第9話 料理人

「腹減った」

(何コイツ)

「貸しチャラにしてやってもいいから飯作って」

「私は料理出来ないことはないけど⋯⋯。器具が無いでしょ。そもそも私は食事なんて食べれればいいんだから」

「⋯⋯お前⋯⋯そんな生き方じゃ人生の半分を無駄にするぞ!」

「半分って⋯結構大袈裟ね」

「もおいい!俺が作る!」

(作れるなら最初っから自分で作れよ)

 なんていうことを思いつつもものが無いのにどうやって作るのかと観察していると、空から料理器具の一式を取り出した。

(!収納系のスキル?ミー姉のやつなんで教えてくれなかったのよ!⋯⋯それにしても広いわね。今取り出した物以外に武器とかも入っているでしょうし⋯⋯それから考えるに魔力量は私の倍程度かしら?持久戦に持ち込まれたら少しキツいかしらね)

 そんなことを考えながらテッドの手際を見ていた。

(私の知る料理人よりも凄いわね。そういえば成長速度上昇系のスキルを持っているんだったっけ。いやそれでも十分凄いけど⋯⋯)

「おい!フーカ!お前の横に生えてる丸い葉っぱを取ってくれ」

「えっ!これ?」

 そうして私が指さしたのは強い麻痺毒を持つ毒草の“ラスラン”だった。

「あぁ とっとと持ってこい料理の味が落ちる!」

「でもこれ⋯毒草じゃないの?」

「いいから。出来ればお前の風で浮かせてくれ」

 そう言われよく分からないながらも風魔法でのそよ風で言われた葉を運んだ。

 葉がテッドの横に着いた時、テッドがそれに手を伸ばし燃やした。

「なにやってんの?」

「こうすると毒素が少し抜けるんだよ」

 そうしてテッドが処理した葉は表面に少し燃えていたがほとんど燃えていなかった。

「あんた⋯そんなに起用なことできたのね」

「そうだな。最後にこいつを入れて少し煮込むすると完成だ。料理名はピリピリスープだ!」

「本当に食べて大丈夫なの?全身を麻痺させるほど強力な麻痺毒なのに」

「問題無い舌が少しピリつく程度だ。ちなみに炙らずに煮込んだらギリ死ねる」

「⋯よくこんなモノ料理に使おうって思ったわね」

「知りたいか?コレの誕生秘話は俺の出生に大きく関わっている。そう⋯あれは雨の日───」

「そういうのいいから」

「確かに料理は温かい内に食うのがいいよな」

(そういえば料理っていつぶりに食べるんだろ⋯⋯⋯67日ぶりか⋯結構久しぶりね)

 そんなことを思いつつ私はそのスープを口に運んだ。

(なにこれ!大した食材使ってないのに美味しい☆もし食べたら麻痺毒で舌どころか心臓が止まるから食べたこと無かったけど美味しい。半分は言い過ぎだけど確かに人生損してたかも⋯⋯⋯⋯でもなんか食べたことがあるような気がするな~。どこだろ?)

「どおだ?美味いだろ」

「まぁ 美味しいんじゃない?」

「も〜素直じゃねーな~。美味しいですって顔に出まくってるぞ」

「ウザい!」

「おうおう 怖いね~」

「ハァー⋯それであんたはなんでここに来たの?」

「それはこっちも聞きたいが⋯⋯俺は優しいから答えてやろう。俺がここに来た理由は“神殿”に向かっているからだ」

(!神殿!まさか⋯⋯)

「あんた“幻獣種”に勝つ気?」

「別に勝つ必要はないだろ。ただ呼び出した幻獣に認められたらいいんだからよ」

「力を示さないと喰われるのはあんたの方よ」

「そこを何とかするのが“契約者”の腕の見せどころだろうよ。それでお前はなんで来た?」

「私は“祭壇”の方⋯」

「マジか!お前もよっぽどだな」

「うるさい!あんたほどじゃないから!」

(私がやろうとしていることが無謀だなんて分かってる!それでも私は⋯⋯)

「まぁお前なら下級なら問題ないだろうな」

(本当にそうならいいんだけど⋯⋯⋯!!)

 その時私は異様な気配を感じとった⋯⋯。それは数年前ににぃにと共に倒した“火の龍”と似た気配だった。

「テッド!」

「あぁ 分かってる。あと本名はエンブだ」

「そんなの今はどうでもいいのよ!逃げるわよ!」

「なんで?」

「こんな腕で危険度がBランク以上の奴と戦える訳ないでしょうが!」

(右腕が使えない今の状態で万全な自分と同格以上な奴と戦って勝てる訳が無い!私1人だったら簡単に逃げられるけど流石に助けてくれた奴を置いていけない!)

「バカ言え。相手に敵意はないだろ」

「えっ?」

 そう言われて冷静になって気配を探り、見つけた方向に目線を向けた。

「!!あれは!“ケルベロス”!なんでこんなところに⋯⋯」

「俺達が向かっている場所の門番だよ。それにしてもあいつは子供⋯か!⋯まだ生き残りがいたのか⋯⋯」

「第四世代?」

「まぁ 深くは気にすんな」

(エンブという男は本当に謎が多い⋯⋯。異世界人である以上理解出来ないことはあるだろうけどコイツはだ。この世界について知り過ぎている⋯⋯。一体何を考えている?何が目的なの?)

「どうする?あいつの背中にでも乗るか?」

「???は???何言ってんの?」

(本当に何言ってんだコイツは⋯相手は幻獣よ!危険度Bランクを優に超える化け物なのよ!)

「乗らないならいいよ。俺1人で乗るから」

「勝手に乗ってなさい!」

 そうして本当にエンブは幻獣の背中に乗り進んで行ってしまった。

 気づいた時にはもう既に料理器具などは全て片付けられていた⋯⋯。

「⋯⋯あれ??マジで乗って行っちゃった??」

(あれ?置いてかれた?⋯⋯⋯) 

「⋯⋯⋯⋯置いて行くな〜!」

 と大声で叫んで冷静さを取り戻した私は次にすることを考えるのだった。

(私のスキルの〈影移動〉は行ったことがある場所と触れたことのある影にしか飛べない⋯⋯。待って!そういえば私ってエンブの影に触れたことあったじゃん!そうと決まればエンブが神殿に入る前にとっとと飛んじゃえ!)

「スキル発動〈影移動〉」

───────────────────────

「ありがとな。ケルベロス」

 俺は神殿のある土地まで連れてきてくれたケルベロスにそう言い3つともの頭を撫でてやった。

「さぁーどうしようかな~。フーカが来るまで待っていようかな?」

 そんなことを考えていると後ろから声が聞こえた。

「あら?待っててくれたの?」

「ふ⋯フーカ!どうやって来たんだよ」

「いずれ敵になる相手に自分の能力を明かすバカはいませんよ」

「え〜俺らってもう仲間だろ」

「一緒に食事しただけでしょ。あんたもなかなか調子いいわね」

「お前らほどじゃねえよ」

「とりあえずこっからは別行動ね。終わった後の待ち合わせでもする?」

「いや、必要無い。運命ってのは存在するからな」

「何それ。まぁ 精々死なないようにね」

「お前は呑まれないようにしろよ。俺はお前以外に殺されるつもりはねぇからよ」

 そんな会話をして俺は“神殿”へと歩を進めた。

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