第7話 暗殺者 その2

 試験会場からの帰り道に俺はその異様な気配⋯⋯いや異常な量の殺気を感じ取った。

「ベル。俺は用事があるから先に帰っとけ」

「何処に行くんですか?ついて行きますよ」

「お前が居ると邪魔なんだ」

「は⋯はい。分かりました。待ってますからね晩飯までには帰って来て下さいね」

「あぁ 善処する」

 そう言い残し俺はソイツへと向かうのだった。

 

「あんたから来てくれるなんてね」

「そりゃそんな殺気向けられたらな」

「あんたで合ってるわよね」

「何が?」

「私達の兄を殺したのは」

「⋯⋯そうだな⋯⋯⋯」

「それじゃ死んで⋯」

 そう言ってソイツはナイフを投げてきた⋯⋯が。

 俺は剣で簡単に弾くのだった。

「断る。俺には彼奴に頼まれたもんがあるんでね」

(とは言ったもののコイツはさっきの試験官よりはよりは弱いが消耗してる今の状態で勝てる相手じゃない。短期決戦で相手に深手を負わせて深追いさせなくさせるのが一番か スキル発動〈身体能力強化〉〈魔術補助〉 魔術〈身体能力強化〉〈炎膜〉)

 そうして俺は今上げられる最大まで身体能力を引き上げて炎膜で自分の周りに薄い炎の膜を創り出して殴りかかった⋯⋯が。

 それは風の壁に防がれた。

「ダズ。“土龍どりゅう”ダズ。それが兄の名。そして私が“風龍ふうりゅう”フーカ」

「ご丁寧にどうも。お前が“りゅうや”だと思ってたが違ったか?」

「!!!なんでお前がその名を知っている!!」

「動揺したな!」

(炎槍は溜めがデカいし炎幕じゃ火力不足だが俺にはこの魔剣がある! スキル発動〈斬鉄〉)

 そうして俺は斬りかかりフーカの右腕に当たり骨まで斬りつけた。

「クッ なんつー斬れ味してんのよ」

(どうする?畳み掛けるか?いや、これで終わるようなやつな訳がない予定通り撤退だな)

 そう思い撤退しようとしたその時⋯⋯。

「逃がすか!」

 その言葉が聞こえた時にはもう既にソイツは振り返ったはずの俺の眼前に居て⋯⋯⋯。

「あんたが使ったスキルはコレでしょ〈斬鉄〉!」

 そう言って俺に向かってナイフで斬りつけて来て俺は避けようと右にズレたが⋯⋯左肩を斬られるのだった⋯⋯⋯。

(マジかよ!左腕が殆ど繋がってねぇ!処置をせずに本気で動いたら腕が取れる!いやそれよりもコイツ今どうやった?術式が構築される前触れはなかった。だとしたらおそらくスキル。移動系か?だとしたら逃げるのは絶望的だぞ!⋯⋯⋯やるしかないか)

「はぁー⋯⋯今回は痛み分けと行こうか!!」

(!!魔術〈爆炎・激〉!!)

 そうして俺は創り出した爆炎を煙幕替わりに使いスキルを発動するのだった。

(スキル発動〈◼◼◼〉)

───────────────────────

「最っっ悪!逃がした!」

「そんなことは今は気にしないの。今のあなたの体の状態分かってるの?」

「分かってるよ。だから無闇に追いかけてないでしょ」

 今の私は右腕の切り口が爆風により焼けて右腕が使えなくなっていて全身の様々な箇所が粉砕骨折していた。

「フーカ?あなたはもっと自分を大切にしなさい!」

「ミー姉。それにぃににも言って欲しかったな」

「言ったわよ⋯⋯」

「⋯⋯今日はお父さんになんて言われるんだろうね」

「さぁ 本当の家族でもない人のことなんて分からないわよ」

「じゃ 私のことも分からないね」

「バカおっしゃい。私達兄妹は血よりも硬い絆があるわよ」

「あ〜あ にぃに⋯なんで置いていて逝っちゃったのよ。も〜⋯家⋯帰りたくないな⋯⋯」

「それでも私達の居場所はあそこしか無いから」

「そう⋯だね。ミー姉」

(にぃに⋯⋯本当にアイツが私達を助けてくれるの?にぃにを殺した奴なのに⋯⋯⋯。)

『あぁ 僕を信じろ!』

 そんな聞こえる訳が無い声を聞き入れ私は少しの眠りに着くのだった⋯⋯⋯⋯。

───────────────────────

 俺は宿の部屋で目を覚ました。

「ここは」

「あ⋯アニキぃ~目が覚めましたか~(号泣」

「泣くな泣くな」

「そんなごと言っだって兄貴今凄い怪我してるんですよ。今にも腕が千切れそうで⋯。宿屋の前に倒れてて。一体何があったんですか!」

「気にすんな。これは俺の問題だ」

「気にすんなって。気にするに決まってるじゃないですか!」

「これは⋯俺の問題だ」

「⋯⋯⋯分かりました。兄貴がそんなに話したくないなら話さなくても良いです。ただ頼れる時は頼って下さい」

「あぁ 覚えとく」

「エンブざ〜ん(号泣」

「おうおう どうしたどうした」

「エンブさんが宿の前で倒れてるのを見つけた時はもう心臓が止まりそうで⋯⋯」

「悪い悪い心配かけたな」

「そんな事よりもどうしたんですか!その腕は!今にも千切れそうで!」

「確かにヤバいな」

「早く診療所に行きましょうよ!」

「いや 行かないくていいよ」

「なんでですか!」

 国に命狙われてるから。なんて言える訳もなく。

「治す術はある。だから気にすんな」

「そんなこと言ったって⋯⋯」

「今何時だ?」

「水曜の15時ですよ」

「あ〜もう丸一日経ってるのか⋯⋯」

「そう⋯ですね。晩御飯にしますか」

「あ〜そんな時間か。じゃ頼むわ」

「はい。分かりました」

の基準で考える癖がまだ完全に抜けないな。午前午後それぞれ10時間ずつの計20時間だよな。あ〜もー〈言語理解〉と〈意識伝達〉の魔術を使ってても数字やその言語特有の言葉は変換されないのが面倒臭いな。真面目に覚えて行くか⋯⋯)

 

「はーい。ご飯出来ましたよ。ベルさんはシチューでエンブさんは卵雑炊です」

「なんでだよ!俺は病人じゃないぞ!」

「左腕を動かせない人に言われても説得力ないですよ。それに丸一日何も食べてないんですから消化にいいもの食べて下さい」

「はぁー まるで母親だな」

「なっ急に何言うんですか!(恥」

「なぁベル?」

「なんですか?兄貴?」

「俺ってもうCランク冒険者として承認されているんだよな」

「はい。そうですよ」

「⋯⋯⋯⋯」

「どうしたんですか?考え事ですか?」

「あぁ⋯⋯俺明日にここ出るわ」

「えっ!なんでそうなるのよ。エンブさん!」

「いや この左腕を治せる奴が居る所に向かうだけだよ。無事に治ったら戻って来るしよ」

「そうですか⋯⋯自分らは冒険者。一箇所に留まることはない⋯⋯。いつかは別れると思ってましたけれど。それでも寂しいですね」

「かもな」

「自分!まだしばらくここを拠点に頑張るので腕治したらすぐに戻って来て下さいね」

「あぁ そうだな⋯⋯」

 そうして俺たち3人は最後の一夜を暮らすのだった。

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