第8話 旅人
「それじゃ行ってくる」
「はい。行ってらっしゃいエンブさん。私はここから離れることはありませんから戻ったらここに来て下さいね。これ今日の昼食にでもして下さい」
と1つな弁当箱を渡された。
「あぁ またすぐに会えるよ」
「自分も1ヶ月はここに居るので」
「それじゃな」
そうした別れの挨拶をして俺はギルドへ向かうのだった。
そうして着いたギルドの扉を開けて話しかけた。
「おはようございます。ミーナさん」
「おはよう。エンブさん」
「コレの手続きの処理お願い出来ますか?」
そうして俺がミーナに渡した紙は“危険区域への侵入許可証発行願い”だった。
「おやおや。つい昨日にCランクになったばかりなのにそこへ行くんですか?」
「無謀だと思いますか?」
「いいえ。あなたの実力は本物です。Aランクの方と戦いを成立させられるほどの強さですからね」
「それではお願い出来ますか?」
「はい。それではこちらの紙に血判をお願いします」
「分かりました」
そうして俺が出された紙に血判をするとその紙が輝き2つに別れた。
「こちらは控えさせていただいて、こちらが許可証になります。無くさないで下さいね」
「ありがとうございました」
そう言って去ろうとしたところを呼び止められ小声でこう言われた。
「左腕がちゃんと治るといいですね」
俺はそんな言葉を聞いて驚きはしたが引っ掛かっていたことを聞いた。
「やはり“あの時”あの場で隠れていたのはあなたでしたか。あなたはどちらの味方ですか?」
「私は中立でいたいところですがそうもいかないので、一応敵ということになります」
「あなたは本当に何がしたいんだか⋯⋯」
「恋愛ですよ」
「それじゃぁ別の人をおすすめしますね」
「私は一時の気の迷いでも“今”の心を大切にしたいので諦めるつもりはありませんよ」
「この話の続きは俺かフーカが終わらせてからにしましょう」
「それじゃぁ⋯死なないでね⋯⋯」
「⋯当たり前だ⋯⋯」
「私達を見捨てたら承知しませんから⋯⋯」
そんな弱々しい声を聞きながら俺は改めて覚悟を決めて歩を進めるのだった⋯⋯。
この街から出る門の前に着いた。
「冒険者の方ですか?」
そう呼び止めて来たのは門番の青年だった。
「はい。そうですよ」
「申し訳ありませんが現在外へ出る時は検査が必要でしてご協力お願い出来ますか?」
(多分それ俺を外に出さないためのものだよな。刺客を送り込んでくるぐらいだしな。でもまぁ名前どころか魔力の色まで変えてるから大丈夫だろ⋯⋯。ミーナが黙ってくれているなら⋯⋯⋯)
「はい。問題ありませんよ」
「それではこちらに」
そう言われ連れてこられたのは防壁の中にある部屋だった。
「初めて来ましたよこんな所」
「そうでしょうね。それでは荷物と身分の確認をしますので荷物をここに置いて奥の水晶に触れて下さい」
そう言われ俺は荷物を置き奥へ向かった。
(荷物は剣と金と弁当ぐらいしか無い。創った魔剣と奪ったナイフは〈ストレージ〉に入れてるから大丈夫だろ)
「確認が終わりました。ご協力ありがとうございました」
「こんなことをするなんて大変ですね」
「まぁこれも仕事ですし、いつもより給料高くなってるので問題無いですよ」
「それではこれからも頑張って下さい」
(さてと⋯俺は今重大なことに気がついた。馬を借りるのを忘れていたということだ⋯⋯。まぁいっか。100kmぐらい徒歩で行けるだろ)
──街を出てから2時間後──
「ぜってぇミスった⋯⋯。100キロって長すぎだろ⋯⋯」
という愚痴をこぼしつつ恒星の位置から昼時だと感じた俺はリナから貰っていた弁当を開けた。
「中身はサンドイッチだな。卵やらハムやら金掛けすぎだろ。あいつにとっちゃ3日も関わってねぇのに⋯⋯。モグモグ⋯でもやっぱりあいつの作る料理は美味いな~」
そうして俺は味わいながら食べるのだった。
「さぁーて元気も出たしもう少しぐらい頑張るか~」
(食後の小休憩も済ませたし、特訓を兼ねて全力疾走でもしてみましょうかな。こっちに来てから全力で走ったこと無いからな)
そう思い走り出したが⋯⋯。
「む〜。普通に走ってもやっぱり遅いな。大体時速30キロを超えるとキツくなって来るからな~」
(やっぱりスキル使うか スキル発動〈身体能力強化〉 いや本当の全速力がどんなものかでも調べるか 魔術〈身体能力強化〉)
そうして俺はスタンディングスタートの構えをして全力で走り出した。
体感で50キロ程度走り森の前で俺は止まった。
「いくら固定しているとはいえ腕がちゃんとくっついてないともげそうで怖いな。ここらに拠点でも構えましょうかね」
そう思って森に入り散策をしていると誰かの助けを求める悲鳴が聞こえた⋯⋯。
(行きたくね~~。でも見殺しは胸糞わり〜)
「まぁ 行くか!」
───────────────────────
私は今危機に陥っていた。
「も〜数が多すぎるのよ。相性最悪の危険度Dランクのやつを右腕使えずに10体以上捌ける訳無いでしょ! 風魔術〈風渦〉」
そうして発生させた風の渦は今戦っている“リーフウッズ”の硬い皮を傷つけられなかった。
(アイツに確実に勝つために宝玉の封印を解こうと思ってたのに。ここで死んだらいい笑いものよ)
「助けがいるかな?お嬢さん?⋯⋯って!」
「!あんた!」
「マジかよ!なんでよりによってコイツなんだよ」
「今は一旦そのことは置いといて。助けてくれるの?くれないの?」
「貸し2で助けてやってもいいぞ」
「はいはい。それじあお願い」
「はーい 魔術〈炎幕〉!」
そうして目の前の男が放った炎は十数体いた“リーフウッズ”を燃やし尽くした⋯⋯。
(術式的におそらく攻撃用の魔術ですらない⋯⋯。それなのに危険度Dランクを一撃で⋯⋯。“今”の私じゃあ勝てないわね)
「助けてくれてありがとうね」
「まぁ 俺が片腕を使えなくしたせいだろ。どうせ万全なら苦戦するような敵でもないんだろうしな」
「あら?気にしてたの?」
「なんでお前らはそうもすぐ調子に乗るんだよ」
「育ちのせいかしらね。私達は兄とカエ姉以外は血縁じぁないから血の繋がりではないわね」
「カエ姉?」
「知らなかったの?」
「なんでも知ってると思うなよ」
「⋯⋯それじゃ⋯やる?二回戦目?」
「なんでそうなった?⋯⋯それとどうなるかは分かりきってるだろ」
「それじゃ1つお願いがあるんですけど~」
「貸し3つ目な」
「なんだかんだで聞いてくれるんですね」
「ハァ〜 お前は俺が憎くないのかよ」
「憎いに決まってますよ。でもあなたは“りゅうや”を知っていた。それは私と兄の合言葉なんですよ」
私は少し前の記憶を思い出しながら⋯⋯
「私は兄が信じたあなたを信じます」
「そうか⋯⋯なぁ1つだけ聞いていいか?」
「なんですか?」
「お前⋯料理できるか?」
「?⋯⋯は?」
(マジでコイツは何言ってんの?今そういう雰囲気じぁないだろ!)
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