挿話

 血だらけのわたしは、あの人を探すために前へ進む。

 今はただ、あの人に会いたい。


 あの人はずっとわたしの隣にいてくれた。

 そして、いろんなことを教えてくれた。

 わたしの大切な先生だ。


 わたしが話しかけると、いつも笑顔で答えてくれた。

 震える私を、何度もぎゅっと抱きしめてくれた。

 わたしの大切なお姉ちゃんだ。


 あの人のことを考えると心が暖かくなる。

 この暖かさを手放したくない。

 絶対に。


 あの時なにが起こったのか、正直なところ全く分からない。

 あの突然の浮遊感は、床が崩れてしまったということだろうか? 

 一体なぜそうなった? トウリは無事なのか?


 気が付いた時にはケガだらけの血まみれで、瓦礫の山の中にいた。

 普通の人間とくらべて多少頑丈なのですぐには死なないだろうが、叫び出したくなるほどの痛みが全身を襲っている。


 このまま再び何も考えず、横になっているべきだろうかとも考えた。

 けれども。

 あの人を探したい。

 あの人を助けたい。

 

 いつの間にかわたしは、グランシードの中をふらふらと歩き続けていた。

 絶え間ない痛みに涙を浮かべながら。


 痛い。怖い。辛い。もう嫌だ。

 でも。

 それはあの人も同じだろうから。

 

 あの人はいつもわたしを守ってくれた。

 だったら、今度はわたしがあの人を守る番だ。


「大好きだよ」


 あの人はわたしにそう言ってくれた。

 計画の駒でしかなかったこんなわたしを、好きになってくれたのだ。


 わたしは歩く。歩き続ける。

 やがて、わたしは中央コンピュータ『バベル』のある演算室にたどり着いた。


 あの人がいる。

 ベルがナイフを持って、あの人に近づいている。

 

 駄目だ。

 駄目だ、駄目だ、駄目だ。


 わたしからその人を奪わないで。

 その人はわたしにとって、この世で一番大切な人なんだ。

 大好きな人なんだ。


 わたしは足元に転がっていたナイフを手に取る。

 そして、ベルに向かって走り出した。


 総統を、くおんを、守りたい。

 頭の中にあったのは、ただそれだけだった。

 

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