダズじゃぁないのか?』
そんな声とは呼べない意味だけが伝わる不気味な言語が聞こえた。
『あぁ 悪かったね。ダズと思って何の説明もなく招いてしまったよ。すまなかったね』
「あなたは誰?兄を知っているの?」
『兄?感じたところ兄弟ほど関わりは強くないが⋯⋯。あぁそういえば下級種族は親が同じではなくても兄弟と呼ぶことがあったね。すっかり忘れていたよ』
「⋯⋯」
『あっすまない。僕は誰なのかと君の兄との関係だね?僕とダズは昔に1度だけ契約していてね、その時はダズの体が持たないからって契約を解消したんだ。もう1度契約することを条件にね』
「そうなのね⋯⋯。でも兄はもう⋯⋯」
『だろうね。ダズが来ていない時点で察してはいたよ。君はダズの意志を継ぐ者かな?』
「えぇそうよ」
『なら契約してあげる』
「えっいいの?」
『その為に来たんじゃないの?それと僕が了承するのと契約できるかはイコールじゃぁないよ。君には試練に合格してもらう』
「試練⋯⋯」
『僕たち悪魔は強い奴にしか仕えない。強さを証明してくれ』
「分かったわ⋯」
『それじゃ始めよう。僕は名無しの中級悪魔だ。君は?』
「人間族のフーカ。ダズの妹」
私がそう宣言した瞬間に感覚が戻り気づいた時には濃い霧が立ち込める黒い地に立っていた。
そうして霧が晴れていきその前には兄の見た目をした悪魔が立っていた。
「その見た目は?」
『これかい?これは前にダズと契約した時に貰ったんだよ。本来悪魔は実態がないからね』
「そう⋯早く終わらせましょう」
『来な “魔鎌”』
その言葉が聞こえた時には悪魔の手には鎌が握られて振りかざされた後だった。
その瞬間に私は自分の体が2つに別れていることを理解した。
「は?っぐがあ゛ぁぁぁぁああああああ」
『あれ?もう終わり?』
「あっ⋯あぁ⋯」
『大丈夫だよ。ここは精神世界だからくっつければ繋がるよ。出血とかもしないしね。まぁ初めてだもんね。今回は僕がくっつけて上げるね』
そう言って悪魔は今までで感じたことのない痛みを感じて悶え苦しんでいる私に近づき切断面をくっつけた。
しばらく経つと本当に体がくっつくのだった。
『ねっ 大丈夫だったでしょ。精神世界は特訓にちょうどいいんだよね。1つデメリットを挙げるなら君みたいな下級種族が長くいると魂が溶けちゃうことかな?』
「な!」
『ほら頑張って。早く勝たないと君の身体を貰っちゃうよ。まぁもう無理か⋯⋯』
そう言いながら悪魔は私の体に鎌を突き立てた。
「あ゛っぐっクッ 絶対折れてやるもんか!」
『その威勢が続くことを祈るよ』
そう言葉を発した悪魔は突き刺さった鎌を振り抜いて私の体は縦に裂かれてしまった。
その瞬間に私の中で何かが壊れた音がした。そして古い記憶⋯⋯養父出会う前の記憶が思い出された。
激痛の中、腕を動かし縦に裂けた体をくっつけた。
「そうよそうだった⋯⋯。思い出した⋯⋯」
『あ?何をだ?』
「精神世界での身体の使い方をよ」
『?君は精神世界に来たことがあるのかい?』
「ねぇ 悪魔同士って仲良いの?」
『自分以外は敵だよ』
「そう⋯ならいいか。来て“しーちゃん”」
私がそう呼んで数秒後に霧の向こうから足音が聞こえて来た。
その方向に目を向けるとそこには私と同じ顔をした悪魔が立っていた。
『も〜やっと思い出してくれた〜。遅いよ〜』
「ごめんね。しーちゃん」
『まぁ〜あーアタイは心がちょ〜広いので許しちゃいま〜す』
「ありがと」
『なっ何なんだよ!その悪魔は!』
『うるさいな〜。空気読めよ。今ね感動の再開シーンだから中級風情が喋るなよ』
その言葉が発せられた瞬間、呼吸する必要なんてない精神世界で息苦しくなるという異常事態が発生した。
「しー⋯ちゃ⋯ん⋯⋯」
『あっ ごめんごめん。ふーちゃんは弱かったの忘れてた。ごめんね怒らないで』
そう言いながらその悪魔は威圧を解いた。
「大丈夫。私が弱いのが行けないんだから」
と悪魔を少し慰めるように語りかけた。
(今はしばらく会えてなかったから優しくゆるい話方だけどちょっと愛が重すぎるのよね〜。跳ね返りが全部あの悪魔に行ってくれればいいんだけど⋯)
『ふーちゃん?今回は何の用?』
「そういえば言ってなかったね。私もっと強くなりたくてそこにいる悪魔と契約して強くなろうとしたのよ。それで──」
「は?」
その瞬間、さっきの威圧が何もなかったと思えるほどに強力な圧を感じた。
「アタイ以外の奴と契約しようとしてたの?」
(!!ヤバい!しくじった!殺される!)
