今日

私がそらと心中の約束をした次の日が終わろうとしている。

今日は1度も話していない。

私とそらはあまりにも系統が違うからだ。

本当なら交わることなんてなかった2人だろう。

それでも、出会ってしまった。

「変なの。」

運命とは時に残酷なものなのだ。

よく言う言葉でも、今更になって感じ取る。

神様は何か意味があって私たちをつなげたんだろうか。


ぼーっと天井を見上げて廊下で立ち止まる。

後ろから来た二人組が私の肩にぶつかって通り過ぎていった。

あと、最近、私は避けられている。

誰も彼もが。

目が合っても目をそらされたり、無視されたり。

ぶつかられたり。

何故そんなことになったのかなんてわからない。

友達は多かったはずなのに。



夕暮れの公園でブランコに腰掛けた。

鎖は手にあとを残す。

あの錆びた匂いが漂っていた。

そら、いないかな。

現在時刻6時。

まだ部活をやっているだろう。


「……………。」

すぐ近くの声だった。

すごく遠い声だった。

そらだった。

怖かった。

わかりたくなかった。


「ねえ。」


そんな空気を切り裂く声が耳まで届くのに時間がかかった。

隣のブランコにそらがいた。

「……な、に。」

出てくる声も情けなかった。

「聞いてんの?」

「たぶん。」

「たぶんってなんだ。」

「私にもよくわからないの。」

なんじゃそりゃ、と言いたげなそらは私の顔を覗き込んだ。

私はゆっくりと自分の体をうごかしてそらを見つめる。

「ねえ、さっきなんて言ったの?」

「あたし、死ぬよ。ねえ、死のう?」

「……やっぱり、わかんない。」

わからない、わかりたくなかった。

「それは、どうして?」

「前にも言ったでしょ?意味なんてない。むしろ意味がないことが動機だって。」

「じゃ、私も…」

死ぬと続けようとして声が震えた。

言いたくなかった。

死にたいなんて。

間違っても言いたくなかった。


「私は、死にたくないよ。」


そらのバタバタさせていた足の動きが止まる。

「多分何を言ったって綺麗事にしか思えないだろうけど。こないだと言ってること違うけど。

それでもいうよ。」

私はそらを真正面から見つめた。

茶色の瞳が揺れる。

私はそらの瞳を初めてみたのかもしれない。

遅かった。あまりにも、遅かった。


「私は死にたくない。そして、そらにも死んでほしくない。」


そらは口を少し開いて、閉じる。

冷たい風が私たちを切り裂く。

「ねえ、そら…死なないで…。」

溢れ出る涙は私の体温を奪っているような気がした。


「何でもないことで笑えて、何でもないことで怒って。

今になって気づいたよ。それが幸せなの。

私はそらの事情なんて何一つ知らないよ。どれだけ苦しいのかも。」


私は小さく息を吸って思いっきり叫んだ。

今なら断言できる。



「死んじゃダメだよ!!」



そらのほおにひかるものがある。

「やっぱり……カナタが世界で1番可愛いよ。これは嘘じゃない。」

そらは手を伸ばして私のほおの涙を救った。

そらが初めて私を人間として見つめたような気がした。

今までみたいに道具としてじゃなく。

可愛いっていうのも何百回と言われてきたのに初めての言葉な気がした。


「あたしは正直あんたのことを使える道具だと思ってたのかもしれない。

『ソラのカナタ』だって。

でも、違うよ。」

ソラは私の頭を撫でた。

「私たちは対等な関係になるべきだったんだ。ごめんねぇ…こんなに遅くなってからで…。」

「ううん。遅くなんてないよ。そう思ってくれてありがとう。」

私たちの関係は歪んだものだったのかもしれない。

でも私たちは今日、『道具と人間』から『少女と少女』になれたのだろう。


「ねえ、最後に一つだけいいかな?」

「なに?」

ソラが赤くなった目を擦る。


「大好きって、いって。」


ソラは微笑んだ。


「今までごめん。バカだったよずっと。でもね、あたし……」


ソラは恥ずかしそうに笑う。


「カナタのこと、大好き!」


「私もだよ、ソラ…。大好き。」


カナタの笑顔が綺麗だった。美しかった。


大好きだった。

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