私は命の危機を感じて話題を逸らすために関係のないことを口にした。
「し⋯しーちゃんは普通に人間の声帯を動かせるんだね〜」
と誰が聞いても話題を逸らそうといていることが分かるような内容の話題だったのだが⋯⋯。
「そうなの!アタイねふーちゃんとちゃんとした言葉で話せるように勉強したんだよ!」
と無邪気な子供のようにはしゃいでいた。
「凄いわね。ありがとうね」
「えっへへーもっと褒めて〜撫でて〜」
と言いしーちゃんは私に近づき手を掴んで頭に乗せた。
見た目だけで言えば服装以外は私と変わらない人に私の声でそんなことを求められるのはいい気分ではなかったが断った瞬間に体が真っ二つになることは簡単に想像できたため渋々頭を撫でてあげた。
「えっとね、何で呼んだのかなんだけど─」
私がそう言った瞬間さっきほどではないにしても圧がかかったが私は臆せず言い続けた。
「そこの悪魔は私のお兄ちゃんになってくれた人が契約していた悪魔でね、私はお兄ちゃんの意志を継ぐためにその子と契約をしようとしてたんだよね」
「それで?私を納得させる言い訳は?」
(あ〜もーヤバいってこんな威圧された状態でまともに思考ができる訳がない。変な言い訳を言うよりいっそ運に任せて全部正直に話した方が生存率が上がりそうね)
「私は兄の意志を継ぎたい!たとえしーちゃんが止めたとしても」
「⋯⋯フーカ?それ本気で言ってるの?アタイ以外の奴と契約するの?」
「ごめんね⋯⋯」
「⋯⋯アタイは悪魔だから!フーカの気持ちは分かってあげられないかもしれないけど、アタイはずっとふーちゃんの味方だからね」
「ありがと⋯⋯」
(あっぶね〜。何とか乗り切った〜、流石は私だわ死ぬ未来回避〜)
「ふーちゃん」
「何?」
「まだ教えてなかったけど精神世界だと対策しないと心は簡単に読まれちゃうんだよ」
その衝撃的な言葉に私は長時間思考が止まった。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「ふーちゃんってさアタイのこと愛が重すぎるめんどくさい女って思ってたの?すぐに相手を殺しちゃうような野蛮な女に見えてたの!?」
「⋯えっ⋯っと愛が重過ぎるな〜とは思ってたけど嬉しくはあったし、私を一瞬で殺せる相手に緊張しないって方が無理あるって言うか〜⋯⋯」
といったふうに自分の思っていたことを話した。
「ふ〜ん。あっそ。ま〜あ〜最初に言った通りアタイはちょ〜優しくてちょ〜心が広いので許してあげたいのですが、それではあなたが成長できないと思ったアタイが罰を与えます。この世界から出てからを楽しみにして下さいね」
そうして一件落着?したところで悪魔の方を見ると姿勢よく正座で座っていた。
『終わりましたでしょうか⋯』
「えぇ あんたやればできるじゃない」
『ありがたきお言葉です』
「でも、あんた要らないから」
『え?』「え?」
私と悪魔が同時に疑問符を浮かべた。
「え?じゃないの!ふーちゃんにはアタイというフィアンセがいるでしょうが!」
「それでもこの子は私の兄の形見だから⋯」
「そう?じゃぁその子をアタイが食べれば万事解決ね。アタイってば天才!」
「⋯⋯⋯まぁいっか!」
私は考えるのを辞めた。
『えっ⋯⋯⋯』
そんな絶望に打ちひしがれた声が聞こえたが私の体を裂いたのだからいい気味だ。
「バイバイ悪魔さん」
「それじゃあ いっただっきま〜す」
『やめ⋯やめて⋯ください⋯やめ⋯やめろーーー!』
バリホキゴリボキという惨たらしい音と共に私を痛めつけた悪魔は存在を消したのだった。
「それじゃあ外に行こっか♪」
「そうだね。⋯そういえばあいつ大丈夫かな?」
「?あいつって?」
「あ!そういえばしーちゃんは私が許可しないと感覚共有もできないのか!」
「そうだよ〜ここ10年ぐらいずっと暇だったんだからね。これにも罰がいるかな〜」
「罰は受け入れるけど出来ないことはやめてね」
「そこは大丈夫。アタイはふーちゃんを困らせたい訳ではないないからね。それで?あいつって誰?男?それとも女?」
その言葉と共にまた圧がかかってきた。
「男⋯」
「な〜んだ男か。なら大丈夫だね」
「?何が大丈夫なの?」
そんな雑談を少しした後に私は精神世界を出るのだった。
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